第十八話 接近の試み
**第十八話 接近の試み**
「行ってらっしゃい、エイブリン様」
玄関で、金髪の少女が礼儀正しく見送った。
門の外には、オレンジがかった長い髪をした女性が杖を持ち、姿変えの魔法帽子をかぶって立っていた。
彼女は辺境の魔女──エイブリン。
「俺がいない間、しっかり家を守っておけ」
彼女は帽子のつばを引っ張りながら、落ち着いた口調で言った。
「師匠、今回は若すぎる姿に変えてるじゃないか……」
傍らの黒髪の少女は眉をひそめた。
彼女は孤僻な魔女、ラン。
「ライラ、ランを見ておいてくれ」
エイブリンは珍しく直接金髪の少女に言った。
名前を呼ばれた彼女は、思わずほのかに微笑んだ。
「はい、エイブリン様」
「え? なんでこいつに俺を見張らせるんだよ!」ランは不満そうに叫んだ。
「とにかく二人とも大人しく家にいろ」
そう言い終えると、彼女は杖の上に座り、空へと飛び立った。
「余計なことするなよ」
風が吹き抜けると、彼女の姿はもう見えなかった。
「やっぱり魔法使いって飛べるんですね……」
ライラは空を見上げ、小声で感嘆した。
「魔法陣とか突然扉が現れるみたいな登場じゃなくて……」
ランは相手にせず、振り返らずに家の中へと入っていった。
「ラン~、今日は何をしましょうか?」
ライラがドアを閉めると、ランに続きながら軽やかな口調で言った。
「俺は部屋に戻る!」
ランは振り返りもしない。
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彼女が二階に上がり、ドアを閉めようとした瞬間、手が片手で押さえられた。
「何するんだ?」ランは眉をひそめた。
「一緒に遊びましょう」
ライラはドアの前に立ち、微笑んでいた。
「いらない」ランは容赦なく拒否した。
「お前の部屋で一人で遊んでろ。布団は洗ったら渡す」
冷たい言葉を投げ捨て、ランはドアを勢いよく閉めた。
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拒絶されたライラは自分の部屋に戻った。
何もないツインベッドがひときわ広く感じられた。
彼女はベッドの縁に正座し、手でランが昨夜うつ伏せになっていたであろう場所をそっと撫でた。
「どうすればいいんだろう……」
俯せになってベッドに顔を埋めながら、彼女は小声で呟いた。
(過ちは、なかなか許されるものではない。)
それでも私は、彼女のそばにいると決めた。
たとえその方法が彼女に嫌われても……
たとえ……私がただ死にたくないだけだとしても。
「私は本当に身勝手だな……」
ベッドの縁にうつ伏せになり、自嘲した。
グレンヴァルクを彼らに倒させ、今はエイブリン様を操っている。
ランが弱っていた隙を突いて、私は生き延びた。
だが──
「でも、もう起きてしまったことだから……」
彼女は体を起こし、見知らぬ部屋を見上げた。
「受け入れなければ」
最も難しい問題は──ランが、彼女を嫌っていることだった。
(あの暗闇の中では、彼女の心を感じられた……)
彼女は机の前に座り、メモで埋め尽くされたノートを見下ろした。
(今は──はっきりと感じる。彼女はとても、とても私を嫌っている)
彼女は気まずそうに笑った。
「昨日より、もっと嫌われてるみたいですね……」
「昨日、エイブリン様のところに泊まりに行ったのは、やっぱり間違いだったのかな」
でも──ランも後から来た。
彼女の口元が緩んだ。
「やっぱり……彼女は寂しがり屋なんですね」
何せ今でも彼女の心は感じられるし、以前よりも強く感じられる。
なぜなら、今の私たちは繋がっているからだ。
(だからこそ──彼女の私への嫌悪は、隠しようもない。)
「何か、突破口があればいいんだけど……」彼女は小声で呟いた。
(それともエイブリン様から攻める……?)
何せ彼女はランが唯一心を許している相手だ。
(とはいえ、私はエイブリン様を操れるとはいえ……)
ランにとってはセンシティブすぎる。
「何かいい方法はないかな…」彼女は考え込んだ。
ノートにびっしりと書き込まれた、ランに関するメモを見つめる。
「王国にいた頃は……」特にグレンヴァルクが来る前は。
「ランもそこまで私を警戒していなかった」
ケーキを一緒に食べたり、話をしたりもした。
当時、わざと距離を置いていたエイブリン様とは違って。
「あれは魂が繋がっていたせいで、なぜか親しくなれただけかもしれないけど……」
あるいは、私の意識が徐々に蝕まれ、王国を守ること以外に意図がなかったからか。
「一番好きなケーキは苺のショートケーキ……」彼女はノートに書かれた内容を読み上げた。
「お茶は砂糖入りの紅茶で、苦い味は苦手」
普段は彼女がエイブリン様に料理を作っている。
備考:エイブリン様の料理はどれも不味いからだと言っていた。(確認済み)
魔女は肉をあまり食べないが、魔物の肉は別。
普通の肉より面白い独特の食感がする、と言っていた。
彼女はため息をつき、ノートを閉じた。
「ほとんど食べ物の情報ばかりだ……」ノートを見つめ、眉をひそめた。
(しかも、半分くらいは無意識だった。)食事の時間くらいしか彼女と接していなかった。
彼女はノートを抱え、何もないツインベッドに横たわった。
「もっと彼女のことを知らないと……」
「でも彼女は私を拒絶してくる……」彼女は天井を見上げた。
「エイブリン様は、私が聞かない限り、自分からは何も言わない」
彼女の視線がドアへと移った──そのドアの向こう側が、ランの部屋だ。
「何度も断られる覚悟が必要ですね」彼女は小声で呟き、ゆっくりと目を閉じた。
「ラン……何があっても、私はあなたから離れたりしない」
彼女は一人で自分よりずっと大きなツインベッドに横たわり、ゆっくりと目を開けた。
「たとえあなたに嫌われても、私はずっとあなたのそばにいる」
だって、これが私とあなたの約束だから。
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昼。
ランはそっとドアを開け、向かいの閉ざされたドアを一瞥した。
「師匠はいつ戻るんだろう……」
「昼ごはんどうしよう……?」
彼女は階段を下りた。
キッチンで、金色の長い髪をした少女が行ったり来たりしているのが見えた。
「左右に揺れる青菜に、その場でぽよんぽよん跳ねるキャベツなんて初めて見ました……」彼女が言う。
「ネギネギ! ネギネギネギネギネギ!」 そして傍らではネギネギ言う長ネギ。
彼女は怪訝そうにそれらの植物を見ていた。
目の前は、台所の惨劇だった。
「何してるんだ?」ランは眉をひそめた。
金髪の少女はてんてこ舞いで野菜と格闘しており、ランが下りてきたのを見ると、すぐに笑顔を見せた。
「ラン、来たんだね!」
「私、ランに昼ごはんを作ろうと思ったんだけど……」
(なじみ深いはずの食材なのに……わからない。)
彼女は少し気まずそうに笑った。
(料理で距離を縮めようと思ったのに……)
ランは冷たく言い、キッチンに入った。
「昼飯は俺が作る。台所を触るな」
「これは普通の人間が扱える食材じゃない」
「じゃあ、ランが料理してるのを見ててもいい?」彼女は傍らで提案した。
「いいよ。できたら部屋に持っていくから」
ランの口調は冷たく、片手で傍らの包丁を取った。
そしてズバッと、跳ねているキャベツに突き刺した。
「お前がここにいると邪魔だ」
彼女は包丁を抜き、振り返って食材の準備を続けた。
「──お断りします」
金髪の少女が突然言った。
ランは振り返り、理解できないという顔で彼女を見た。
「は?」
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