3人の貴公子とウェンディ姫(1)
※ 2025/10/24 修正済み
◇ ◇ ◇ ◇
王宮殿後宮・ウェンディ姫の居間。
広いテーブルを囲んでそれぞれのソファに僕と、レフティ伯爵、そしてハーバート王太子が座っていた。
メイドのアンナが、それぞれアールグレイのアイスティーと、クッキーを机上に運んでくれた。
──うん、とても冷たくて香りがいい。
僕たちは冷たいアイスティーに乾いた喉を潤していた。
少ししてから寝室の扉が開き、ウェンディ姫が颯爽と入ってくる。
「お待たせいたしました、お兄様方々」
「おお、ウェンディ!大丈夫か!」
ハーバートは立ち上がって彼女を出迎えた。
ウェンディ姫の顔色は幾分、寝起きのせいか、少し蒼白だったが、金髪のハーフアップの両脇に着けたリボンと同じ色の若竹色のアフタヌーンドレスが歩く度に波打って綺麗だった。
僕とレフティ伯爵は、その場で立ち上がりウェンディ姫に臣下のお辞儀をした。
──良かった。お倒れになったから心配したが思ったよりお元気そうだ。
とりあえず僕はウェンディ姫の笑顔を見れて安堵した。
「あ、お気づかいなくレフティ伯爵様、先ほどは大変失礼しました。もう大丈夫ですわ。カール伯爵もありがとうございます」
ウェンディ姫は僕たちに微笑した。
「ウェンディ、私の隣においで」とハーバート王太子が、隣の背もたれの椅子に手を添える。
「はい、お兄様」
ウェンディ姫はしずしずとハーバート王太子の隣の席に着いた。
その時、彼女のブルーアイズがちらりと、僕とレフティ伯爵の顔を、交互にちらちらと見つめているのが気になった。
──ん、何だろう?
姫の様子が何か変だ。
僕たちに不安なことでもあるのだろうか?
「ウェンディ、君も同じものでいいかい?」
「ええ、お兄様。私も同じアールグレイのアイスティーをお願いします」
「アンナ、ウェンディにも同じものを、僕らにも2杯目をよろしく。あとクッキーのおかわりもね」
「畏まりました、ハーバート様」
アンナはテキパキと、ウェンディ姫のお茶やクッキー、そして僕らの2杯目のお茶のおかわりも用意してくれた。
どうやらアンナはハーバート王太子を以前から存じ上げてるようだ。
同時に僕は、若いメイドのアンナの頬が、王太子を見るなりバラ色に染まるのを見逃さなかった。
まるで王子の専属メイドのように親しげに、先ほどから2人が目配せしているのが分かった。
なるほど──。
確かにハーバート王太子の麗しさならば、どんな令嬢やメイドたちも、たちまち虜になるのは無理もない。
男の僕から見ても惚れぼれするくらい彼は美しいしな。
ハーバート王太子は、王族特有の金髪でブルーアイズ。
ライナス殿下とも顔立ちは似ているが、やはり妹のウェンディ姫と纏う雰囲気が良く似ている。
体格もライナス殿下はがっしりとした体格だが、ハーバート王太子は長身で細身、よりスマートな印象を与える。
アイドル的要素だと、ハーバート王子に軍配は上がるだろう。
◇ ◇
僕はさきほど庭園で、レフティ伯爵と話していた前世の「モー3」の3人組のことを思い出した。
今、接しているハーバート殿下が前世でいう“ライト”でグループの人気トップ。
次がレフティ伯爵の“ジン”。
“カレン”が僕──。
何故だか、大勢の若い令嬢たちに囲まれて、煌めくステージで踊って歌う僕らが想像できた。
時代は変われど、確かにハーバート王太子が、前世のアイドルグループのトップを張っていたのは納得できる。
レフティ伯爵が漆黒の貴公子ならば、ハーバート王太子はまさに黄金色に輝く貴公子だ。
して、僕は──?
そうよぎった瞬間、僕の表情は冴えなくなった。
前世カレンだった僕は、2人と比較したら平凡顔で魅せるパフォーマンスなどできなかったろう。
なにせ、先ほどレフティ伯爵がカレンは“今の僕とそっくり!”だと言ってオイオイ泣いていたしな。
僕は苦笑しながらちらちらと、ウェンディ姫のお茶を飲む姿を見つめた。
誠にこの兄妹はため息が漏れるほど美しい。
しかし、不思議なんだが風子嬢は、失神するほどこの僕を慕ってくれたのか。
更に、カレンが亡くなって後を追うように異世界へ転生してきた。
本当に人の好みは千差万別だ。
そう思うと僕は冷たいアイスティーを飲みながら、ウェンディ姫から愛されているのは夢ではないか、と時の不思議さをひしひしと感じた。
◇ ◇
その後、軽い雑談の後でレフティ伯爵が口火を切った。
「ハーバート殿下ならびにウェンディ姫様、この度の王様からの命である、ウェンディ姫と私の婚約の件。聞き及んでいるかと思いますが……」
「「!?」」
突然のレフティ伯爵のストレートな発言に部屋に緊張が走った。
「臣下として誠にあるまじき行為ですが、誠に申し訳ありません。この度、私は婚約を辞退させていただきとうございます」
レフティ伯爵が深々と頭を垂れた。
「レフティ伯爵様──」ウェンディ姫が驚いた。
「ほぉ……」
ハーバート王太子が面白そうにニヤッと口を歪ませた。
「レフティどうした、突然の爆弾発言だな。婚約の取消理由をここで申してみよ!」
「は、私はハーバート殿下の側近として我が身を一生捧げたい所存であります。従って将来にわたり私は婚姻は全く持って考えておりません」
レフティ伯爵はきっぱりと言い切った。
「!?」
更にウェンディ姫は動揺したのか、手に持っていたティーカップをガチャリとソーサーにぶつけた。
ウェンディ姫は顔面蒼白だ。
僕はウェンディ姫の動揺に素早く反応した。
──姫はどうしたのだ?
なぜウェンディ姫はそこまでレフティ伯の言葉に驚いたのか。
あ、もしやレフティ伯爵を慕ってたとか?
ウェンディ姫の困惑に僕の胸中はザワザワと揺れた。




