ミケと前世と推しの子(4)
※ ※ ※
貴方が死んでから、 貴方のお墓へ出かけるの。
貴方の好きだったミケ猫。
ホントの猫はお墓に置けないから、 置き物を1つずつ置いていくの。
晴れの日も、雨の日も、風の日も、雪の日も。
貴方が死んでから、 貴方のお墓に出かけるの。
いつの間にかお墓は 猫の置き物でいっぱい。
ミケ猫たちが
「にゃあ~ご にゃあ~ご」
「にゃあ~ご にゃあ~ご」
あ〜騒々しい〜、あ〜大変だ、
「お前たち、静かにおし、彼が起きたらどうするの?」
ミケ猫たちは、楽しく揃って、
「にゃあ~ご にゃあ~ご」
「にゃあ~ご にゃあ~ご」
あ~うるさい〜、あ~大変だ、
「お前たち、わざとね、彼を静かに眠らせてあげて!」
「にゃあ~ご にゃあ~ご」
「にゃあ~ご にゃあ~ご」
いうことを聞かない困った猫だわ。
貴方のお墓へ出かけるの。
貴方の好きだった猫。
ほんとの猫はお墓に置けないから、 猫の置き物を1つずつ、
今日も私は、お墓に置いていくの。
※ ※ ※
( どうですにゃん、とても切なくて泣ける詩でにゃあん……)
と、ミケは猫なのに涙ぐんでいた。
僕は紙を持つ手が恐ろしさで、ぶるぶる震えてきた。
──な、何だ、このおぞましい詩は?
いやいや、泣けるどころか怖すぎだろう?
ミケ、君には悪いが僕はこの詩を書いた風子嬢は、恐怖の対象でしかない。
不気味すぎる……
いったい何処の若い令嬢が毎日、毎日、雨の日も雪の日も休まずに墓参りをする?
それは“人”ではなく“魔女”ではないか?
ミケの手前、口にこそ出さなかったが僕の脳内には墓の中を、ニタニタ笑いながら歩く恐ろしい魔女が浮かんだ。
それも大きな黒帽子を被り長く先が曲がった鼻と、笑うと裂けるくらい大きな口の魔女を想像した。
──間違いない、フウコ嬢は恐ろしい魔女だ!
こんな魔女に付きまとわれたら身が持たない!
ぞわぞわと僕は身の毛がよだって仕方がなかった。
けれども風変わりな令嬢も異世界ならばなのかもしれない。
──いうなれば文化の違いってことかな。
ここで『気持が悪い!』などと言ったらミケは機嫌を損ねるだろう。
「うん、何だか……こう書いた本人の物凄い強さを感じる詩だな……あの……ミケよ、もしかしてフウコ嬢も若くしてお亡くなりになったのか?」
と、僕は自分の気持ちをひた隠して、無理やり詩を賞賛する言葉を絞り出すようにいった。
(そうでゲス。風子様はカレン様が亡くなった1年後、とある強い雨の日に帰宅した晩に肺炎でお亡くなりました。18歳でした。『カレン様……カレン様……』と亡くなるまで風子様は、うわ言で呼ばれていたのです)
──うわああぁぁ……マジか。
( 風子様はそれほどまでにカレン様をお慕いしてましたのにゃ〜)
冷め冷めと話すミケは、猫なのに弔いを祈る牧師さまのように神妙な態度に見えた。
──たかが猫なのに、不思議。
「…………」
( あっしを含めたお墓の三毛猫たちは、風子様が亡くなった後で、遺族の人たちがお墓にやってきて、あたしらに風子さまが亡くなった、いきさつを教えてくれましたんにゃん!)
──ん、異世界の人間は置物のネコにも身内の死を説明するのか?
(そん時は、家族も置きネコたちも、全員で風子様の死を嘆き哀しみましたにゃん。その夜は三毛猫全員でお通夜をいたしましたのにゃ〜)
──お通夜って? 置き物の猫が──?
(みゃ〜ゴォ、みゃ〜ゴォ、みゃ〜ゴォと歌いましたにゃ。皆一睡もしないですにゃん──吾輩たち置きネコ一同、風子様へのお弔いの大合唱でした──もうあなた、夜中じゅう延々と続くにゃんこの大合唱、ベートーヴェンの第9『喜びの歌』の大合唱かと思うくらいすごかったんニャンよ!)
──ベートーヴェンの第9って誰?……猫?
一体どんな合唱よ?
さらにミケのヘーゼルの瞳孔が見開いて、心の声を続ける。
(カール様、その時、奇跡が起きましたにゃん!あっちらの鳴き声を天の神様が同情してくださったのか、お慈悲をくれたのかよ~わかりませんが『ミケ猫置き物隊長』のあっちが突然、生身の“ミケ猫に”変身したのですにゃ〜!)
「おお、その時からか──?」
( はいにゃ、カール様、あっちには『生身のミケにゃんこ』になった不思議な生命でありんす。つまりアッチには『使命』がありますニャン!)
「使命──?」
( うんにゃ、つまりあっちは、カール様と風子様を前世で結ばれなかった縁を、この異世界で添い遂げさせるために、今世界に転移してきたにゃんこです。そのために“邪気の呪い猫”となったのです。そして、風子様もカレン(カール)様の後を追ってあなたさまがいる異世界で転移しておりますにゃ〜!)
「なんと! 風子譲も僕の世界に転生したのか?」
( へい、そうですにゃんにゃん!)
と、ミケは嬉しそうに鳴いた。
──うわああぁ、ま・じ・か・よ・!
墓参り令嬢が僕を追って既に転生してる?
信じられない……
ミケは前足を拡げて、とても嬉しそうにはしゃぎだした。
( カール様、お喜びくださいにゃ、風子様とあなた様はもうすぐ再会いたしますだにゃ。あっちは、その日が来るまで変なムシがつかぬように、ずっとあなた様に取り憑いていましただにゃ。ほれ、カール様のフィアンセ3人の令嬢を、駆け落ちに仕向けたのもあっちですにゃ~)
「えっ?」
僕は耳を疑った!
──ミケがフィアンセを駆け落ちさせた?
僕は血の気が引いた──。
「なんと、ミケ……お前がエリーゼ嬢を含むフィアンセを、駆け落ちさせた張本人だというの──?」
僕は、じゃべりながらも、ワナワナと怒りのせいで身体が震えてくるのがわかった。
(そうでゲスにゃあ~何せ3人ともに最初から想い人がいたから、駆け落ちさせる呪文をとなえたっす。そしたら、操り人形のように、すんなりと全員し駆け落ちしててくれましたにゃん。あんときはとても楽でしたにゃあ~ご)
と、おかまいなしに、ミケは僕の腕の中で誇らしげに答えた。
──こいつ、この猫が、僕の不幸の原因だったのか!
僕は、思わず僕の膝元で抱きかかえているミケを、地面に叩きつけたくなる衝動にかられそうになった!
※ ミケと前世と推しの子(3)は長いので後半を(4)に変更しました。m(__)m