兄とレフティ伯爵登場 ウェンディSIDE
※2025/10/18 タイトル変更&修正済
◇ ◇ ◇ ◇
「ハーバートお兄様、それにレフティ伯爵様!」
「久しぶりだな、ウェンディ!」
「ウェンディ様、お久しぶりでございます」
目の前にハーバートお兄様とレフティ伯爵様が立っている。
「にゃ~、にゃ~にゃぁ~!」
ミケが私の足元でやたらと鳴きだす。
私はかすみ草の花を抱えながら彼等に近づいた。
「お兄様、いらっしゃるからびっくりしました。あ、レフティ伯爵さまもよくぞいらっしゃいました」
私はカーテシーもそこそこにして尋ねた。
「でも突然一体どうなさったのですか?──まさか、お兄様までいらっしゃるとは! 私、何も聞いておりませんでしたわ!」
「はは、お前を驚かせたくてな、早朝こっちに着いたんだ。さっき国王夫妻とライナス王太子夫妻には挨拶してきたよ」
とハーバートお兄様は、満面の笑顔で私を抱きしめて、私の頬に何度もしつこくキスをした。
「あん、もうお兄様ったら、くすぐったいですわ。それにお花がつぶれてしまう」
「お前は相変わらず、かすみ草の花が好きだな。私はこの花の匂いが少し苦手だよ」
「そんな⋯⋯良い香りではありませんか」
私は抱きしめられていた兄の手を邪険に振りほどいた。
「マリー、お願い、かすみ草を花瓶に挿してちょうだい」
「はい、ウェンディ様」
ハーバートはつれない私に苦笑しながら言った。
「暗殺未遂の件はライナス王太子から知らせがあった。最初は肝を冷やしたがお前が無事で良かったよ。だが、この国で王妃たちがお前の暗殺の尻尾を出してくれたおかげで、奴らを一掃できた。それも早く話をお前に話したくてな。私もレフティと一緒に来たのだ。なあレフティ?」
「左様でございます。これでウェンディ様も一安心でございましょう」
レフティ伯爵は、冷静沈着な口調で恭しくいう。
「ええ、お義母様とエミリーの幽閉のことは、ライナス殿下からお聞きしましたわ」
「はは本当に爽快だよ。長年のお前への嫌がらせも許せんのに、まさか殺害まで企てるなんて言語道断だ、ああ私の可愛いウェンディ!」
とお兄様は再度、私を抱きしめた。
「もう、お兄様ったら、先程から⋯⋯私はいつまでも子供ではないのです、お止め下さいな!」
「いいじゃないか、何週間もお前に会えなくて淋しかったんだぞ!」
「お兄様~!」
兄がなかなか私を離してくれないで困っていると、私は隣にいるレフティ伯爵の冷たい視線を感じた。
レフティ伯爵の切れ長の目が、いつも以上に私と兄を醒めた目で見つめていた。
◇
兄のハーバート王太子は、見ての通り妹の私を溺愛していた。
国内の王妃と異母妹の嫌がらせがすぐわかったのも、兄が過保護すぎるくらい私を常に見守っていてくれたからだ。
──お兄様は王太子になってご公務も多忙だろうに、私とのティータイムを殆どかかさない。
そして兄の側近としていつも隣りにいるのはレフティ伯爵だった。
──そういえば、こうしてお兄様たちを久々に見たけど、レフティ伯爵様はお兄様といつも同じ髪型だわね。
髪型が同じなんてなんだか面白いわ。
だって二人の髪色は金と黒でまったく対照的なのに。
お兄様は金髪でストレートな髪を後ろに1つで束ねてる。
レフティ伯爵様は長い黒髪を同じように後ろに束ねている。
2人は、どちらも国内の令嬢たちの人気を二分するくらい端正な顔立ちだった。
だが、兄は金髪とブルーアイズの王族特有の顔だが、レフティ伯爵は黒髪と切れ長で黒い瞳。
そう、まるで異国人のよう。
──それでもどこか2人は似ている。
色の違う兄弟のような、まるで光と影のように重なり合う。
光、ひかり、ライト、レフト、左──?
「あっ!」
その時だった──。
私の中でものすごい速さで、過去世の風子嬢の記憶が一気にザーと、音がするくらい脳裏に流れ込んできた。
まるでデジャブのように、あらゆる過去の記憶が、脳の中を駆け巡るよう!
「うっ!」
──痛い、痛い、 頭がとても痛いわ!
私は突然、ハンマーで頭を殴られたような痛みを感じた。
「にゃぁ~、にゃぁ~!」
ミケが私の側で心配そうに鳴いている。
「お嬢様!」
「おい、どうしたウェンディ!」
「ウェンディ様!」
マリーが叫ぶ!
お兄様も、レフティ様も!
小さく聞こえてる、聞こえるけど……もう駄目……
そのまま、私は目の前が真っ暗になった!




