第三十二話 道連れ(みちづれ)
第三十二話 道連れ(みちづれ)
(私がこれほどまでにランのそばにいたいと強く望むのは、ランに操られているからだ。)
ライラはその場に凍りついた。この認識は冷たい毒のように、素早く彼女の思考に染み込んだ。
ランは私の心の奥底の渇望を操り、私の一瞬一瞬の考え、一挙一動を操っている。
私の全ては、ランに操られた結果なのだ。
「違う…」ライラは反論を絞り出したが、震える声は体が既に残酷な現実を受け入れていることを露わにしていた。
「私が…自ら彼女のそばにいたいと思ったんだ」彼女の心はまだ最後の抵抗を続け、この全てを否定しようとしていた。
(私が彼女の願いに応えたんだ…私が自発的に…)ライラは心の中で無言で叫んだ。
明らかに当時彼女のそばにいると約束したのは私なのに、なぜ今になって、この気持ちがランに操られていたと言うのか!
エルリスは冷たい目で彼女の動揺を見つめ、慰めようとはしなかった。
「当時の君は、まだ魔術師ではなかっただろう」彼女の口調は淡々としていたが、ライラの最後の幻想を一突きに突き破るものだった。
「君には『魔術師の約束』を果たすことなど不可能だ」当時の「普通人」であるライラには、ランの魔法契約に応じる資格などなかった。
身分の溝はとっくに決まっており、この契約を主導できたのは、魔術師であるランだけだった。
「それにランの態度も、全てを物語っている…」エルリスは追撃を続け、ランへの病的な執着を断ち切ろうとした。
「彼女は君と一緒にいたくないのだ」たとえあの約束があったとしても、ランが今これほど強く拒絶していることが、何よりの証拠だった。
ライラの瞳孔は激しく震えた。全ての証拠が指し示す方向は、彼女にこの冷たく刺すような現実を受け入れさせる無形の手のようだった。
「君は一方的にランに操られている」
「彼女が君に『そばにいたい』という強烈な渇望を生み出させたのだ」操られていたのは、初めから終わりまで、目の前の金髪の少年ただ一人だった。
ラン自身は、それによって何の束縛も受けていなかった。
何しろ、当時は彼女が一方的にランの願い――誰かと一緒にいたい、もう一人でいたくないという願い――に応えただけだからだ。
「通常、操られているという事実を認識すれば、支配の効果を弱められるはずだ」
「この種の精神に影響を与える魔法の効力は、当人の認識と思考に大きく依存するものだ」
エルリスは彼女を導こうと、注意をランからそらすように促した。
「一緒にいたいという思いも、物理的にべったりくっついている必要はないだろう?」
「そう考えてみることで、君は自分の行動をコントロールし始められるかもしれない」そうすれば、あの執念が爆発し制御不能になる事態は起こらなくなるかもしれない。
「違う…」ライラは拳を握りしめ、心の中ではまだ激しく否定したい衝動があったが、口に出た声はまるで認めたかのように弱々しかった。
エルリスは彼女を見つめ、そっと彼女の肩に手を置き、この残酷な真実の分析を続けた。
「ランは当時、エイブリンが消えてしまうことを極度に恐れていた。だから心の奥底で誰かが『永遠に』自分のそばにいてくれることを強く渇望していた」
「そして君は、ちょうどその時彼女の目の前にいて、精神は殺人犯の悪霊に侵食されていた…」
エルリスの声がライラの耳元で響き、一言一句が彼女の残された幻想を粉々に砕いた:
「ランは直接君を操ったわけではなく、君にまとわりついていた悪霊たちを操り、彼らにこう思わせたのだ――」
「『彼女のそばにいなければならない』と」エルリスの口調は霜のように冷たく、隠し立てはなかった。
彼女は手を離し、虚ろな目をしたライラの瞳をまっすぐに見つめた。
「ラン本人は、自分にそんな能力があることを知らない」
「これは彼女の両親に関係しているが、彼女は確かに逆方向に操る魔法を持っている」この能力は彼女が他人に召喚されることを止められないが。
「これが私たちが彼女をもっと強くなるのを止めなかった理由の一つでもある」
「ランは、操られることのない魔術師なのだ」エルリスが宣言した。
エルリスは石像のように沈黙するライラを見つめた。
(ただ思いもよらなかった…彼女が自分の魂をランと強引に繋ぎ合わせるなんて…)これは普通の魔術師がすることではない。
(それにランが一人でいることをそんなに恐れているなんて…)明らかにエイブリン以外の人との交流さえ拒むのに。
「どうやら、君には思考を整理する時間が必要なようだ」エルリスは言った。
衝撃的な情報を一度に受けすぎると、彼女は消化できないだろう。だがはっきり言わなければ、彼女はこの偽りの執念の中に落ち込み続けるだけだ。
魔法は、そもそも複雑で難解な領域だ。
ランが持つこのユニークな魔法でさえ、彼女たちはその仕組みを完全には理解できていない。
特にラン本人が全く気づいていない以上、もし彼女に知らせたら、無意識のうちに周囲の人を操ってしまうかもしれない?これは未知のリスクだ。
「まずは帰ろう」試験結果は明日見ても遅くない。
エルリスはそう言いながら、ライラに視線を落とした。
「じゃあ…私がやってきた全てのこと、何の意味があるんだ…?」金髪の少年はうつむいたまま、声をかすれさせた。
生まれ育った王国を離れ、エイブリン様の家に向かい、ランに嫌われ、再び去る…
「魔術師になること…この全ての全てに、一体何の意味があるんだ!」彼は激しくうめくように叫んだ。言葉が終わらないうちに、無数の墨のように黒い腕が突然現れ、ねじれ、もがきながら、彼の体を死に物狂いで掴んだ!
「暴れるな、レイ!」エルリスは再びこの恐ろしい光景を目撃し、瞬間的に最高度の警戒態勢に入った。心の中では一瞬、なぜさっきエイブリンの前では全く影もなかったのか、とすら思った。
「いや、ライラ」エルリスは彼女の本名を呼び直した。
「私は今、君の師匠だ。君が何かしようとするなら、私は必ず止める」エルリスの表情は厳粛で、口調は断固としていた。彼女の師匠として、彼女の魔法を間に合うように止められる自信があった――ただし、予測不能な**黒の魔法使い**の魔法でなければの話だが。
「エイブリン様…」金髪の少年は夢うつつのようにそっと呼んだ。
微かな光を放つ扉が彼の横に忽然と現れ、エイブリンの姿が扉の中からゆっくりと歩み出た。彼女の目は虚ろで、足取りは硬直し、まるで見えない糸で操られた精巧な人形のように、無表情で彼のそばまで歩いてきた。
「まだ遠くへは行ってなかった…本当に良かったですね…」ライラは低く呟き、口調には不気味な満足感が混じっていた。
エイブリンはただ彼のそばに静かに立ち、心身共に完全に掌握され、自我意識は全く残っていなかった。
「エイブリン…!」エルリスはエイブリンの虚ろな姿を見て、怒りが瞬間に燃え上がり、ライラを睨みつけて怒鳴った。
「魔法都市は空中を移動し続けるため、空間座標が極めて不安定です」金髪の少年は手にした水色の魔法書を抱え、本から得たばかりの知識を平静に復唱した。
「長距離の瞬間移動はリスクが極めて高いが…短距離の移動なら、まだ可能です」特に彼女が魔法都市にいる時は。
ライラは手を伸ばし、そっとエイブリンの裾をつかんだ。
「彼女が到達できない場所へ行きましょう」言葉が終わると同時に、幽かな光を放つ扉が彼女たちの足元にぱっと開いた!
二人の姿はエルリスの眼前から瞬間的に消えた。
「ライラ――!」エルリスは一人で空っぽの部屋に立ち、怒りと無力感が潮のように押し寄せ、彼女を飲み込みそうだった。
---
「瞬間移動魔法の発動条件は、術者がかつて到達した場所でなければならない」
ライラはそっと手にした魔法書を閉じた。
「なるほど…ここは、確かに彼女が簡単には来られない場所ですね」彼女は周囲の骨の髄まで馴染んだ環境――この彼女が幼い頃から育った寝室を見渡した。
アカンシア王国。
金髪の少年の視線が部屋を掃った。全ての調度品は彼女が去った時と変わらず、空気中の埃さえも見覚えがあった。
「まあ、よく考えれば、これら全てはほんの数日前のことだ」彼女の視線はそばのエイブリンに向けられた。
「エイブリン様」ライラは優しく呼びかけ、裾をつかんでいた手を離した。
エイブリンの元々虚ろだった目は、霧が晴れるように、次第に澄み切った光を取り戻し、意識が瞬間的に戻った。
彼女は首を回し、素早く周囲を見渡し、一瞬にして現在の状況を理解した。
「何をするつもりだ?」エイブリンは単刀直入に尋ねた。口調は予想外に落ち着いていた。
彼女は金髪の少年が部屋の奥へと歩いていくのを見つめた。サングラスをかけた目が、室内の慣れ親しんだ隅々をゆっくりと見渡している。
「エイブリン様は…とっくにご存知でしたか?私がランに操られていることを」ライラは机の上に残された本を適当にめくりながら、感情のこもらない口調で尋ねた。
「今日知った。正確には、推測した」エイブリンはその場に立ち、率直に応じた。
「何しろ…君とランの間のやり取りは、あまりにも奇妙すぎたからな」エイブリンはここ数日の理不尽な兆候を思い返した。
(私の頭にこびりついていたあの考えも含めて…)この全ては、まるで見えない糸に引かれているようだった。
「私はてっきり…エルリスに君に真実を伝えさせれば、君はもっと理性的な選択をするだろうと思っていたのだが…」エイブリンは諦めのため息をついた。
結果は今の事態に発展した。彼女は再びこの王国の王女の寝室を見渡した。
(ランの方は…どうなっているだろう…)さっきまでランと一緒にいたのに、今突然消えてしまった。ランはどんな反応を示すだろうか。
「今の私は…頭が最もクリアな時です」金髪の少年の口調は軽快で、むしろ幾分楽しげだった。
顔にはもはや入念に彫琢された仮面はなく、代わりに心の底から湧き上がる、陰鬱で冷たい微笑みが浮かんでいた。
(私がランに操られていた真実を知って以来、私の意識はかつてないほどはっきりしている)
「どうやら私のこれまでの考え…全てはランに操り出されたものだったのですね…」彼女は手を上げて顔を覆い、肩をわずかに震わせた。悲しんでいるように見えたが、実はただ自らを騙していた仮面をようやく剥がしただけだった。
「天にも真っ直ぐに…自分はランに救われたのだと思い込んでいました」彼女は感嘆した。口調には奇妙な、ほとんど解放感に近い受容が込められていた。
ライラは手を下ろし、顔を上げ、最初から一歩も動いていないエイブリンを見た。
「では、エイブリン様の頭は…今は少しはっきりしていますか?」金髪の少年が尋ねた。
「そうだ…」エイブリンは応じた。目は寒い泉のように澄み切って鋭くなった。
「私は、君がランからできるだけ遠くに離れてほしい」
---
部屋の中で、二人は静かに対峙していた。
しかし、閉ざされたドアがその時、ゆっくりと押し開けられ、一人のメイドが入り口に現れた。
「王女陛下…?」メイドは思わず口にし、部屋の中のエイブリンと、サングラスをかけた金髪の少年を疑わしげに見つめた。彼女の姿は変装していても、生まれながらの高貴な気品は感じ取れた。
金髪の少年がゆっくりと振り返り、サングラスの奥の視線が淡々と彼女を一瞥した。
メイドは驚きの声すら上げる間もなく、瞬間的に意識を失い、ふらりと後ろに倒れた。
「なぜ彼女を眠らせた?」エイブリンは素早く倒れかかるメイドを支え、ついでにドアを閉めた。
自分が口頭での命令なしに自動的に動いた体に、彼女は一抹の違和感を覚えた――まるでこの肉体がもはや完全に自分のものではないかのように。
操る本質は、命令にあるのではない。魔術師の意識の参加すら必要とせず、必要なのはただ「操る者の意思」だ。
(だが…なぜ今、私の意識を呼び戻す?)エイブリンは深い疑問を抱きながら、部屋の中の金髪の少年を見た。
ライラは気にも留めず、ただ自分の机の上の古いノートを静かにめくっていた。
彼女はあるページで止まり、ノートを机から持ち上げ、手に抱えた。
「ねえ、エイブリン様」サングラスの下で、彼女はゆっくりと口を開いた。
エイブリンは昏睡したメイドをそばの椅子に寝かせていた。
「もし私が死んだら…」ライラの視線は手にしたノートの上に落ち、声は平穏そのものだった。
「あなたは私の他の家族に操られるのでしょうか?」
「いいえ」エイブリンは断固として答えた。
「操る者は、移行できない」操る者は現在の対象者だけだ。
(操る者を変更するには…膨大な代償が必要となる…)通常の方法は、操る価値を失った魔術師を生贄にし、新しい魔術師を召喚して掌握することだ。
「そうですか…」ライラはそっと応じ、手にしたノートをゆっくりと閉じた。
彼女はこの過去を担ったノートを、再び机の上に置いた。
「お、お前この野郎──!」怒りに満ちた咆哮が魔法陣の光と共に突然炸裂した!
ランの姿がきらめくテレポート陣の中から猛然と飛び出し、部屋の中央に現れた!彼女の黒い瞳孔の周囲は血走り、雷霆の勢いで拳をライラの顔面に叩き込んだ!
ライラは不意を突かれ、その力に直接地面に打ち倒された!サングラスと魔法帽が飛び散り、輝く金色の長い髪が滝のように冷たい床に広がった。
エイブリンはそばに立ち、静かに見つめ、止めようとはしなかった。
ランはその勢いでライラの上にまたがり、両手で彼女の襟首を死に物狂いで掴み、上半身を地面から持ち上げた。
「何が目的だ!また師匠を操るなんて!」ランの声は極限の怒りで激しく震え、恐怖と狂怒が彼女の目の中で絡み合っていた。
「くそ…」彼女の食いしばった歯がガチガチと音を立てた。
「お前と道連れだ!」




