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代償魔法  作者: 若君
第一章は44話まで、第二章毎週月曜日に更新
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第一話 代償魔法の使用

第一話 代償魔法の使用


この世界において、魔法は気軽に手に入る奇跡ではない。

あらゆる魔法は、何らかの代償を払うことで初めて使えるものだ。


そして、多くを差し出す覚悟を持つ者ほど、より強大な力を手にすることができる。

――これは、最強の魔法使いと、呪いに呑まれた王女が紡ぎ出す物語である。



――

「これで100人目だ」

その罪人は冷たい石畳に跪き、四肢を鉄鎖で縛られ、瞳には絶望と怒りが渦巻いていた。床には血のように赤い線が複雑に絡み合い、不気味な魔法陣を描き出している。

「この悪魔め!」男は叫び、声が空虚な部屋に反響した。眼前に立つ金髪碧眼の少女を指さしながら。

メイドは黙って短剣を差し出し、少女はそれを手に取ると、指先が微かに震えていたが、迷いなく握りしめた。

「これも全て……王国を救うためです」

アカンシア王国第二王女、ライラ・オーリヴァン・アカンシア。


彼女は短剣を男の胸に突き立て、血しぶきが飛び散った。男は最後の叫びもあげられずに倒れた。

「ライラ様、これで……?」メイドは青ざめた顔で尋ねた。

「ええ、代償は揃いました」ライラは血塗れた短剣を投げ捨て、冷たくも確かな眼差しを向ける。

「百の罪人の魂を代償として、我――ライラ・オーリヴァン・アカンシアは此処に、世界最強の魔法使いを召喚せん!」

床の赤い線が眩い光を放ち、部屋は白昼のように明るくなった。光が交錯する。


空中に巨大な魔法陣が浮かび上がり、光の中から人影がゆっくりと現れる。

空中から落下する彼と、地上の少女が視線を交わした。

「まったく……」彼は呟き、体を優雅に翻すと、空中に浮かんだまま静止した。その姿は神の降臨のようだった。

「飛……飛んでる……!」メイドは声を上げ、眼前の光景を信じられないという様子で見つめた。

この世界で魔法は禁忌の領域であり、常人にとっては神秘どころか、知ることさえ罪であった。


(王族でさえ……魔法の一端を理解するのが精一杯なのに)

少女は浮遊する男――彼女が召喚した存在を見上げた。

「これが……世界最強の魔法使い」

彼のぼろぼろの魔導服、風に翻るマント、深く被った魔法帽、そして質素な木製の杖を細かに観察する。


「お前が俺を召喚したのか?」魔法使いは淡々と問いかけ、声には軽蔑が滲んでいた。

「はい、魔法使い様、どうか……どうかこの王国をお救いください!」

少女の声は切実で、表情は悲壮だった。

「世界を滅ぼす七大魔獣の一体――グルンヴァークが我が国の国境に迫っています。お聞きしました、世界最強の魔法使いだけがそれを倒せると」

彼女は彼を見つめ、願いを込めた。


「断る」

その答えはあっさりと、無情に返され、世界が止まったかのようだった。少女とメイドは呆然と立ち尽くした。

「面倒なことに巻き込まれるのはごめんだ」

彼は杖を振ると、空間が歪み、魔法陣が眼前に展開した。

「それに、俺はまだ『最強』なんて呼ばれるほどじゃない……」

独り言のように呟き、去ろうとする。


「ライラ様、これは一体……」メイドは恐怖に震える声で聞いた。

(どうして……召喚された者は主人の命令に逆らえないはずなのに……)少女は唇を噛みながら考え込んだ。

「ああ、そうだ。お前がまた俺を召喚しようとするのも面倒だから……」魔法使いは振り返った。

「お前の払った代償は、俺を呼び出すだけで精一杯。命令できるほどじゃない」

彼は冷たい目で少女を見下ろした。


「百の魂を代償にしたんです! 最強の魔法使いだというのに……!」

「魂を代償にしたか……」彼の目には鋭い寒気が宿っていた。

「どうしたんです? 魔法を使うには代償が必要で、人間の魂が最も高価な代償だと聞きましたが……」

彼女の声は震えていたが、視線は魔法使いから離さない。

「ああ、確かに。最強の魔法使いを召喚するなら、その方法……理論的には間違ってない」


魔法使いの口調が変わった。

「だが、お前は人選を間違えた」

彼は床の死体を指差した。

「罪人ではなく、平民を選ぶべきだった」

「な……何ですって……?」平民の魂……?

「子供の魂なら、もっと効果的だったろうな」


「人間の魂は……皆同じではないんですか!」

少女は激情を込めて叫んだ。

「力は同じかもしれないが……助けてくれるかどうかは別だ」

彼の冷たい視線は、人を凍りつかせるほどだった。

「お前は……もう呪われている」

無数の罪人の亡霊が、静かに彼女の背後で彼女を見つめていた。


「お前が選ぶべきは、恨みを持たない魂、むしろお前を助けたいと思う魂だった。そうすれば、俺も本当に操られていたかもしれない」

「まあ……現実はそう甘くないから、教えてやった」

「そして、すぐに……それらの魂はお前の心と体を喰らい尽くす」

魔法使いの声は冷徹そのものだった。

「お前は、もう死んでいるも同然だ」


「ライラ様……」メイドは心配そうに呟いた。

「構いません……最初からこうするつもりでした……」

少女は虚空を見つめ、決意の光を瞳に宿していた。

「この王国さえ救えれば!」


(私が選んだのは、全て死刑が確定した極悪人ばかり。王女として……平民の命を捧げさせることなどできません)

王国最古の記録によれば、最初の災厄が訪れた時、王族は平民の半数を生贄に捧げ、伝説の魔法使いを召喚して魔獣を倒したという。

だが、後の歴史書では――平民が自ら進んで身を捧げ、王国を守ったと書き換えられている。

「どうかこの国をお助けください、魔法使い様!」

少女は彼をしっかりと見据えた。


「私にできることは何でもします! この命さえも差し出します!」

(召喚は成功したのに、彼を制御できない……)

(このまま彼を逃がせば、この国は滅びる!)

魔法使いは沈黙し、彼女を見つめた。


「断る」

「冗談じゃない……」

彼は歯を食いしばりながら言った。

「魔法使いは世人に憎まれる存在だ。見つかれば即座に殺され、捕まれば柱に縛られて焼き殺される!」

「魔女生贄のことを忘れたのか?」

魔女生贄――魔女を焼き殺せば祝福が得られる儀式。


「そして今、危機が迫ると魔法使いに助けを求める?」

「もしお前が罪人の魂ではなく、平民の魂を使っていれば、俺はお前に操られていた」

「それなのに、よくもまあ助けを請う気になったものだ!」

彼の声には怒りがこもっていた。


「王族だからって、他人の魂を弄び、平然と生きていられるのか……」

「これだから、人間と関わるのは嫌なんだ」

彼は足を踏み入れ、魔法陣の中へ消えかけた。

少女は彼の半身が光に包まれるのをただ見ていた。


(ダメ……彼は去ってしまう……ダメだ……)魔獣はすぐそこまで迫っている。

彼女は突然手を挙げ、彼の背中に向けてかざした。

(この国を救うため、私は多くの人を殺めた――せめて私が死ぬ前に……全てを終わらせなければ!)

さもなくば、私の死は無意味になる。


「我が子孫、来世、永劫にわたる魂――を代償に!」

少女の叫びが虚空を切り裂いた。

無数の小さな手が地面から現れ、去りゆく魔法使いを捉える。

「お願いします……」少女は涙に濡れながら呟いた。

「私を助けてください」


魔法使いは地面に引き戻され、魔導服が乱れ、魔法帽がふわりと脱げて空中を漂った。

「くそ!」彼女はもがいたが、本来の女性の姿を露わにしながら、小さな手に四肢を押さえつけられる。

それらは彼女の魂に直接触れ、強制的に少女の魂と結びつけた。


最後に、小さな手たちは少女の涙を拭うと、消えていった。


魔法帽はゆっくりと少女の前に落ち、彼女はそれを拾い上げた。彼女は魔法使いを見つめ、彼女がゆっくりと起き上がり、息を整えるのを待った。

「ちくしょう……お前、俺に何をした!」

彼女は目を見開くと、黒い長髪を露わにした。

目の前の少女と、強制的に結ばれた魂の糸を見て。

「これ……冗談じゃない……」

歯を食いしばり、信じられないというように呟いた。


基本的には日常寄りの話だけど、最初の方はちょっと重たい展開があるよ…

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