ミケと僕の前世(1)
※ 2025/10/4 加筆修正済み
◇ ◇ ◇ ◇
「猫の置き物がしゃべって、本物のミケ猫になった?」
僕はびっくり仰天して、アワアワと泡を吹きそうになった。
(ウンにゃぁ、しゃべってないすよ。これはテレパシーざんす。カール様が勝手にあたしの言葉がわかるだけにゃん!)
「え、テレパシーだって!?」
僕は更に驚愕して思わず叫んだ。
「僕がネコの言葉がわかるというのか?」
(そうですよ、わかったでしょう、にゃんにゃん!)
ミケ猫は嬉しそうに前足を自分の顔に着けてスリスリした。
「にゃんにゃんて……」
──そういえば、目前のミケ猫は確かに「ニャーニャー」と鳴いて聞こえる。
「うわああ、本当だ、僕が猫の言葉がわかるのか!」
僕はようやく猫語を理解していると自覚した。
(ん、そうですにゃん。初めましてあっしは『ミケ』という名前だニャー。気楽にミケって呼ぶんだニャー!)
とミケ猫は前足を上に高々とあげて、後ろ足だけでよっこらといって立った。
まるでネコが「ばんざーい!」しているみたいですごく可愛い!
「あはは、可愛いな!」
僕は、驚きっぱなしだったが、余りにもミケ猫が可愛すぎて吹きだした。
「君はミケ君て名前なのか?」
(んにゃカール様、君づけはいらんすよ、ミケだけでよござんす!)
と、ミケ猫は僕に近づくと、尻尾をくるんと上向きに立って、前足や頭を僕の足元にスリスリと擦り付けてきた。
──あはは、可愛いなぁ!
なるほど、目の前にいるミケ猫は「にゃ~にゃ~!」と鳴いてはいるが、僕の脳には人間の言葉に変換されて、ミケが僕にテレパシーを送っているという訳か。
とても不思議だが面白い。
あ、待てよ。これは夢ではなく魔術師がとなえた瞑想の世界だったな。
ようやく僕は、ライ老人がいっていた瞑想の意味を理解した。
夢っぽいけど夢じゃなくて、ここは瞑想の世界。
だから理解不能でも、何も不思議ではない──。
僕はこの現象に困惑していたが、瞑想の世界なら理解できると無理やり納得した。
──それにだ、大好きな猫と会話できるなんてナイスじゃないか!
僕はミケ猫にすっと右手をかざした。
「よろしくミケ。僕はカーラル・マンスフィールフィールド子爵……」
( おっとカール様。挨拶はいりません。あちきは貴方様にずっと憑ついていたから、貴方様の事は全て知ってるんにゃ~!)
「え、憑ついてきたって! なら、やはり君が“邪気の正体”だというのか?」
僕はミケから邪気だと言われて、怖くなって差しだした手をひっこめた。
( そうざんすにゃ~、あちきは単なる置き物のミケ猫でしたが、JKの風子様が、あちきや他の猫たちをお墓に添えてくれたのですにゃ)
「あちき?」
僕はミケが何をいってるのかさっぱりわからなかった。
そんな僕をよそにミケは続けた。
( カール様、あちきっていうのは自分の事でござんすよ)
ミケは前足で胴体を舐めながら、その後で鋭い真顔になって話始めた。
(あちきはある日突然、本物の猫になりましたにゃ。なのでお墓の何十というミケ猫たちの置物のボスになりましたのにゃ。だから恩義がありますよって──。それもすべて風子様のおかげですにゃ。風子様から本物の生きたネコの寿命を与えてもらえましたにゃん。だからカール様の恐れている怖い『邪気』にもなったのですにゃ~よ!)
ミケは前足ちょいちょいと上げて、気分良さげにみゃ~と語る。
──えっ? ジェーケーのフウコ様、なにそれ?
僕はミケ猫の話す言葉がほとんど分からなかった。
一体全体こいつはどこの国言葉をしゃべっているんだ?
「あちき」とか「ござんすよ」って話し方が妙にへんだろう?
瞑想世界とはいえ僕は面食らった。
「ねえ、悪いんだがミケ、僕は君のいってる事がよく分からないんだ。申し訳ないがもう少し普通の言葉で話してくれないかな?」
( んにゃ~そうざんすか? これでも分かりやすく話してやんすけどね!)
ミケは心外だなあというように、ふて腐れたのか、じゃれていた僕の足元から距離を置いた、
──う、不味い! こいつ怒ってる。
仕方なく、僕はなんとかミケ猫の言葉を脳内で整理した。
おかしな言葉づかいだけど、この猫は元々墓の置物の1つだったが、ジェーケーフウコって人間のおかげで、生きた猫に変身して置物たちのボスになったというのだな。
僕はミケの機嫌をそこなわないように丁寧に聞いた。
「失礼だがミケ。今僕と話している君が、元は置き物だったというのは分かったよ」
──とても信じられないけど。
「だがその後の説明がよく分からないんだ。つまり君のいう“ジェーケーフウコ”って名の人間がここにいる猫の置物をお墓に置いたって事なのか?」
( うん、その通りざんすにゃ)
ミケは少し気分を良くしたのか、また擦り寄ってきてゴロゴロと喉を鳴らした。
「ありがとう。そこまでは理解できた──だが何故こんなに沢山、墓に置いたんだい? それから『ジェーケーフウコ』って何者、お墓の番人なのかい? 何よりネコの君を僕に取り憑かせるなんて、そいつは人ではなく新手の魔女とか?」
僕は一気にミケに質問攻めにした!
余りにも奇想天外すぎて、たとえ瞑想中とはいえ何か口を開かないと脳内がおかしくなりそうだったからだ。
( まあまあ、カール様。少し落ち着いてくんなせえ! 貴方様が疑問に思うのも無理もない。よござんす。ひとつずつお教えしやしょう!)
「しやしょうって……」
僕がネコの言葉に呆れ果てているのを尻目に、ミケネコはにゃんにゃん!と楽しげにテレパシーをさらに流した。
( カール様。先ずJK風子様はですね~、JKと言うのは高校生の略称です。カール様の世界でいう高等学院に通っているご令嬢の事ですよ。つまり普通の可愛い女子高生で名前が風子というのですにゃん。風の子と書いて『風子』と呼びます。後、この世界には『魔女』なんて概念は過去の遺物としてどこにもありませんにゃん! )
「え、この世界って……それじゃあここは僕の居る世界とは違うのか?」
( そうざんす。ここはあなたの現世ではなく、カール様が転生する前の世界ざんすにゃーよ!)
「転生する前の世界……前世だって?」
ようやく僕はミケがいっている違和感が飲み込めてきた。
この場所は転生前の世界、つまり僕の前世の場所だとおぼろげながら理解した。




