Last Stage
「タジマよ、このままネットカフェで転々とするつもりなのか?」
「い、いや……。そんなわけじゃ……」
ネットカフェからすれば、何日も同じ人間が占拠すれば怪訝そうに見てしまうのも無理はない。そうした場所を転々としたら、その先に待ち構えるのは路上生活という最悪のケースだ。
「それなら、俺たちと同じ屋根の下で暮らしてみないか?」
「同じ屋根の下って、どういうこと?」
「俺たちはメンバー3人がマンションで共同生活をしているんだ。もちろん、家事の分担などのルールは守らないといけないけどね」
タジマは、俺たちの言葉に耳を傾けながらもその場で自らが抱える事柄を伝えようと口を開いた。
「ちょっと聞きたいことが……」
「タジマ、どうしたんだ」
「実は、借金がまだ60万円残っていて……。ウイルス禍になる前には15万円ぐらいになったけど……」
俺たちは、借金への苦悩がにじみ出たタジマの様子を見てすぐに手を差し伸べることにした。この借金はタジマが自分で作ったのではなく、芸人仲間だった男から保証人になってほしいと頼まれたのが始まりだからだ。
「仕方ないなあ。残りの借金はこちらで立て替えてやるから」
「あ、ありがとうございます!」
「その代わり、俺たちのCeroTubeチャンネルに協力してくれないかな。企画やアイデアの立案とか、必要な撮影機材の積み込みや屋外への設置とか……」
「CeroTubeチャンネル?」
タジマは、ネットカフェを転々としていたのにCeroTubeチャンネルのことは全く知らないようだ。そんな中でも、俺は相手の気持ちに寄り添いながら語り続けた。
「俺たちだって、最初はCeroTubeの『せ』の字なんか知らなかったぞ。タジマなら、大食い企画といった俺たちが考えない企画を立てることができるだろうし」
未知のことに、俺たちもタジマも不安を感じるのは同じことだ。俺たちの思いに、タジマはそれに応えるように自らの口から言葉を返した。
「足手まといになるかもしれないけど、よろしくお願いします」
相変わらず小心者のタジマだが、新境地へ挑むに当たっての意気込みは本気だそうだ。もっとも、タジマが過ちに手を出したことへの代償はない訳ではない。
「次も同じようなことをしたら警察に突き出すからな!」
「は、はい……」
サンニンビンゴの竹本の凄みを持たせた声に、タジマは何も言うことができない。出来心で道を踏み外した今回の出来事は、竹本への負い目を改めて感じることとなった。
けれども、そんなタジマに手を差し伸べる人がいるのもまた事実だ。タジマは、これから同居する相手を裏切ることなく力を尽くしたいと心に誓った。
やがて、サンニンビンゴはお笑いライブの本番が迫ってきたのですぐに楽屋から出ることにした。俺たちシンゴーキのほうも、トリとしての重責を負いながらお客さんを楽しませようと3人揃って確認し合っている。
「それじゃあ、俺たちもそろそろ本番だからここから出ないといけないな」
「タジマは出演者じゃないし、ホールの外へ出て待っておいてね。マネージャーにも伝えておくから」
「えっ? どういうこと?」
「今回は感染防止策で事前のPCR検査で陰性の人しか出演できないことになっているの。ルールはルールだからね」
俺たちが廊下に出てステージへ向かう中、付き人名目で後ろからついて行こうと考えていたタジマの目論見ははかなくも崩れ去ったのだった。