ミケと前世と推しの子(1)
◇◇◇◇◇
「猫の置き物がしゃべって、本物の三毛猫になった~?」
僕はびっくり仰天して、アワアワと泡を吹きそうになった。
(ウンにゃぁ、あたしはしゃべってないすよ。こ・れ・は・心のテレパシーざんす。カール様が勝手にあたしの言葉がわかるだけにゃん!)
──ええ、テレパシーで、僕がネコの言葉がわかるの?
そういえばこの可愛い三毛猫は確かに「ニャーニャー」と傍目には鳴いて聞こえる。
(ね、わかったでしょう、にゃん!)
「!?」
三毛猫は「にゃん!」と鳴いた後
(初めまして、あたしは『ミケ』という名前ニャー。気楽にミケって呼ぶんニャーゴ!)
と、三毛猫は前足を上に高々とあげて、後ろ足だけでよっこらと立った。
まるでネコが「ばんざーい!」しているみたいですっごく可愛い!
僕は、驚きっぱなしだったが、余りにも三毛猫が可愛すぎておそるおそる近づいた。
「君はミケ君ていう名前なの……?」
(んにゃ、“ミケ”だけでよござんす!)
と、僕の足元に近づいてきて前足をすりすりした。
あは、なんて可愛いんだい!
──なるほど、目の前にいる三毛猫は「にゃ~ご・にゃ~ご!」と鳴いているが、僕の耳と脳には人間の言葉に変換されて、ミケが僕にテレパシーを送っている訳か。
ものすごく異様なシチェーションだけど、とても現実とは思えんが面白い。
──あ、そっか。今って魔術師がとなえた瞑想の世界だったけ?
ようやく僕は、ライ老人がいっていた瞑想の意味を理解した。
夢っぽいけど夢じゃなくて瞑想の世界なんだよな。
だから不思議が一杯あってもおかしくないんだ。
と、自分でもおかしいのは当然の如く、まあ瞑想世界があってもいいと妙に納得した。
とにかく大好きな猫と会話できるなんてナイスじゃないか!
僕は三毛猫にすっと右手をかざした。
「よろしくミケ。僕はカーラル・マンスフィールフィールド子爵……」
(おっと、カール様。挨拶はようござんすにゃ。あたしはあなた様のことは、ずっと憑ついてきたから知ってるにゃ~)
「え、憑ついてきたって、それじゃやはり君が“邪気の正体”なのか?」
僕は、三毛猫から邪気だと正体を明かされて、思わず差しだした手をひっこめた。
(そうざんすにゃ~、あたしは今までは単なる置き物の三毛猫でしたが、JKの風子様があたしや他の猫たちをこのお墓に添えてくれたのです──お陰様でこのお墓の何百という三毛猫たちの“置き物のボス”になりましたにゃ~だから恩義がありますよって──あちきは風子様によって、本物の生きたネコの寿命を与えてもらえたにゃんす。だからカール様の恐れている怖い『邪気』にもなったのですにゃ~よ)
ミケは前足ちょいちょいと上げて、みゃ~と自慢げに語る。
「…………」
──たった〜らららら……あ~なんだこれは?
いったい、この猫は何語をしゃべっているんだ?
駄目だ、僕の頭はネコの言葉にとてもついていけない。
いくら知らないネコ語とはいえ、ガチガチヤクザ系棟梁に舎弟が話しかける中世時代劇の『お控えなすって、あちきの生まれはなんたら~こうたら~でござんすぅ~』の世界なんてあるわけがない!
「あは、ねえねぇ~君はちょっと猫のくせにおかしすぎません?」
( にゃ~にがざんす?)
「いや、おかしいでしょ、一体全体こんな言葉づかいをするネコがどこにいるっていうんだ?」
(ここにいるんにゃんすよ!)
ミケは当然のようにいう。
──うう~まあいいか。
言葉づかいはともかくとして、僕は疑問をぶつけたくなったので、三毛猫にストレートに聞いた。
「ねぇ。ミケってさ、今、僕に話している君が、置き物の三毛猫だったとはとうてい信じられないんだよ。でもこの目で見たから信じるしかないけど。うん、たしかに最初、君は置き物で生きた猫に変身した──つまり、君のいう“JKフウコ”って人間がここにいる猫たちを、1人で持ってきてお墓に置いたとこまでは理解できた──だが何故こんなに沢山置いたんだい? 教えてくれ。いったい『JKフウコ』って何者なんだ、お墓の番人かい?──それに君を猫にして邪気にするなんて新手の魔女なのかな?」
僕は一気に、質問攻勢した!
おかしなことばかりで、たとえ瞑想の中とはいえ口を開かないと、脳内がおかしくなりそうだったのだ。
( まあまあ、落ち着いてくんなせえ! わかりやした、よござんす。1つずつお話しやしょう!)
──“しやしょう”って、お前はヤクザか?
( カール様。先ず風子様は、普通のどこにでもいる可愛い女子高生でござんすよ。この世界には『魔女』なんて概念は過去の遺物として、誰も信じてませんですにゃ──それに風子様はとってもシャイな方で、それはそれはあなた様一筋の“推しの子”なんですにゃんよ!)
「え、その世界ってそれじゃあ……このお墓は僕の今、住んでいる世界と違う世界だっていうのかい?」
( そうざんす。ここはあなたの現世ではなく、前世の世界ざんすにゃーよ!)
「前世? ではここは……」
ようやく僕はミケがいっている違和感、その前世がイコール異世界だということを理解した。