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本作のタイトルは、『第二王子の略奪愛 ~いっぱい溺愛!~』です。
作者の100作品目を記念して、タイトルとあらすじで遊んでしまいました。どうかご了承下さい。
「聖女ローリン! 君との婚約を破棄する!」
第一王子ビューモントは、多くの王侯貴族、国民の代表らが集まる王宮の大広間で言い放った。
名指しされた聖女ローリンは、全く信じられないといった顔を見せる。彼女のすぐ横に立つあなたは、動揺する彼女を心配した。
「一体どうしてなのでしょうか、ビューモント様。私には、婚約を破棄されるような心当たりがないのですが……」
「ああ、全くその通りだ!」
ビューモント王子は同意する。
「君は聖女として優秀な、素晴らしい女性であるという点は、疑いようがない。気立てが良く、しかも容姿端麗だ。私も君のことを尊敬しているし、愛しているかと問われれば、そうだと断言出来る」
「では、どうしてなのですか?」
「聞きたいか? 全部そいつのせいだよ……」
諦めに近い声で、ビューモント王子はローリンの隣を指差す。あなたではなく、反対側にいた第二王子フィレンのほうだった。
「ありがとう兄上! これで俺はようやく、ローリンと結ばれることが出来る!」
喜びあふれて元気が有り余っていたフィレンは、すぐさまローリンへと正面から抱きついた。
「ああ、すまない愛しのローリン。嬉しくて、つい体が勝手に動いてしまった」
早々にフィレンはローリンを解放する。
この第二王子フィレンは、誠実な雰囲気の強い兄ビューモントよりも、やや粗暴に見える。彼らは見た目も性格も似ていないが、美男子であり、ローリンを好きだという点は共通している。
ただし、ローリンに対する愛情の強さは、フィレンのほうが圧倒的に勝っていた。
「私は国王の長男として、聖女の君と婚約したが、それに対して深く嫉妬したフィレンに、これまで十回以上、暗殺を仕掛けられた」
「いや、兄上。本気で殺そうとしたのは二、三回に過ぎないぞ」
「いや、そこはいい。――とにかく、最終的には、私のローリンへの愛よりも、私自らの身の可愛さのほうが勝ってしまった。それに、第一王子の私が第二王子のフィレンに殺害されたとなれば、国の威信にも関わり、国民達に不安を与えることにもなるだろう」
第一王子ビューモントの説明に、皆が口を挟まない。
「よって私は、ローリンとの婚約を破棄し、フィレンへと婚約を譲ることとする。フィレンとローリンが結ばれれば、聖女を我が王国へ迎い入れることに変わりはない。……過去を変えられるのならば、私が婚約の前に弟の気持ちを察し、父に口添えするべきだった。このようなことで集まってくれた皆にも、そしてローリンにも、負担を掛けてしまったことを、ここで謝罪させてほしい」
ビューモント王子は頭まで丁重に下げる。
そんな彼に対して、臣下達や聴衆は彼を責めないどころか、謝る必要もないという声さえも出ていた。彼らが誠実な第一王子を信頼している証とも言える。
第一王子の隣へと、第二王子が向かった。彼もまた、聴衆に頭を下げた。
「私の私利私欲で迷惑をかけてしまい、すまなかった。兄ビューモントから婚約相手を奪ったこの愚かな私を、皆は大いに責めてほしい。――だが、例えどんなに罵倒されようとも、私は聖女ローリンを一生愛し、兄ビューモントには生涯この恩を返し、全力で支え続けることを約束しよう! 私のローリンへの愛は、どんな者のそれよりも強いことを信じている! この最強の愛がある限り、我が国の比類なき繁栄はいつまでも揺るがない! 愛している、ローリン!」
フィレンの前、群衆の中で聞かされているローリンは、着用している白いロングドレスとは対照的なほど、顔を真っ赤にしていた。
「さあ、さっそく今から正式な婚約の手続きに入ろう。ついて来てくれ」
フィレンはローリンの手を取って、大広間から迅速に去ろうとする。ローリンのゆったりとした三つ編みの緑髪が慌ただしく揺れるのを目にしつつ、あなたも二人の後を追う。
聴衆の中には冷ややかな者もいたが、概ね、フィレン王子の婚約に異論はなかった。第二王子フィレンが聖女ローリンに夢中なことは、国内における常識であったからだ。第一王子ビューモントがフィレンに折れて婚約破棄したのも、人々にとってはそれほど意外なことでもなかった。
本日、婚約破棄という重大案件が起きたことよりも、この王国が抱えていた問題の一つ……聖女をめぐる兄弟の確執が解決したことのほうが大きい。
◇
あなたは『水の精霊』だ。
そして、聖女ローリンの守護者でもある。
普段は水色の肌を人間と同じにしているため、青い長髪を持った長身の美少女にしか見えない。服装は、金属と小さな布を組み合わせた異邦の衣装であり、露出は多い。
そんなあなたは常に、聖女ローリンを幼少の頃から、『秘密』を共有し、見守って来た。
第二王子フィレン。
彼は本当にローリンを溺愛している。最初から彼と婚約していれば、こじれた問題にはならなかっただろう。
ローリンのほうにも、彼への好意があるのだが、あまりの彼の溺愛振りには戸惑いがあるようだ。
最初あなたは、フィレンが不自然なぐらいにローリンへと求愛していたので、何かの罠……惚れさせた上で絶望へと突き落とすような、危険な快楽者なのかと疑うこともあった。
だがそれは杞憂で、純粋にローリンと一秒でも一緒にいたいだけだった。
フィレンは優秀な武人でもあり、顔だちも整っており、誠実な兄とは違う魅力で人々の支持も得ている。彼の愛ゆえの行動を除けば完璧であるとの評もあるぐらいだ。
彼はローリンの前では、良く笑顔を見せる。今では、それがあなたには偽りの笑顔とは到底思えないため、一応は、彼という人間を認めている。
それだけに、彼がローリンの『秘密』を知ってしまったら、どうなるだろうと考えると、あなたも不安になってしまう。
ローリンも同じ気持ちだったようで、あなた達はかつて第一王子ビューモントに明かしたように、フィレンにも『秘密』を伝える決心をした。
フィレンの溺愛ゆえに、『秘密』を明かした後に彼がどう反応するのかが、全く想像出来ない。
一番不安なのはローリンであっても、あなたはじゅうぶんに恐怖で支配されていた。
◇
水の精霊であるあなたと聖女ローリン、そして第二王子フィレンは、王宮内にある比較的こぢんまりとした応対室で落ち合った。
「おや、今日はその美しい髪を編んでいないのか。それはそれで新鮮かつ素敵だな」
フィレンは知らないのだろう。『秘密』を明かす際に三つ編みが解かれるので、髪を編む必要が無いということを。
「さっそく本題に入ろう。ローリンに精霊殿。一体どのような用件で、人払いをしてまでここに呼び出したんだ?」
「フィレン様に、私の『秘密』を、お伝えするためです」
「愛する君の秘密か、それは大変興味深い」
「……精霊様、お願いいたします」
あなたはローリンに頼まれ、彼女への加護を一時的に解いた。
これから、驚愕するべき事態が起こる。
「……なんだと?」
フィレンは、彼女の変化に釘づけだった。
まず、ローリンの体全体が水色の光に包まれ、まるで溶けるかのように、姿が消えた。
いや、消えたのではなく、新たに形成された体が下へと移ったのである。
床に落ちた白いロングドレスの中心には、奇妙な物体があった。
それは白い饅頭のようで、上部では無数の細長い草が生い茂っている。
これは物体ではなく、生物だ。
しかも、聖女ローリンだったものだ。
「実際に目の当たりにすると、分かっていても、驚いてしまうものだな。『水草の生命』と呼ばれる、低級の草型魔物の特徴と一致する。それが君の呪われし姿、ということか」
フィレンは意外と冷静だった。
「もしかして、フィレン様はご存じだったのですか?」
「まあな。実はすでに、君のことは兄上から脅迫して聞き出してある。君が不定期で魔物の姿になってしまうことを」
「……はい。私は幼少の頃から、呪いを受けています。昔は、この水草の生命の姿と自分の姿が、頻繁に入れ替わっていました。両親が大精霊様にご相談をしたところ、こちらの水の精霊様を派遣して下さったそうです。精霊様のご加護のお陰で、急にこの姿になったりするのを防くことが出来ているのです」
ローリンには、饅頭の正面部分に小さめの緑の目と口があり、その口から人の時と変わらない声質で話している。かわいらしくもあり、不気味でもあった。
「このことを、兄上が知った時、どう反応をした?」
「呪いであればしかたがないことだと、おっしゃっていました」
「俺はそうは思わない。……失礼する」
フィレンは膝を折って、頭部よりも大きい魔物姿の彼女を拾い上げた。顔の高さまで持ち上げ、ローリンの顔を正面から捉える。
「君が水草の魔物だろうと、俺は君の全てを受け入れる。君が君自身であれば、俺の君への愛は変わらないよ……」
彼は彼女に口づけをした。
この時――、奇跡が起こった。
あなたが何もしていないのに、彼女が水色の光に包まれ、人の姿に戻ったのだ。
そして、着衣を脱いでいた彼女は、当然生まれたままの姿になった。
これにはあなたも動揺し、危険な部位はすぐ白い霧で隠した。
「すまない、ローリン」
フィレンも元に戻るとは思っていなかったので、かなり冷静さを欠いていた。腕で目隠しをし、慌てて部屋から出て行く。
あなたは霧を消し、ローリンは落ちた下着を拾って身に着け始める。
「精霊様が戻して下さったのではないのですよね?」
ローリンの問いに、あなたは頷いて肯定する。
あなたは本当に何もしていない。
今は逆に、彼女に内緒で試してみた。
怖い、と言うよりも、理解し難い結果が出た。
着替え中だった彼女へと再び加護の力を与え、解除をしても、水草の生命の姿になることがなかったのだ。
ローリンは気づかずに、ロングドレスを着ようとしている。
信じられないが、どうやらフィレンの愛によって、ローリンの長年の呪いは消え去ったらしい。あなたがこれまでずっと彼女と過ごしてきて、得られなかった成果であった。
フィレンへの秘密の打ち明けの場は、ローリンの呪いの解放の場になった。
これはあなたにとっても、朗報であるはずだった。
しかし、あなたはどうしても、『用済み』の言葉を思い浮かべてしまう……。
◇
「せっ、精霊様っ! 私は貴女様との契約を、解除しますっ!」
慣れない感じで三つ編み髪のローリンはあなたを鋭く指差し、宣言した。
「……えっ?」
あなたは野良精霊になった。
ここは王宮の、あの大広間。
今ここには、聖女ローリンとフィレン第二王子、それに、あなたしかいない。
格好を決めたまま動かない聖女に、役目の終了を告げられた。
呪いがなくなった以上、こうなることは分かっていた。あなたは彼女に背を向け、とぼとぼと歩く。
王宮を後にし、とりあえずは故郷の森に戻ろうかと考えて――いたら、ローリン自身から止められた。
「すみません精霊様! やっぱり私、今までのご加護が必要なくなったとしても、精霊様と離れたくありませんっ!」
腕を押さえられながら、彼女は懇願の顔、大きな緑色の瞳を向けてくれる。
一生離れていかないと、どこか安心し切っていたこの見慣れた顔が、今はとても愛おしい。
ともあれ、あなたの野良精霊落ちは回避された。
「あーあ、ローリンを独占出来ると思ったんだがなぁ」
つまらなそうな声で言いながら、フィレンもあなた達に近づいて来る。
「すまなかったな、精霊殿。ローリンの契約解除を告げる姿という一生見られないような光景に興味があったんだ。もはや呪いは消滅したので、ここで本当に精霊殿と別れてもらっても良かったのだが、彼女には宣告後は好きに任せると約束した。今後もローリンが精霊殿とともにありたいのなら、俺もその意志を尊重する」
彼に図られたあなたは、抗議の眼差しを向けた。彼が王子であっても、精霊は人間の上下関係に縛られることはないからだ。
「そんなに怒らないでくれ。長年ローリンを独占していた精霊殿を、ちょっとからかいたい意図もあった。愛憎というものだよ。ローリンが慕う貴女とはなるべく良好な関係を築きたいが、やはり俺は、ローリンにはいずれ貴女よりも俺自身を上に思って欲しいと考えている」
この第二王子は偉そうだ。
だが、彼が聖女を溺愛していることもまた事実だ。
「私は、フィレン様と精霊様、どちらが上かなんて、考えたくはありません。フィレン様は将来の旦那様で、精霊様は私の守護者様なのですから」
聖女ローリンは右手であなたと、左手でフィレンと手を繋いだ。
あなたはともかく、独占欲の強い第二王子は苦々しい表情だった。自分が一番でないと気が済まないのだろう。
そのことを察したのか、ローリンはあなたから手を離し、彼の腕に抱きついた。分かりやすくフィレンは表情を変える。
しかし、
「フィレン様。精霊様のことも大切に思って下さらないのでしたら、私も愛想を尽かし、別の殿方へと走るかもしれませんよ? そう、例えば、ビューモント様とよりを戻したりとか」
ローリンはかわいい声で脅した。
「復縁を迫れば、兄上にも迷惑が掛かるぞ……というのは建前で、本音は、君を俺以外の誰にも奪われたくない。分かった、精霊殿とは真の友となれるよう、努力しよう」
「では、精霊様も反対側で私と同じようにしてくれませんか? フィレン様もよろしいですよね?」
「ああ。ぜひ頼むよ、精霊殿」
こんな経緯で、あなたは聖女同様に王子の腕を抱くことになる。近くで見ると、彼の腕は非常にたくましいと分かった。
これではまるで、ハーレムのようだ。そうあなたが思っていると、向こう側のローリンは将来の旦那様に攻撃的な視線を向けた。
「……私がお願いしたのですが、まるで他の女性にも手を出されているようですね、フィレン様」
「俺は幸せ者だ。君の新たな表情を見られた」
フィレン同様に、あなたも見ない少女の顔だと思った。
彼女はあなたのほうに顔を向けてくる。見慣れた、いたずらっぽい笑顔だった。
あなたはもう今後、ローリンへと呪いの対策をしないでいい。
誰にも出来ないと自負していた仕事を終えた代わりに、これからは聖女と第二王子の絡みを見届けるのも、悪くない気がした。
(終わり)
最後までお読み下さり、ありがとうございます。
本作に似ている他作品は、次の通りです。
『公爵令嬢は悪霊ではありません!』
『婚約破棄チャンス!』
『婚約破棄を宣言した。当事者じゃないのに!』
気になったら、それらもよろしくお願いします。