第十四話 少女たちのダンス
第十四話 少女たちのダンス
魔法協会――大陸中の魔法使いと魔法活動を管理する組織で、七大賢者によって構成されている。
「つまり、彼女に操られていると?」
「辺境の魔女、エイブリン」
三人の魔法協会のメンバーが食卓に厳粛な面持ちで座り、尋ねた。
「そう言ってもいいだろう」エイブリンは落ち着いた声で、少しも動じていない。
「では今の言葉は、操られた状態で発言したものか?」
「わからない」
「そうでもあり、そうでないでもある」エイブリンは淡々と答える。
「これは緊急事態だ……」
一人が低く呟く。
「早急に隔離し、制御を解除すべきだ」
「だがグレンヴァークの願いが残っている……」
「これは我々の権限を超えている」
「彼女の魂は今、私の弟子と繋がっている」
「もし彼女に危害を加えるなら、私も反撃する」
エイブリンの声には重みがあり、目は鋭く光る。
かつて七大賢者の座を拒んだ――辺境の魔女、エイブリン。
彼女は一人でこの深山に隠遁した。
誰にも知られず、一人の弟子を取った。
それが生涯最後の弟子、孤僻な魔女――ランだ。
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「では……また来る」
三人の協会メンバーは杖を持ち、家の外に立つ。
「二度と来るな……」エイブリンは眉をひそめる。
(人里離れた山に来たのは何のためだと思ってるんだ……)
「ああ、次来る時は手土産持ってこい」
ドアの隙間から付け加える。
「でないと中に入れないぞ」
「私はブルーベリーケーキ、弟子はイチゴの、残り一つは適当でいい」
そう言い残し、ぱたんとドアを閉める。
(……来るなと言われたはずだが?)
三人は困惑しながら立ち尽くす。
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「はぁ、まったく……」
窓から三人が転送陣で去るのを見届け、ようやく肩の力を抜く。
「さて次は……」
二階へ続く階段に視線を移す。
「ダメ!」上がろうとする前に、ランの叫び声が聞こえる。
家の二階。
「ここは私の部屋、入るな!」ランはドアの前で両手を広げて立ちふさがる。
「部屋を選ばせてくれるんじゃなかったの?」
金髪の王女は廊下に立ち、当然のように言う。
「ちゃんと選ぶには、全部見て回らないと」微笑む。
「私の部屋だけは例外、選ばせない!」
「二人で一室も悪くないと思うけど」まだ微笑んでいる。
「一緒に住むなんて絶対嫌だ!」ランは激しく言い放つ。
「これから一緒に暮らすんだから、早く慣れた方がいいんじゃない?」
「そうとは限らないよ」ランは悪戯っぽく笑う。
「協会の連中があんたを連れ去るかも!」
金髪の王女は彼女を見る。
「そうなったら、エイブリン様も一緒に行くことになりますよね?」
「師匠を連れ出すな、この野郎!」
「でも……他の部屋は倉庫みたいに物が積まれているし」
考え込む。
「私の部屋もだけど……」ランは自嘲的に小さく呟く。
「とにかく、一度見せてもらってから決める」
「ダメだって言ってるだろうが!」
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「今度は何を騒いでいるんだ……」
階下のエイブリンは二階の廊下での騒ぎを聞きながら、ため息をつく。
「師匠、協会の連中は?」
「帰った」淡々と言う。
(それに手土産も持ってきてない……)
(帰ってからまた来いと言うつもりだったのに。)
「部屋は決まったか?」エイブリンが尋ねる。
「嵐様と同室希望です」王女は優しい声。
「ああああ嫌だ!嫌嫌嫌!」ランは激しく叫ぶ。
「それはお勧めしない、別の部屋にしろ」エイブリンはため息をつく。
「はぁ~私の言うことを聞いてくれるかと思ったのに」金髪の王女は不気味な声で言う。
「操っても無駄だ、勧めない」
「あの子は変なものを拾ってくる癖があるからな」
「一階に置くのは禁止した」
だから一階だけはきちんとしている。
「別の部屋を選べ、ランが片付けてやれ」
「え!?なぜ私が片付けなきゃいけないの?」
「二階のほとんどがお前の物だろうが」
「これを機にきれいにしろ!」
そう言い残し、キッチンへ戻り夕食の支度を始め、二階で対峙する二人の少女を残す。
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「師匠はこの価値がわかってないんだよ……」
黒髪の少女は文句を言いながら、念力で荷物を運ぶ。
(それになぜあいつを追い出さないんだ……)
(本当にあいつを魔法使いにする気なのか……!)
「この部屋にはベッドがないですね」
王女はスーツケースを運び入れながら。
(それに私の部屋の真向かいを選んだ……)
(一番距離が近い部屋……)
「床で寝ろ」ランは適当に答える。
「じゃあ夜は嵐様の部屋で一緒に寝ます」
恥ずかしそうに言うふりをする。
「絶対ダメ!!!」即座に拒否。
「私は二人で一つのベッドも構いませんよ」
「……あんたが構わないこと多すぎる!」
(私の意思は聞かないのか!!)
「確かどこかの部屋にベッドが残ってたはず……」ランは小声で言う。
「ど……どれだったかな……」考え込む。
「ねえ、嵐」彼女は澄んだ声で呼びかける。
「私は二人を傷つけない、約束する」
ランは振り向いて彼女を見る。
「政治家の言葉は信用できない」
不信感丸出しの表情。
「まあ……確かに」自分でも認める。
(……否定しないのか!)
「でも私が魔法使いになったら信じてくれる?」顔を近づけて聞く。
「嘘つきは魔法使いになれない」ランはきっぱり言う。
つまり、政治家は魔法使いにはなれない。
(つまりあいつはなれない!)
妙に嬉しい。
金髪の王女はわけもなく喜ぶ黒髪の少女を見て、微笑む。
手を取る。
「おい、何する……?」
ランは驚いて彼女を見る。
手を引かれ、部屋の中で足を絡ませながら動かされる。
階下で料理を作るエイブリンは物音を聞くが、気に留めない。
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部屋で手をつなぎ、奇妙なダンスをしているようだ。
「あの時……本当に正気を失ってたの?」ランは首を傾げる。
あの時、王宮でも同じことが起きた。
「何の話でしょう?」無邪気な顔。
「でも、暗闇の中で……誰かと踊ってたような記憶がある」
彼女はランの手を引く。
「彼女がとっても寂しそうで……」
一人は本当に寂しい。
「だから傍にいてあげないと、って思った」
もうほとんど何も見えなくなっていたのに。
そう言うと、ランは視線を逸らす。
「ベッドのありか思い出した……」
急に手を離し、ドアへ向かう。
「私が戻るまで、他の物に触るな!」
きつい口調で言い残し、去っていく。
「うん」王女は部屋に立ち、呟く。
「ゆっくりと、受け入れてもらうしかないわね……」
暗闇の中、
目の前には一本の白い糸だけが、かすかな光を放ち、
周囲の闇を照らしていた。
その糸が切れた時、
残されたのは私を包む暗闇だけだった。
――突然、一つの手が私に向けられた。
彼女は誰かに傍にいてほしかった。
そして私は、それに応えた。




