姫の決意(2)ウェンディSIDE
※ 2026/8/25 修正済み
◇ ◇ ◇ ◇
レフティ伯爵とは過去に何度かお会いしてる。
彼の容姿は完璧だ。
長い黒髪と黒曜石かと見紛うような、美しい切れ長の瞳と麗しいお顔立ち。
国内の令嬢からもとても人気があった。
性格も聡明で女遊びの噂も聞かない。
デラバイト王国でのレフティ伯爵の評判は上々だった。
とにかく彼は非の打ち所のない御方だ。
きっとこのまま素直にレフティ様の妻になれば、穏やかな家庭が築けるだろう。
──けれど悲しいかな。
レフティ様を見つめても、私は一度たりとも心がときめいた事はない。
そう、カール様はレフティ様とはまったく私は違う。
あの方の傍にいると目が合うだけで、心の臓が止まるくらいドキドキしてしまうのよ。だからこそ何度も現実とは思えない失神をした。
──そう、これは理屈ではない。あがけない衝動だわ。
私は2度とカール様と離れるなんて絶対に嫌なんだろう!
こんなに自分がカール様に惹かれるのは、前世でフウコ様の怨念が、私に宿ってるからだろうけど。
多分、前世の私。すなわちフウコ様にとってカール(カレン)様は全てだったのでしょう。
このトキメく想いは、私と風子様は時空を超えた一心同体なのだと思うわ。
◇
「あ、そうそうウェンディ、もう一つ話があった。ハーバートからの連絡だが、王妃は王都を追放され辺境地の牢獄屋敷へ幽閉されたそうだ、親族たちもそれぞれ刑罰を受けて爵位を剥奪された」
私に説明したライナス兄様の顔からは、笑顔はなく厳しい顔つきに変わっていた。
「え、それは誠でございますか?」
私は驚いた。
「ああ、俺の想像以上に国王はお前の暗殺未遂にお怒りだったようだ。──今までも王妃の親族たちは、地方高官達と癒着して賄賂等で相当悪事を重ねてたらしい。そこへきてお前に対する数々の嫌がらせと、異国での殺害未遂が発覚したからな。まあ自業自得だろう」
「そうですか……あ、ではエミリーはどうなりますの?」
「ああエミリー姫。か……」
エミリー姫とは王妃の実娘であり私の異母妹だった。
私よりも4つ下で、まだデビュタントに満たない少女だ。
「ああ、エミリー姫は王妃の元で暮らしたいと希望してる。よほど母娘は仲が良いんだな。まあ、牢獄と言っても地方の屋敷に幽閉されるだけで拷問とかは一切ない。王妃の身分をはく奪されただけだ。母娘の身の回りは、今まで通りお付の侍女や乳母もいる。庭園の散歩も自由にできるし、日曜教会への参列並びにバザーなどの観光もできる、まあ監視付きだがな」
「ああ左様ですか。それは良かった……」
私はほっと胸をなでおろした。
「だがな、エミリー姫も少女とはいえ、これまでお前に対して数々の嫌がらせをしてきた。母親が亡くなれば城には戻れずに最果ての修道院に贈られる運命だよ」
「そんな……エミリーは私より年下なのに、修道女だなんて気の毒すぎますわ」
「はあ、そんな可愛げのある妹姫ではなかろう。俺もハーバートもあの親子に間者を放っていたが、お前は度々、エミリー姫からも酷い扱いを受けていただろう?」
「でも……あの子は王妃様のいう事を真面目に信じていただけですわ」
「まあな。だが第一王女を貶めた罪は罪だ」
「そうよウェンディ。妹を庇う気持ちは同情するけど……」
アメリア姉さまもライナス兄様に同調した。
「そうですね、エミリーが最後まで王妃と暮らしたいと言うなら、それが2人にとって一番良い事なのかもしれないですね……」
と私は二人にはいったが、少し寂しくなった。
エミリーは生意気だったけど、けっして嫌いじゃなかった。
あの明るくて無邪気なエミリーと、二度と逢えないと思うと一抹の寂しさを感じたのだ。
「ねぇウェンディ、大丈夫?」
アメリア妃は、ウェンディ姫が気落ちしてるのを見て心配そうに見つめた。
こういう心遣いはさすがアメリア姉さまだ。
「アメリア姉さま、大丈夫です。心配には及びません。私はもうデラバイトには戻りませんし、一切気にしない事にしますわ」
「え、母国に戻らないって、それはどういう意味なの?」
「アメリア姉さま、私はこの国に住んでカール伯爵様の妻になりたいのです!」
「あらま?」
「おいウェンディ、お前正気か?」
今度はライナスお兄様が驚いた。
「もちろん本気ですわ、ライナスお兄様。冗談でこんな大切なこと言いませんわ」
「だってウェンディ、そうは言ってもデラバイトの国王が、このまますんなりと結婚は許さないよ。いくらカールがお前の命を救ったとしても、あいつの身分は低い」
「そんなの、へっちゃらですわよ。いざとなったらカール様と駆け落ちするまでですわ!」
「「駆け落ち!」」
ライナスお兄様とアメリアお姉さまは同時に発した!




