風子嬢の詩
※ 2025/10/5 修正済み
※ ※ ※
貴方が死んでから、 貴方のお墓へ出かけるの。
貴方の好きだったミケ猫。
ホントの猫はお墓に置けないから、 置き物を1つずつ置いていくの。
晴れの日も、雨の日も、風の日も、雪の日も。
貴方が死んでから、 貴方のお墓に出かけるの。
いつの間にかお墓は 猫の置き物でいっぱい。
ミケ猫たちが
「にゃあ~ご にゃあ~ご」
「にゃあ~ご にゃあ~ご」
あ〜騒々しい〜、あ〜大変だ、
「お前たち、静かにおし、彼が起きたらどうするの?」
ミケ猫たちは、楽しく揃って、
「にゃあ~ご にゃあ~ご」
「にゃあ~ご にゃあ~ご」
あ~うるさい〜、あ~大変だ、
「お前たち、わざとね、彼を静かに眠らせてあげて!」
「にゃあ~ご にゃあ~ご」
「にゃあ~ご にゃあ~ご」
いうことを聞かない困った猫だわ。
貴方のお墓へ出かけるの。
貴方の好きだった猫。
ほんとの猫はお墓に置けないから、 猫の置き物を1つずつ、
今日も私は、お墓に置いていくの。
※ ※ ※
( どうですカール様。とても切なくて泣ける詩でにゃしょう?)
とミケは猫なのになぜか涙ぐんでいた。
逆に僕は紙を持つ手が恐ろしさで、鳥肌が立ってぶるぶる震えてきた。
──な、何なのだ、このおぞましい詩は?
いやいやミケ、泣けるどころか怖すぎだろう?
悪いが僕はこの詩を書いた風子嬢は、恐怖の対象でしかない。
あまりにも不気味すぎる……
いったい何処の若い令嬢が毎日、毎日、雨の日も雪の日も休まずに墓参りをする?
それは“人”ではなく“魔女”ではないのか?
ミケの手前、口にこそ出さなかったが、僕の脳内には墓の中を、ニタニタ笑いながら歩く恐ろしい魔女の姿が浮かんだ。
それも大きな黒帽子を被り長く先が曲がった鼻と、笑うと裂けるくらい大きな口の魔女だ。
──間違いない、フウコ嬢は恐ろしい魔女だ!
こんな魔女に付きまとわれたら身が持たない!
ぞわぞわと僕は身の毛がよだって仕方がなかった。
けれども風変わりな令嬢も異世界ならばなのかもしれない。
──いうなれば文化の違いということかな。
あ、でもここで『気持が悪い!』などと言ったらミケは機嫌を損ねるだろう。
それに……気になる事がひとつある。
「うん、何だか……こう書いた本人の物凄い情念を感じる詩だな……あのミケ、もしかしてフウコ嬢も若くしてお亡くなりになったのか?」
僕は無理やり詩を賞賛する振りをしながら、思っていた疑問を投げかけた。
(そうですにゃん。カール様、風子様はカレン様が亡くなった1年後、とある強い雨の日に帰宅した晩に肺炎でお亡くなりました。18歳でした。『カレン様……カレン様……』と亡くなるまで風子様は、うわ言で呼ばれていたそうです)
──うわああぁぁ……やっぱりそうか。
僕の勘は当たった。フウコ嬢もお墓参りのせいで亡くなっていたんだ。
( 風子様はそれほどまでにカレン様をお慕いしてましたのにゃ〜)
冷め冷めと話すミケは、猫なのに弔いを祈る牧師さまのように神妙な態度に見えた。
──ぷぷぷ、それにしても猫なのに人の死に神妙になって……ミケって本当に愛らしいなぁ。
僕は増々ミケが愛らしくなっていた。
 




