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なんども駆け落ちされた伯爵子息カールの行く末は……  作者: 星野 満


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ダンスパーティーの決死の攻防(1)

※ 2025/10/9 修正済み

◇ ◇ ◇ ◇




夕暮なずむ東の空に、うっすらと白い月が見えだした頃。

スミソナイト王国の王宮殿では、王室主催のダンスパーティーが始まった。


登壇の中央にライナス王太子妃夫妻、正面から向かって右に、ウェンディ姫が着席している。

ライナス王太子夫妻の後ろにはズラリと王宮騎士団、そして王太子所属警護騎士たちが、威風堂々と立っていた。

無論、大広間の両端左右にも、王宮騎士団の騎士たちはびっしりと警護している。


今回は通常以上に、パーティーの警備体制は厳重警戒としていた。

それもそのはず、ライナス王太子の密偵から、ウェンディ姫の殺害予告の情報を内密に入手していたのだ。


本来、そんな物騒な情報の中で、ウェンディ姫を列席させるのは躊躇(ためら)われたが、彼女をずっと後宮内に(とど)めてばかりでは不憫だと、アメリア王太子妃の口添えで、王太子夫妻のチャリティーパーティーと称して宴を催したのだった。


本来王室のチャリティー関連だと、王都の上級民や著名人など貴族以外の平民も招待するが、今回は特に王都に住む貴族のみの出席とした。

普段よりは人数も絞り、エセ貴族などは除外して招待客の身元の人選も徹底させた。


それでも、デビュタントした令嬢16歳以上、子息は18歳以上の貴族たちが大勢集まった。


元々4~5月は、王都に住む貴族社会にとって結婚式の多い季節だ。

同時に未婚者は婚約者(フィアンセ)探しの時期でもある。

王都の社交界では、若い貴族たちが出席できる催し物が多く、王室や貴族の館で行う茶会や夜会などで、春の開花を待ちわびたように、彼等はパートナー探しに浮き足立つ季節でもあった。


この度のパーティーはウェンディ姫の容姿の美しさの噂を聞いた令息たちが、彼女を一目でも見ようとやっきになって参加した。

更にその親や親類たち一同も参加する。


中には彼女の婚約者になりたい、と運良く「逆玉の輿」にと密かに野心を持つ貴族令息、その家族たちも多かった。




僕はウェンディ姫の真後ろで、警護と称して直立していた。

強面(こわおもて)のタイガーマスクの如く、部下のネロとマルコを従えて、仁王立ちで佇んでいた。


その姿はまるで、眠れる森の美女をじっと見守る、密林の中に潜む大虎(おおとら)の強戦士のようだった。


「何だ()()は、パーティー用の置き人形か?」

「アホ、あんなでかい置物があるかよ!」

「タイガーマスクの護衛騎士なんて面白いな」

「どうやらウェンディ姫の専属の護衛らしい……」

「いかついけど体躯はがっちりしてて、あたくしの好みだわ!」

「はは、まるで美女と野獣だな……」


ザワザワと騒々しい大広間の子息令嬢たちの会話がチラチラ聞こえてくる。

チャリティーパーティーに招待された紳士淑女が、虎の被り物をした僕を見て面白そうに(ささや)いていた。



──ふふん、やはりこの強面の被り物は正解だったな。


これなら暗殺者たちもウェンディ姫に、おいそれと近づく可能性は低下するだろう。


たとえ僕自身は“虎の()を借りる(きつね)”と揶揄されようが、ウェンディ姫を狙う悪しき輩に対して、断固として威嚇(いかく)せねばならない


僕はタイガーマスクの被りモノ効果に内心満足していた。



◇ ◇



「ウェンディ姫様、お酒をお持ちいたしました」


従者がウェンディ姫に林檎酒(シードル)のワイングラスを渡す。


「ありがとう。頂きますわ」

彼女は喉がかわいていたのか、林檎酒(シードル)を美味しそうにごくごくと飲み干した。


その時、彼女は後ろに立つ僕に振り向いた。


「カール子爵、あなたはずっと立っていて疲れませんか?」

「いえ日頃から訓練していますので、ご心配には及びません」


「そう、あなた様とこうして近くでお話できるのが夢のようですわ!」

とウェンディ姫は花のように僕に微笑んだ。


「とんでもないお言葉です姫様、お、おい、そこのウェイター、ウェンディ姫様のグラスが既に空だ。直ちに代わりのものを持ってきてくれ!」


僕は突然、姫の甘い言葉にドキドキして、ちょうど通りかかった給仕に姫のグラスの空を指摘した。


「はい、畏まりました」


「あ、いいのよ。もうこれで、十分ですからけっこうです」

とウェンディ姫は空のグラスを給仕に渡して、おかわりは断った。


「ウェンディ姫、大変失礼致しました。さしでがましいことをいって申し訳ありません」

「そんなこと……カール子爵様がいつも私を気にかけてくださって、とても嬉しいの」


「いえ……そのようなことは」


「まあ、まあ、あなた達はここでもとってもお熱いわね~」

とアメリア王太子妃が、孔雀の扇をぱたぱたと揺らめかして、ウェンディ姫と僕を冷やかした。


「アメリア様、冗談はどうかご容赦ください!」

僕は仮面の下の顔は耳まで赤くなっていた。


「うふふ、よろしくてよ。ウェンディ、今日はカールは護衛だから無理だけど、今度はあなたと踊れる機会を設けてあげますからね」

アメリア妃はにこやかに微笑した。


「まあ、アメリアお姉さま。本当ですの、嬉しいわ。とても楽しみにしておりますわ」

その場から飛び上がるばかりに喜ぶウェンディ姫。


その2人の会話をアメリアの横でライナス王太子が、苦虫を噛み潰した顔で聞いていた。


「アメリア、余り2人を煽るなよ、今夜はもっと気を引き締めないと駄目だぞ」


「はいはい、私の旦那様はタイガーマスクに可愛い妹を取られて悔しいみたいね」

「おいアメリア、今宵は少々飲み過ぎたか?フン、全く気に食わん!」


ライナス殿下は輪をかけて不機嫌になったのか、シャンパングラスを一気に飲み干した。


──ああ、アメリア妃ったら。


僕は王太子夫妻のやりとりを見てハラハラした。


アメリア妃は機嫌が良いと扇で口を隠してクスクスとよく笑う。

どうやら、ウェンディ姫が僕にベタ褒めなのが気に入らないライナス殿下を、(いじ)れるのが楽しいのだ。


僕にしてみれば、ライナス殿下の機嫌が悪いとロクなことがないので困惑した。


「アメリア様、どうかお戯れは勘弁して下さいませ!」

と僕はライナス殿下のむくれた顔にハラハラしながら、アメリア妃を恨めしそうに睨んだ。


「あらあら()()()()()()ったら大丈夫よ、殿下の態度を真に受けないでちょうだいね〜!」

とカラカラと笑って一向にアメリア妃は気にしない。


おまけに僕の両隣りにいる部下のネロとマルコまでほくそ笑む。


「カール隊長はオモテになりますなぁ……」

「さすがは俺たちのカール隊長だ」とこうだ。


「ほら、ウェンディ、お前の好きな花のワルツだ、そろそろ踊りにいこう!」

「はい、お兄様」

とライナス王太子がワルツの曲に変わるとウェンディ姫の手を取って、広場の中央へとエスコートする。


ウェンディ姫のファーストダンスは、今回はパートナー不在の為、従兄弟のライナス王太子と踊る。

2人はダンスのカップルの輪の中に、軽やかに入っていった。


僕は、真っ白なローブデコルテが良く似合う、ウェンディ姫の踊る姿を眩しそうに眺めるだけで、それだけで十分だった。




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