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5th Stage

「ほら、こうやって画面を大きくすれば」

「わわわっ! 分かった! 分かった! 僕が悪かった!」


 タジマは、俺が見せようとしたスマホの画面の中の証拠を遮る仕草をしながら声を上げて叫んでいる。この様子に、俺は目の前の相手を落ち着かせようと言葉を選ぶように話し掛けている。


「俺は、ウィルス禍の終息まで我慢しようと呼びかけることは絶対に言わないようにしている。グルメのロケもダメ、飲食店のバイトもクビだと収入は一瞬にして失ってしまうわけだし」


 俺のほうから冷静に言葉を伝えると、タジマはしばらく沈黙した後にゆっくりと口を開いた。俺たちは、表面的な部分とは違うタジマの別の一面を垣間見ようと耳を傾けている。


「僕は、僕は……」


 タジマは、沈黙を破るように自分の気持ちを率直に語り始めた。それは、貧乏生活を経験している俺たちよりも厳しい境遇に置かれているタジマの状況をそのまま表している。


「かつての芸人仲間からの頼みで保証人になったのがそもそもの始まりだけど、そいつが何も言わずにアパートを引き払ったまま姿をくらまして……」


 200万円の借金だけが残ったタジマは、その後バイトを掛け持ちして何とかしてカネを返そうしていたそうだ。アパートの家賃も滞納することが多かったが、滞納していた分をまとめて払うことで何とか生活することができた。


「そんな中で、情報番組のオーディションに合格してグルメリポーターとしての仕事をすることになった。お笑い芸人の仕事とは違うけど、僕は与えられた仕事にまい進しようと全力で取り組んでいた。その仕事ぶりに、他の局でも似たような企画のリポーターが次々と舞い込んできたわけだが……」

「それが、ウィルス禍でグルメのロケ企画は全て中止でリポーターとしては失業状態ということか」

「その通りで……。同じ頃に、5年間勤めていた飲食店のバイトもクビになって……」


 悪いことばかりが続くというのはこのことだろうか。タジマは、俺の前で自分の現況を力ない言葉でさらに語り続けている。


「もうすぐ借金も完済できるという矢先で仕事を失っただけでなく、家賃も再び滞納した挙句にアパートを追い出されたんだ。それからは、ウィルス感染を覚悟の上でネットカフェ難民に……」


 俺はネットカフェ難民というタジマの訴えを耳にしながら、十数年前に社会問題となった事柄がウィルス禍で再びあぶり出される現実を思い知らされた。


 そこで、俺たち3人はタジマの今後について小声で相手に聞こえないように話し始めた。


「住処を失った芸人をどうするべきか」

「このままだと、カネがなくて何かをやらかすかもしれない。本当に警察沙汰になったら……」


 お笑いトリオのメンバーたる俺たちが売れた後も3人揃って同じ屋根の下で暮らしているのは異例中の異例だ。けれども、血が繋がっていなくても不都合と思ったことは一度もない。


 俺たちは、タジマに対する3人の思いをこの場において伝えることを改めて確認した。

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