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なんども駆け落ちされた伯爵子息カールの行く末は……  作者: 星野 満


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62/69

最終話 結婚前夜はふたりで……

※ 最終回です!(*^。^*)!

◇◇◇◇


晩餐会後の襲撃事件から、1年近く経過した。

季節は6月。

ジューン・ブライドの季節だ。


「6月に結婚式をあげると夫婦は、一生幸せな結婚生活を送れる」とこの国ではいわれていた。


とうとう明日は僕とウェンディ姫の結婚式だ。


結婚式は、スミソナイト王都の大聖堂教会で行う予定である。

僕は、ウェンディ姫が帰国した後、王宮騎士団の第一部隊の団長に昇進した。


独身ならいざ知らず、子爵邸では手狭で所帯で済める家ではない。

なおかつマンスフィールド伯爵邸は王都から離れた地方にあり、僕がまだ爵位を継いでいない。

よって王室から新たに貰った伯爵領の中にある、前伯爵家を大幅に改修してもらった。


伯爵領地は王都近辺にあり、伯爵家から王宮や教会まで馬車で30分くらいで到着できる。

交通の便が良かった。

既に、僕の荷物は工事が完了した2週間前に運ばせた。

その後、ウェンディ姫の嫁入り道具や家具などは運びこまれており、姫も1週間前からここに住んでいる。

乳母のマリーと専属メイドのアンナも一緒に来てくれた。


他国へ嫁ぐウェンディ姫にしてみれば、マリーとアンナが、ここでも傍にいてくれることがどれほどありがたいことか。


僕も、伯爵邸の改修工事は業者に任せていたので、今日が2度目の訪問だった。

ウェンディ様の荷物も運ばれたということで、それも兼ねて結婚式の前日に足を運んだ。


屋根裏部屋付の2階建の白亜の豪邸だ。

花壇と木立に囲まれた庭にはサンルームもある。


1階はパーティーもできる大広間とコンサバトリー、キッチンに食事をする客間とテラスルームもある。

地下室には、食糧倉庫と酒蔵等の貯蔵室、従業員の共同部屋。

執事以外の男性従者は、地下室に寝泊まりしてもらう。


まだ、家の改修が終わったばかりで従業員はマリーとアンナと料理長、執事しかいなかった。

2階は、夫婦の寝室と僕とウェンディ姫の部屋、客間の部屋が3つ。

乳母のマリーとアンナの部屋と執事の部屋だ。


夫婦の寝室と両隣はそれぞれ僕の書斎兼執務室と、ウェンディ姫の部屋となっていた。


僕は、さきほどウェンディ姫に案内されて2階の夫婦の寝室の天蓋ベッドを見て赤面してしまった。


大きな赤いビロードの天蓋ベッドで、キングサイズだった。


なんとハーバート様からの結婚プレゼントだという。


「お兄様ったら『ハネムーンベイビーを期待してるよ!』なんていうのですよ」

ウェンディ姫が頬を染めてはにかんだ。


「あはは……ハーバート様は国王になっても相変わらず、ジョークがお好きな御方ですね」

僕は笑っていたが、内心、心臓の鼓動がドキドキして赤面した。


ちなみに僕は女性経験はない──。

なにせ3度もフィアンセに駆け落ちされた駄目男である。

あれ以来、職務以外で令嬢たちと話をするのはウェンディ姫様だけなのだ。


その後、僕とウェンディ姫は、明日の教会の式のリハーサルも午前中に済み、新居の庭のテラスでティータイムを2人だけで楽しんでいた。

僕たちは、これまでの怒涛の1年のことをいろいろと語り合った。


◇◇◇◇


一年前のウェンディ姫は事件の後、一旦デラバイト王国に帰国をした。

その後、僕のケガが完治し実家の伯爵家と、デラバイト王室との間で、2人の婚約を取り決めることができた。


2人が心配していたリチャード国王は僕と姫との結婚を反対しなかった。


国王がすんなり承知したのは、僕が2度もウェンディ姫を助けたことが大きい。


一度、ライナス王太子が新国王の戴冠式に出席するために、僕も護衛騎士の1人として、デラバイト王国へ赴いた時に、リチャード国王様から何度も何度も、直接お礼をいわれて恐縮したほどだ。


リチャード国王は王妃の暴挙に怒りと共に哀れさも相まって、そうとうなショックを受けていた。


そして国王は一つの重い決断を処す。


自ら、王位の退位を決意したのだ──。

今回、王妃が2度もウェンディ姫の暗殺未遂事件を起こしたことが、デラバイトの王室内でも大きな波紋を拡げていた。王妃の自死、またしてもウェンディ姫の暗殺未遂と、王室内は流石に動揺を隠せなかった。


その責任として、国王は王妃の親族を一斉に粛清(しゅくせい)後、自らの退位を独断で決めた。


当初、王侯貴族や王室の参謀、大臣たちはこぞって退位を大反対したが、国王の意思は思いの外固かった。

国王がいうには「何れの理由にせよ、王妃が王女を2度も殺める大罪を犯した責任は、王妃とその親族並びに夫である私の責任でもある。

今さらだが私の責任は多大にある。


亡き妻とその娘ばかりを忍び、後妻の王妃とその娘をないがしろにしたことも罪じゃ──よって自らも諌めねばならぬ。この度、王座から退いて息子のハーバート王太子へ王位を継承し、私は地方へ蟄居(ちっきょ)とする」

といったそうだ。


ウェンディ姫の兄のハーバート王太子も、最初は父王の退位を受け入れられなかったが、最終的には折れた。

そして、去年の秋にデラバイト王国では盛大に新国王の戴冠式が行われ、晴れてハーバート王太子は、デラバイト国王となった。


そして、前国王と共に職を辞した大臣や参謀たちが退去し、新国王となったハーバートの元で、新体制の王室政治が始動開始した。

新たな参謀の中には、レフティ伯爵もいた。


彼も去年同じ時期にラインハルト侯爵家の爵位を継ぎ、レフティ侯爵となった。


その(のち)のことになるが、レフティ侯爵は父親と同じ宰相となった。

彼は生涯結婚はせずに、跡継ぎも兄弟の子供を養子とした。

レフティ侯爵は死ぬまで、ハーバート国王の参謀として寄り添った。


この時はまだレフティ様の未来は知らなかったが、僕達は──

「レフティ様は前世で自身がジン様と分かってたけど、ハーバートお兄様は過去の記憶がないようでしたわ」


「そうか、それならレフティ様はハーバート様への、過去の想いは本人には、黙ってるやもしれんな」


「ええ、それにお兄様には王太子妃時代から、御子が1人おりましたしね。お兄様は何時も若い令嬢との恋の噂はあったけど、男性のことは聞いたことがないもの」


ウェンディ姫も神妙な面持ちでうなずいた。


──そうか。やはりレフティ様だけの片思いだったか。それに──片割れしか過去を知らない場合は、想い人に前世の関係など口が裂けてもいえないだろうな。

フレディ様はハーバート殿下が思い出さなければ、真実の気持ちを胸に秘めるだろう。


そう、僕とウェンディはレフティ侯爵が男色だという秘密を知っていた。

というより、彼の過去の“ジン”がハーバート王子、つまり“ライト”を好きだってことだけだが。


実際、ハーバート様は王太子時代に1人、国王になってからも2人の子を成した。

また側室2人にもそれぞれ1人ずつ子がいた。

どちらかというと女性にだらしない部類だ。

まあ、あの美貌で王太子だったのだ。

令嬢たちが放っては置かないのだろうな。


結局、僕とウェンディ姫の解釈は、レフティ様はプラトニック・ラブなんだろうと結論づけた。


日本のような現代ではジェンダーも世間の認識があるが、我々が住んでいるデラバイト王国の時代では男色は表向きはご法度である。


さらに一国の王であるハーバートが男色となると王位につくには難しい。

それだけ表向きにはタブーとされる。

そう思うとこの時代に転生してきたレフティ様が少し気の毒に思えた。


◇◇◇


「それからお父様なんですけど、最近、この国の王都近郊の別荘を購入しましたのよ。蟄居(ちっきょ)してからは度々訪れて私に逢いに来たいなんて言う始末ですの──まるでなんだか退位された理由は、単に異国にいる私に逢いたいだけの口実かもしれませんわね」


ダージリンティーを飲みながらウェンディ姫は少しひねくれていった。


「まあ、それだけウエンディ姫が心配なんでしょう」


「いい加減、お父様にも子離れしてほしいものですわ」


──いやいや、あれだけ姫を溺愛しているなら無理でしょうよ。


「それにしてもデラバイト前国王は、全てに対して行動力のある方だな。僕のように優柔不断な人間には少々羨ましい。若い頃も非常にモテたというのもわかりますよ」


「ええ、そうなんです。背も低く小太りだけど、父は外見など気にした事もない人です。母に対しても躊躇せずアタックのみだったらしいですわ。それで母も根負けしたとか……」


「凄いですね……」


やはり男が淑女にモテるのは、ぐいぐい引っ張っていくリーダーシップの男性なんだろうな。


「ねえ、カール様」


「はい、何でしょう」


「明日からこの新居で、あなた様と住むにあたって1つお願いがありますわ」


「はい?」


「私はもう貴方様の妻になるのですから『姫』という呼ぶのはご法度ですよ!」


「ブッ!!」

僕は、アイスダージリンティを思わず吹き出した。


慌てて口をハンカチで拭きながら

「……ああ、そうですね。どうお呼びしたらいいのかな」


「ただの “ウェンディ“でいいですわ!」


「わかりました。明日までいえるように練習しておきます」


「明日ではダメです、今すぐウェンディっておっしゃって!」

とウェンディ姫がじっと僕を見つめた。


──うわぁ、これは呼ぶまで黙ってそうだ。


「ウ、ウェンディ……」


僕は、真っ赤になりながらも名指しで姫の名を呼ぶ。


「まあ、カール様ったら、ウフフ、たどたどしい……でもいいです、今日はこれで許しますわ」

ウェンディ姫は終始、にこやかな笑顔だった。


◇◇◇


そろそろティータイムとは言えない時間が過ぎた。

気づけば東の空にうっすらと満月が見えた。

もう夕食の時間ではないか──。


「あ、思った以上に長居してしまった。そろそろ帰らないと……」


「あら、こんな暗くなってしまったのね。すっかりとお話に夢中になってしまいましたわね」


「ええ、とても楽しかったです」


僕とウェンディ姫はテラス席を離れて、居間を通ってコンサバトリーへと向かう。

なぜか乳母のマリーさんも、執事も誰もいない。


──変だな、さきほどまでマリーさんたちいたんだけど、誰も見送りにこないなんて?


僕はいぶかしがったが、このまま子爵邸に戻って、明日はそこから結婚式会場の教会へ僕は足を運ぶのだ──。


正直、僕は独身最後の日に、こうしてウェンディ姫と一緒に過ごせたことがとても有りがたかった。


なぜなら、これだけ()()()()なのに、もう1人の心の弱い僕は、常に()()()()()()()に怯えていたからだ。


この1週間くらい()()()はふと、突然嫌らしく(ささや)いてくるんだ。


──おい、カール。ウェンディ姫様はとても楽しそうだが、明日になれば、姫は式には来ないかもしれないぜ!


何をいってるんだ。ウェンディ姫は来ないなんてあるわけないじゃないか?


──そうかな、3人の令嬢たちを思い出せよ。あの令嬢たちだってカールの前では、いつだってニコニコ優しい顔してたじゃないか?


やめろ、ウェンディ姫は3人とは違う。


──わからないぜ“女心と秋の空”っていうじゃないか。秋空みたいに女心はコロコロ変わるぜ?


「わあああ、うるさい! うるさい!──今は秋じゃなくて6月だよ!」


僕は、思わず両手で耳を塞いで、大声をあげてしまった。


「カール様? 大丈夫ですか?」

ウェンディ姫が僕の側にきた。


「!?」


僕は我に返った。

「ああ、申し訳ありません……」


「カール様……」


「はい」


「大丈夫ですよ」


「え?」


「あなたが心配になさっている、明日になっても()()()()()()()()が1つだけありますわ」


「ウェンディ……」


──え、何で君は、僕の不安な気持ちがわかったんだろう?

もしかしてまだ、ミケからの“心の声”が聞こえるとか?


ウェンディ姫は薔薇の花が咲いたような微笑みをしながら僕に言った。

「今夜、ここに泊まっていけばいいのです。そして明日、一緒に私と教会へ行けば絶対に私は消えませんわ」


「え……でもそれは……婚姻前にまずいのでは……」


さらに姫はブルーアイズを妖しく煌めかせる。

「そうかしら? こういっては何ですけど、明日初夜しようと今夜しようと、たいして変わりませんわ」


「!?」


僕は、顔面が真っ赤になった。


──えええええぇ、まだ結婚してないのに……それってありなんですかああああぁ?


「いや、ですけどそれはちょっと……」

僕は、更に心臓がどきどき鼓動が高鳴って仕方がない。

先ほどのハーバート国王の天蓋ベッドが脳内をちらついた。


ウェンディ姫は、よほど僕の真っ赤な顔がおかしいのか、にこやかに()()()()と頷く。


「カール様。大丈夫ですわ。さすれば今、貴方様が不安に思ってるような私が見知らぬ人と消えることは、絶対にありませんわ」


ウェンディ姫は再度、ブルーアイズをキラキラと煌めかせて言い切った。


──ああ、ウェンディ!


僕は、崖に飛び込む覚悟で腹を決めた。


「わかりました。ウェンディ姫、いやウェンディ、あなたがそれほどいうのなら、その提案を僕も同意致しましょう!」


「わ、嬉しい!」


「さすれば、気が変わらない内に今すぐにでも!」


「え、キャッ!」


僕は、ウェンディ姫を軽々と抱き抱える。


「僕らの寝室はどこですか?」

あえて知ってるくせに僕は彼女に訊ねた。


「あ、はい2階の2番目の部屋ですわ」


「わかりました!」

「あ、お待ちになって……カール様、夕食は食べませんの?」


「……夕食なんて、お茶飲みすぎてお腹は空いていません。君はウェンディ──?」


「……私もすいてませんわ」


「ならば、問題ない。寝室へ直行しましょう!」


「は……い。わかりましたわ」


ウェンディ姫も急に頬を赤らめだした。


僕は、尋常ではない速さで、ず~んず~んと彼女を抱えて階段を登っていった。


何かが僕の頭でスパークしていたのは間違いない!


流石に一国の姫君ともあろう方が、ここまでいってくださったんだ!


『上げ膳食わぬは男の恥』というじゃないか!



僕は寝室のドアをドンと開けた、そのままバタンと足で閉めた。



こうして翌日の朝、1日早い初夜も無事に済んで、ウェンディ姫と結婚式を迎えられて、とうとう彼女は僕の花嫁になった。


僕は『4番目のフィアンセにも駆け落ちされた男』というダメ男のレッテルは免れた。


その代わり『世界一の幸福男』の称号を得たと信じている!




──完──




※ あっけない終わり方ですが、いかがだったでしょうか。

思った以上の長期連載になってしまいました。

まさか10万字いくとは……!

この作品は2つのお話を思いついて、合体させちゃったのです。

なのでカールの独白だけど、ウェンディも主人公の立ち位置なんですよね。

拙い作品を最後までお読みくださって、誠にありがとうございました。<(_ _)>


※ 誤字脱字報告してくれた方もありがとう御座います。

読んでくれた方、ポイントやいいね、ブクマつけてくれた方、もちろん読んでくれた方も、どうもありがとう御座います!m(_ _)m

※ 最終話が唐突過ぎた感があるので、結婚後の番外編書く予定です。その時はまた活動報告などでご連絡いたします!

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