第十一話 君を殺す
第十一話 君を殺す
「お前この……」青ざめた顔で彼女を見る。
「馬鹿弟子が!」
私は辺境の魔女エイブリンの弟子で、二つ名は「孤僻な魔女」――ラン。
今、師匠にこっぴどく怒られているところだ。
「え!?なんでまた怒るのよ!」
「師匠が戦いに参加させてくれなかったからじゃない!」
心配させた師匠が悪いんだ!
「邪魔になるからに決まってるだろ!」
「は!?私は師匠の唯一の弟子よ!?」
邪魔扱いとは!
「いつもトラブル起こしてるくせに!」
一番手のかかる弟子だ!
「師匠だって召喚されてきたじゃない。おあいこでしょ」
「私は仕方なかった!お前は避けられたのに残ったんだろ!」
「間違った魔法の使い方を見ると、つい正したくなるんです!」
「師匠だって魔法の原理を理解するまで使うなって言ってたじゃない!」
「一般人に魔法の話をするなとも言ったはずだ」
「で、でも召喚されたんだから、彼女は一般人じゃないでしょ!」
「魔法使いになる前はみんな一般人!」
「うっ……」この論戦は辺境の魔女エイブリンの勝利に終わった。
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「あの、何が起きているのかよくわからないのですが……」
傍らで金髪碧眼の王女は理由もなく流れる涙を拭いながら口を開いた。
「私は今、嵐様と離れられない状態なのでしょうか?」
「いや、離れられないわけではない」
エイブリンは冷静に言う。
「代償を払えばいいだけだ」
(王国の住民にかけた睡眠魔法も、そろそろ解ける時間……)
それまでにこの繋がりを解かなければ。
(グレンヴァークを倒した今、王女はランを強く縛る必要もないはず……)
彼女の周りの悪霊が消えたのも謎のままだった。
(まずは二人の繋がりを解いて……)
二人に向けて掌をかざす。
(ラン、実は教えてなかったが……)
彼女の全身が光り始める。
(グレンヴァークを倒した魔法使い――)
(三つの願いを叶えられ、自身は代償を払う必要がない)
とはいえ「世界を支配する」ような願いは無理で、
せいぜい一つの王国を統治する程度だ。
「帰ったらしっかり反省しろ、ラン」
エイブリンは言い、魔法を発動させようとする。
その時――
「お二人は帰られるんですね……」金髪の王女が不気味な笑みを浮かべて口を開いた。
「それは困ります」
突然、エイブリンから光が消える。
「な、何だ?魔法が使えない……!」
驚愕して自分の手を見つめ、無害そうに見える王女を見る。
「あれ~私と同じだ」ランは状況を理解せずに言う。
「やっぱり魔法なの?」魔法使いの魔法を封じる魔法。
「違う……これは魔法ではない」エイブリンは青ざめた顔で言う。
元々あった四肢の鎖が再び現れ、そしてあの時かからなかった首輪が。
(まさか……)首輪が強制的に首にはめられるのを見て震える。
四肢の鎖は砕け散り、首輪だけが残った。
彼女は意識を失ったように膝をつく。
「魔法が完成しました」王女は無邪気そうに言う。
ランは彼女を見て、状況を理解する。
「この野郎……」ベッドに押し倒す。
「よくも師匠に……!」怒りに震えながら襟首をつかむ。
「魔法を発動した私ですから、首輪の発動を遅らせられるのも当然です」
王女は膝をつくエイブリンを見る。
「あの魔法は失敗などしていません」
「魔導書の内容、覚えていますか?」王女は微笑む。
王国が危機に陥った時、
一人の勇敢な王族が自発的に犠牲になる平民を率い、
魔法使いを召喚して王国を救う。
その魔法使いは、魔法の媒体となり、強大な力を得て、
王族の命令に従い、王国に平和をもたらす。
「本来は私が平民を率いるはずでしたが、父王が代わりに犠牲になって……」
「これで【勇敢】と【王族】の条件は揃いました。同一人物でなくても構わないのです」
「最後に、魔法使いに命令する役目……それは私しかいませんね!」
王女は笑いながら、ランの手を掴む。
「嵐様、これで『師匠が帰ってこない』という条件が完成しました」
「私がついています。一人にはさせません」顔を撫でる。
「ちっ!」その手を払いのけ、手のひらを向ける。
「殺す!」怒鳴る。
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「私を殺せば、貴女も死にますよ」
王女はベッドに手をついたまま笑う。
「師匠も喋らない人形のまま、」
王族の他の継承者が彼女を引き継ぐのを待つだけ。
「それでもいいですか?」ランを見つめる。
手のひらを向けたまま、震えが止まらない。
王女は微笑みながら起き上がり、震える少女を見る。
「グレンヴァークを倒した魔法使いは三つの願いを叶えられると聞きました」
ランの頭を撫で、なだめるように。
「嵐様が邪魔をしていたら、師匠はグレンヴァークを倒せなかったかもしれません」
とはいえ、彼女の実力は想像以上だった。
(最初の二つは王族の願い、最後の一つは魔法使いの願い)
だから私は最大一つしか願えない。
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「魔法使い様」
膝をついているエイブリンを見る。
「最初の願いは、貴方を召喚するために犠牲になった半数の住民を復活させてください」
「国王は結構です」
膝をついていた彼女は立ち上がり、虚ろな目で杖を取る。
「師匠……」ランは心配そうに見つめる。
杖を数回地面に叩きつけると、動きが止まった。
「終わりました?」王女は首を傾げる。
彼女は微かにうなずく。
「地味な魔法ですね……」
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「次は、そうですね……」王女は目を閉じて考える。
二つ目の願いも残っているが、歴史上の王族は決してその願いを口にしない。
それは魔法使いを自由にしてしまうからだ。
もし魔法使いが王国に恨みを持っていたら、その願いで全てを破壊するかもしれない。
慣例として、彼らは魔法使いを永遠に側に置き、
年老いたら彼女自身を代償に次の魔法使いを召喚して支配し続ける。
(危険は冒さない方がいい……)
ゆっくりと目を開ける。
(エイブリン様が私や王国に恨みを持っているかわからない……)
いつも距離を置かれているような気がする。
目の前の黒髪の少女を見る。
(少なくとも、この子は私に手を出さないだろう……)
私と嵐様の魂は繋がっているのだから。
(嵐様は今、何を考えているのでしょう……)
手を伸ばし、俯いて黙る黒髪の少女を抱きしめる。
(とても気になります……)
(さて、どうしましょうか)




