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ぽっかりと空いた時間
夜のカフェ ミルテ。
いつものように、閉店後の片付けが終わる。
琴音は、カウンターの奥でふと手を止めた。
(……潮見さん、今日はもういないんだ)
これまで、閉店後のこの時間は、いつの間にか二人でのんびりと過ごす時間になっていた。
雑談を交えながら、カップを拭いたり、明日の準備をしたり。
他愛のない会話が、心地よく店内に満ちる時間。
でも、今は違う。
「……」
店内は、しんと静まり返っている。
(いないのが当たり前だったはずなのに……)
そんなはずなのに——
今は、いるのが当たり前になっていた。
彼がいないと、少しだけ寂しく感じる。
(……何を考えてるんだろう、私)
琴音は、カップを拭きながら、静かに微笑んだ。
でも、それはどこか物足りなさを含んだ微笑みだった。




