姫君と風子の記憶(1)ウェンディSIDE
◇ ◇ ◇ ◇
「キャーキャー」
「ワーワー」
ものすごい若い女の子たちの大歓声が聞こえる!
「ライト──!」 「ジン様──!!」
キヤーキヤー、ワーワーとものすごい熱気だ。
──ん、ここは?
なんだかとっても大きなコンサート会場。
ここはどこなの? なんだか凄く暑い!
それにとっても蒸し暑い!
とても、ジメジメとした空気。
ここは一体どこなの?
大きな、耳をつんざくような大音響が流れてくる。
私の周りは同世代の女の子ばかり座って、目の前のステージで歌うアイドルグループに声援を送っていた。
──あ、あそこにいるのは「モーニング3」だわ!
ライト君とジン君が、バック転や側転などのジャンプを軽々としながら歌って踊っていた。
その後ろでキーボードを弾いてハモっている、私のカレン様がいた!
「カレン様ーー!」
私(風子)は一人だけ、カレン様の名を叫びながらサイリウムをかざしていた!
そんな喧騒の中、ようやくコンサートが終了したばかりの会場。
大勢の女の子たちが、団扇やアイドルのお面を被って、たくさんのコンサートグッズを買い込んだ袋を持ちながら、ゾロゾロと会場から出ていく。
そのコンサートの楽屋裏に私、風子は「モーニング3」のマネージャーのお姉さんと話をしていた。
◇ ◇
「あの……マネージャーさん、本当に私だけいいんですかか?」
「もちろんよ!」マネージャーのお姉さんは快活に言った。
「風子ちゃんのこと、ずっとカレンはとっても会いたがってるのよ」
「そんな……信じられない。カレン様が私の手紙を楽しみに読んでいたなんて……」
「ふふ、ここだけの内緒だけど、カレンはライトやジンより人気が余りないのよ。ファンレターだって2人よりずっと少ない。だから毎日のようにあなたがくれるかすみ草の、一輪挿しのついたファンレターを楽しみにしてるのよ。」
「ええ⋯⋯でも、マネージャーさん。私カレン様の楽屋なんていけません。きっと真近かでみたら、絶対に失神しちゃうわ!」
「大丈夫よ、私も一緒に付いててあげるから。あなたみたいにカレンのファンはとっても貴重なの。さあ私と行きましょう」
「で、でも……」
「いいから、いいから風子ちゃん、カレンがあなたを指名したのよ!」
とマネージャーのお姉さんは、私の手をグイグイ引っ張っていく。
私はそのまま楽屋の入り口までどんどん連れていかれた。
──何かしら、この不思議な状況。
ああ、そうかわかったわ。
これって前世の私は「フウコ」って女の子でカレン=前世のカール様のファンだったのね。
それで今、カレン様の楽屋に私がマネージャーさんに連れていかれてるんだわ。
私は直ぐに前世の自分の状況が理解できた。
◇ ◇
そうだ、この世界の私は、安城風子、ごくごく普通の高校1年生。
東京生まれの16歳。
おでこを出した長いおさげ髪。
顔は可愛いが服装センスがちょっと野暮ったい女の子。
アイドルグループ「モーニング3」略して「モ―3」のカレンの熱烈なファンだった。




