第二十一話 招待
**第二十一話 招待**
数人の魔法使いが杖にまたがり、屋根の上を旋回していた。
「ここが『辺境の魔女』エイブリンの住まいだ」先頭の魔法使いが声を潜めて言った。
「どうやって彼女を引きずり出す?」
「待つしかない。魔法使いは他人の家に無断で入ってはならん」仲間が固く閉ざされたドアや窓を凝視している。
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屋内で、ランは食卓の小さな精霊がお皿の残りをぺろぺろと舐め尽くすのを見つめていた。
精霊が横を向き、手つかずの料理に舌を伸ばそうとした瞬間、ランがさっと手を差し伸べて遮った。
「これはダメ」ランが言う。
精霊はしょんぼりと空の皿を舐め続けた。
突然、ノックの音が静けさを破った。
「この時間に誰だ?」ランは不審そうにドアを見た。
(師匠は客人が来るなんて言ってなかった……)
立ち上がるランの動きに、食卓でうたた寝していた王女が目を覚ました。
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ランがドアを開けると、青い魔術師ローブをまとった三人の魔法使いが立っていた。
(東の魔女?)ランは思った。昨日訪れた南の魔女たちは赤いローブだった。
「ごきげんよう、『孤僻な魔女』ラン殿」先頭の者が礼儀正しく一礼した。
「お邪魔でしょうか、お屋敷にお入りさせていただけますか?」
「用がなければ閉めるぞ」ランは閉めようとするそぶりを見せた。
「お待ちを!」彼らは慌てて止めた。
「我々は召喚魔術師事件の調査に参りました」魔法使いが声を潜めて核心を述べた。
「エイブリン様の他に、あなたも召喚されたことがありますな?」
「どうして知ってるんだ……?」ランの瞳がわずかに縮んだ。
「これゆえです」相手が羊皮紙を広げた。
そこにはランの名が不気味な赤い光を放っていた。
「召喚された者の名は色を変えるのです」
「師匠は鎖に縛られた状態になるって言ってただけなのに……」ランが呟く。
「色も変わるのか?」
「隷属魔法が発動しなかったせいか……」彼女は思わず推測を口にした。
三人の魔法使いはたちまち興奮した。
「ぜひとも東魔協会へお越しください! これは召喚魔法を解く鍵になるかも──」
言葉が途切れた。彼らが目を見開いてランを見たのは──金髪の少女がゆっくりと歩み寄ってきたからだった。
「なぜ魔封士がここにいる?!」魔法使いたちは一瞬で警戒態勢に入った。
「ああ、これは理由があって……」ランは慌ててライラの前に立ち塞がった。
「ラン、何かあったの?」ライラが優しく尋ねた。
その声に、ドアの外の魔法使いたちはさらに怒りを増した。
「余計なことするなよ……」ランは頭を抱えた。
「飯を食え、テーブルの上に置いてあるだろ?」
このままじゃ精霊に食われちまう。
「ランと一緒に食べたいの」
「俺は食い終わった。部屋に戻る」
「じゃあ、ランは私が食べるのを見てて~」
「なんで俺がそんなことしなきゃいけないんだ!」
二人の何食わぬ顔の会話が、ドアの外の三人の東の魔女たちの怒りを完全に爆発させた。
「『孤僻な魔女』ランよ!」先頭の者が厳しく叫んだ。
「魔封士と親密になるとは、我々はお前を見誤っていた!」
「はっ……?」ランは呆然とした。
「親密だって言われたわよ~」ライラがくすりと笑う。
「はあ、早く飯食え」ランは彼女を食堂の方へ押した。
「とにかく……」ランは魔法使いたちに向き直った。
「師匠が言ってた。手土産を持ってない客は入れるなってな」
「以上」言葉が終わるか終わらないうちに、ドアはドンと閉められた。
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「昨日の人たちとは少し違うみたいね」ライラは固く閉ざされた扉を見つめた。
ランは彼女を一瞥し、階段へと向かった。
「ラン、付き合ってくれないの?」ライラが立ち尽くし、ランを見つめた。
「部屋に戻る」ランは冷たく言った。
ノックの音が再び響いた。
「開けないの?」
「無視しろ」ランは振り返らずに階段を上り始めた。
「師匠が言ってた──」
ドアがギイイと開く音が言葉を遮った。
ランが慌てて振り返ると、ライラが既にドアを開けているところだった。
「何かお手伝いできることは?」
彼女は礼儀正しく、外で怒り心頭の魔法使いたちに尋ねた。
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「お前、魔封士が何故ここにいる!」彼らは興奮して叫んだ。
「魔封……私のことを指してるの?」ライラは首をかしげ、考え込むと微笑んだ。
「だって、私は魔法使いになって、ランのそばにいたいから」
「何をデタラメを……」ランが駆け寄り、ドアノブを奪おうとした。
「ランが一緒にランチを食べてくれないなら、この方々を『お招き』してもいいんじゃない?」
「勝手に決めるな!」
時すでに遅し。三人の魔法使いは敷居をまたいでいた。
「これは……どうも」彼らは無表情で屋内へと入った。
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「全部お前のせいだぞ!」ランはキッチンで腹立たしそうに紅茶を淹れていた。
「訳も分からず怒られるのはごめんだわ」ライラはのんびりと昼食を味わっている。
「手土産持ってないやつは入れるなって言っただろ!」
「そう言われただけじゃ分からないわよ」
食卓のそばで、魔法使いたちは姿勢を正して座り、目は金髪の少女を釘付けにしていた。
「で、お前は魔法使いになりたいと?」一人が詰め寄るように問いかけた。
「どうやって魔法使いの存在を知った?」
ライラは優雅にナイフとフォークを置いた。
「なぜ私があなた方にそれを話さなければならないのでしょう?」彼女は微笑みながら言った。
「ふざけるな! お前が我々を招き入れたんじゃないか!」
「ふむ~招き入れた?」彼女は考え込むふりをした。
「皆さん、勝手に入ってこられたのでは?」手土産と何の関係があるの?
ランが紅茶のカップを置いた。
「飲んだらさっさと帰れ」彼女は招かれざる客をにらみつけた。
「クッキーは俺のだ!」絶対にやらないぞ。
「ラン、それじゃ失礼よ」ライラがそっと注意した。
「お客様にはお茶菓子を用意するのが筋よ」
「お前が入れたんだろうが!」
ランが抗議するように言った。
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「ちっ……」ランは傍らで引き出しをガサガサと引っかき回し、クッキーを探していた。
「さてと……」ライラがナプキンで口元を拭いながら、口調を変えた。
「次は私が質問させてもらうわね」彼女が言った。
「皆さん、非魔術師をとても嫌っていらっしゃるようだけど、なぜ?」
「我々は元々別世界の住人だ」
「他の国々も魔術師を敵視しているではないか?」お互い様だ。
「奴らに召喚され、隷属させられると思うと腹が立つ」
彼らは憤慨しながら言った。
「でも皆さんが魔法使いになる前は、普通の人間ではなかったのですか?」ライラが尋ねた。
「魔封士と我々を同列に扱うな!」魔法使いが机を叩いて立ち上がった。
「我々は見習い魔女になる前から、多くの知識を学んでいるのだ」
幼い頃から魔法のある世界で育ち、我々の世界観は異なる。
「だいたい10、11歳で師匠を探し、15、16歳で正式な魔女となる」
彼らは誇らしげに言った。
「それってすごいことなの?」ライラがクッキーを探すランの方へ振り返った。
「 ん…」ランは顔も上げず。
「知らね、俺は十四歳で上級魔女だ」
ランはそう言うと、棚を引っかき回し続けた。
「『孤僻な魔女』と我々を比べるな!」
(比べちゃいけない人って多いのね)ライラがくすりと笑う。
「彼女は元賢者、エイブリン様の弟子だぞ!」
エイブリン様は長年、弟子を取らなかったのだ!
「あった!」ランが一袋の真っ黒焦げのクッキーを高々と掲げた。
「前に失敗したクッキーだ」彼女は誇らしげに宣言した。
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