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なんども駆け落ちされた伯爵子息カールの行く末は……  作者: 星野 満


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1度目の駆け落ち令嬢

※ 2025/9/28 修正済み

◇ ◇ ◇  ◇



元々、僕はライナス王太子とは違って、ジョークの分かる男ではないし、笑って許せる寛容さも持ち合わせてはいない。


真面目が取り柄だけのガチガチの堅物人間だ。


だから今回3人目のフィアンセの駆け落ちは非常に(こた)えた。


前の2人の令嬢も確かにショックではあったが、エリーゼ嬢と比べたらその比ではない。

それは僕がエリーゼ嬢を、他の誰よりも深く愛していたからだろう。


だからこそ裏切られた愛情が何十倍にも憎悪した。



──そもそも貴族の婚約は、結婚を前提に家同士で正式に決めた成約である。


それを破棄するなど本来あってはならぬもの。


逃げられた婚約者が、犯罪や相手に精神的苦痛等を与えた問題も無く、一方的に破談された場合は家同士の婚約破棄は貴族社会ではそれ相応の懲罰が伴う。



駆け落ちした令嬢エリーゼの家が、された相手、つまり僕の伯爵家の矜持(きょうじ)を侮辱されたと見做されて「貴族院裁判審議会」に申し伝えれば高位貴族とて、一族のお取潰しになる場合すらある。 


よって駆け落ちなど滅多にない出来事だった。



──それなのに僕だけ、何故この若さで3度も駆け落ちされたのだろう。


僕はまだ21歳なのに!

こんな惨めな男、王都中探してもきっと僕だけだろう!


僕は暫し思い悩んだ。

もしかしたら僕の記憶にはないが、『前世』の僕はフィアンセたちに相当こっぴどい仕打ちをして、怒った運命神が『今世』で僕に罰を与えているとか──?


は、馬鹿馬鹿しい……。


それとも僕自身がフィアンセから見て結婚に値する男ではないと?


そこまで僕が思い詰めるほど、3度もフィアンセに駆け落ちされた事は(こた)えた。


一体なぜこうなったのか?


甚だ思いだしたくもないが、過去3回の駆け落ちを検証をしてみよう。



※ ※ 



先ず1度目に駆け落ちした令嬢の話だ。


1人目は少年の頃、親同士が決めたフィアンセでまだ小公女だった。


僕が13歳。彼女は11歳。

マロンクリーム色の巻毛が可愛いらしく笑顔がとっても愛らしい娘だった。


僕は一目見るなり「こんな可愛い子なら若くしてフィアンセがいるのも良いものだな」と子供心に満足していた。


その後も僕と彼女は、両親を交えて両家へ頻繁に往来して親交を深めていった。彼女は僕と逢うと常に笑顔だったので、当然、僕を好きなのだと微塵も疑わなかった。


ところが運命の日は突然やって来る。


僕が17歳、彼女が15歳の時だ。


こともあろうに彼女は雑貨商の男と突然駆け落ちをしてしまった。


その男は元男爵の家系だが、今は平民で王都で手広く輸入雑貨商を営んでいる家の末子だった。

末子なので、ぼんくら息子と揶揄されていたほど間抜けな男だったという。

そのぼんくら男はお得意さまの伯爵家へ出入りしていた際に、彼女と愛し合って駆け落ちしたらしい。


ある夜、2人は王都から忽然と消えた。令嬢は書置きすら残さなかった。


一週間たっても2人の消息は未だ行方知らずである。



いったい全体どこに消えたのか?


彼女はれっきとした正真正銘の伯爵令嬢だ。

さすがにこれは大騒動となった。


その後、駆け落ちした伯爵令嬢の父親と、ぼんくら息子の父親は我が屋敷に来て謝罪をした。


令嬢の父である伯爵は「どうか此度の事は穏便にお願いします」と、自身の領地にある金属の鉱山を一部当家に譲り渡した。


「うちの馬鹿息子が、この度大それたことを致しまして申し訳ありません」


とぼんくら息子の親も絹の反物(たんもの)やら、珍しい東洋の高級調度品を持参して丁寧に謝罪した。


初め、僕の祖父と父は息子の寝取られ醜聞に、家名を(はずかし)められたと憤怒していたが、鉱山の名義書換え証書と、山積みした絹の反物を見た途端、彼等をいとも容易(たやすく)許した。



当時、僕も学院生だったのでフィアンセの駆け落ちは驚いたが、それより“駆け落ち”というものが分からず、令嬢の犯した罪も余り理解してはいなかった。


だが少なからず、マロンクリームの少公女の可愛い笑顔が浮かぶと、淡き初恋が破れた思いはそれなりにあったのだろう。


僕は彼女の事を忘れたくて、王都の国立高等学院の授業を以前よりも一心不乱に勉強した。


そのおかげで成績は一気に急上昇した。

またライナス王子の護衛として剣技を研鑽するため、王宮騎士団養成所に応募して見事合格した。


学院の勉学との両立は厳しかったが、見習い騎士として休日は養成所に通い、正騎士団から厳しい稽古を受けたが根をあげなかった。


僕は毎日、毎日がむしゃらに剣技の習得と基礎体力に励んだ。


いつしか貧弱だった体も上背も伸びて見事な体躯となり、顔も日に焼けて精悍な顔つきとなった。


その努力が実を結び、正規の王宮騎士団に一度でパスした時の喜びは一入ひとしおだった。


こうして王宮騎士団に入隊した僕は、鍛錬した期間とは相反してマロンクリーム令嬢の苦い経験もあり、淑女レディたちとの交流は数年間は差し控えた。



いつしか僕は“フィアンセに駆け落ちされた男、女嫌いのカール”

と貴族社会からは噂されるようになった。




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