2度目の駆け落ち令嬢(1)
※ 2025/9/28 修正済み。
◇ ◇ ◇ ◇
2度目の駆け落ち令嬢は、これまた親同士が決めた同じ家格の伯爵令嬢だった。
彼女は顔は、まあ十人並みで地味な令嬢だった。
この時僕は19歳。
彼女は18歳。
僕はこの秋高等学院を卒業した。
再来年はいよいよ成人となって、伯爵家の領地の一部を譲り受け子爵の位を賜る年だ。
1度目の駆け落ちショックから、既に2年が経過しており、心の痛みもほぼ薄れていた。
新たなフィアンセは地味ながらも、物静かな清潔感のある女性だった。
「カール、今度は安心しろ、駆け落ちなど夢にもしないタイプだ」
と祖父が太鼓判を押して僕が承諾もしていないのに強制的に婚約させられた。
その後、僕も彼女と会って「伏し目がちに受け答えする大人しそうな、従順そうな令嬢だなあ」
という印象を感じた。
服装も若い割に地味な色を好み18歳にしては、少々老けて見えた。
欲をいえば、もう少し明るい色や、華やかなドレスを身に着ければ、彼女の印象も変わるのに勿体ないなと残念ではあった。
だが以前の華やかで可愛らしいマロンクリーム令嬢に、こっぴどく裏切られていたので、妻にするなら地味でも落ち着いた控えめな令嬢の方が、長い目で見ればいいのかもしれん、と僕は彼女との結婚を前向きにとらえ始めた。
その矢先の出来事だった。
またしても僕は突然フィアンセに駆け落ちをされた。
それも相手の男は、彼女の家で雇っていた平民の異国の家庭教師というから驚きだ。
後に彼女の母親から事情を知らされて分かったが、
実は以前から娘は隣国に興味を持ち隣国の家庭教師を雇ったはいいが、その男と何年も恋愛関係にあったという。
家庭教師は狡猾で彼女に他の男ができないように、服装から化粧まで全て質素な出で立ちを指示したと言う。
娘は素直にその男のいうことを従順に聞いた。
何より僕が彼女の母親から聞かされてショックだったのは
「娘は世間知らずで、体験授業と偽って男に肉体関係も強要されて心身共に骨抜きにされていたのです」と。
さらに彼女の母親が涙ながらに訴えた。
「カール様、私たちが気付いた時にはどうしようもないほど、娘は家庭教師に夢中でした。ですがいくら私たちが説得しても娘は『嫌よ別れないわ。私は先生と絶対に結婚するんだから!』との一点張で聞いてもくれません……」
と号泣した。
それも家庭教師との不義を知った父親があえて無理やり娘を僕と婚約させたというのだから、流石に僕は開いた口がふさがらなかった。
万が一婚約して直ぐに結婚したとして新婚時、娘が妊娠したらどちらの子供か、不明ではないか?
──それは余りにも恐ろしい。
母親の話を聞いて僕はぶるぶると身震いした。
また僕との婚約が決まった後、娘の父親は家庭教師に手切れ金を渡して、祖国に強制帰国させた。それを知った娘は何を血迷ったのかトランクケース1つ持って男を追って一緒に逃亡したと言う。
彼女の両親は我が家に来て、涙ながらに事情を説明して土下座までした。
「本当に申し訳ありませんでした」と僕の祖父と父に詫びた。
折しもこの日僕は、正騎士団の特別訓練があって留守にしていた。
多分、彼女の両親は僕にはとてもではないが、面と向かって話せなかったのだろう。
──いやいや、親御さんたち、清楚な娘さんが聞いて呆れるよ。
そんな貞操のない娘と知ってて僕の許へ嫁がせようなどとはどうかしている。
余りにも非常識だし、伯爵ともあろうものが詐欺まがいの事をしたのだ。
まずは僕に詫びるべきだろうと、僕は心底、彼女の両親にも腹が立った。
それでも祖父と父は地味系令嬢の伯爵一家を寛容に許した。
ふん、どうせ相手の両親から領地の土地の1部なり、大金をたんまりと裏でもらったに違いない。
腹グロ親父ともうろく祖父め!
我が親族ながら露骨な金の亡者たちだ。
母様が生きてたら、きっと2人を見て嘆き悲しんだに違いない。




