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小柄な竜に恋をした、不器用な治癒術師 ~バルツクローゲン魔法学院、教師の職場恋愛物語~  作者: F式 大熊猫改 (Lika)
本編

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第六話 竜と仲直り

 ヨランダは新入生の歴史の授業のみ担当。なのでまだ時間には余裕がある。しかしだからと言って、兄を生徒として編入させるのは如何なものか、と頭を抱えながら校長へと会いに来ていた。

 突然の事で校長は目を白黒させるが、ノチェとは中々に親しい仲らしい。今のところ前向きに考えてくれているようだ。


「と、いうわけで、知り合いの子が入学したがっていてな。魔法の素養は申し分ないし、本人のやる気も十分だ。少し年齢が若いが、問題ないだろう?」


「まあ、他ならぬお前の頼みだ」


 じぃぃぃぃ、と校長はブカブカの制服に身を包んだ少年を見つめる。ヨランダと同じく栗色の、男の子にしては少し長めの毛。あとで切ってあげようとヨランダは密かに企んでいる。


 校長は少年と目を合わせるように少し、しゃがみながら質問を。


「君の名前は? 得意な魔法はあるかな?」


(あぁ! 校長! そんな子供に話しかけるみたいに! 兄さまがブチきれてしまう!)


「はいっ! 校長先生っ! 僕はマルティンといいます! 得意な魔法は……ん-っと、火を出すのが得意ですっ!」


「ぶっはっ!」


 思わず吹き出してしまうヨランダ! 兄が、あの兄が……こんな高い声で可愛く自己紹介しているっ!


「す、すみません……花粉症が……」


 ヨランダに向けて兄の殺気が明確に向けられている。あとでシバかれてしまう、と震えるヨランダ。


「えー、マルティン君。では少しだけ編入試験を受けてもらう事になると思う。編入は基本的に受け付けていないからな。しかし先生方にそれなりの実力を見せて貰えれば納得してもらえるだろう」


「はいっ! よろしくおねがいしますっ!」


 ビシっ! と姿勢を正し元気よく返事をするマルティン君。校長は満面の笑み。

 そのままヨランダ達は挨拶しつつ、校長室を後にする。


「ではお邪魔しました、校長先生……」

 

 

 ※



 三人は妙に天井の高い学院内の廊下を歩む。静かで空気が澄んでいる。青空の下よりも体感温度が低く、冷え性のヨランダは少し肌寒いと感じる。


「はー……笑い死ぬかと思った……」


「いい度胸だな、ヨランダ。俺の名演技を笑うとは」


「ひぃっ! す、すみません、兄さま……」


 ガクガク震えるヨランダ。するとノチェは、マルティン君の肩へとひょい、と布団が干されるように乗り込んだ。ヨランダはいつもは首に巻いているマフラーが取られた、と寂しそう。


「いやはや、肝が冷えたぞ、マルティン君。吹き出すヨランダを窓から外へ吹き飛ばすんじゃないかってな」


「大事な妹にそんな事をするわけないだろう。なんだったら貴様をここの屋上から落としてやろうか、ノチェ」


 確かにヨランダは兄に手を上げられた事は無い。しかしその凄まじい怒号で幾度もなく気絶してきた。それを繰り返していると、今度は顔を見ただけで気絶するようになってしまった。


 そこでふと、マティアスの事を思い出す。マティアスは生徒に向けて、大声で叱りつけるようにしていた。何故あんな事をしていたのか。何か、マティアスなりに理由があるのではないか。


「兄さま、なんでいつも……私を大声で叱りつけるんです?」


「なんだいきなり」


「いいから、答えてくださいっ! 兄さまはいつもそう! 私を何度も何度も気絶するくらい叱りつけて! その理由を教えてくださいっ!」


 ふとマルティン君は小さな顎に手をあて考える。そして……


「ヨランダが俺にとって大切な存在だからだ。道を外れようとするなら、片足を千切ってでも止める。それが、いわゆる……人間的に言えば愛だろう?」


「兄さまの愛は重すぎますっ! 片足千切ったら、一か月くらい生えてこないんですからね、人間って」


「ヨランダ、人間はそんな便利な生き物じゃないぞ」


 ノチェに突っ込まれつつ、他愛のない会話をしつつ三人は長い廊下を歩き続ける。すると一時限目終了の鐘が鳴り響いた。同時に一気に賑やかな空気があちらこちらに。生徒達が授業から解放され、教室から出てきたのだ。


「次は……マティアス先生の授業……」


 謝らなくてはならない。ヨランダは素直にそう思った。あの時はすぐに兄を連想し、それと重ねて一方的にマティアスを責め立ててしまった。兄がヨランダを大切に(?) 思うように、マティアスも彼なりに生徒達を思っていての行動だったのだろう。


「ごめん、二人とも! ちょっと私いってくる! ノチェ、兄さまのことお願い!」


「サラっととんでもないお願いするな」


 ノチェの苦言を聞き流し、ヨランダは自身のクラスへと駆け抜ける。そんなに足は速くないが、まあ、駆け抜ける。


 

 ※



 自身のクラスへと辿り着いた時、既に生徒は移動し始めていた。ヨランダは屋外に行くのだろうと、生徒達と一緒に行動する。

 屋外での授業、そこは中庭より少し離れた位置に存在する授業専用の広いスペース。森のような中庭で、広々と開けた場所が。そこでは既にマティアスが準備しており、ヨランダはゴクっと生唾を飲み込みながらマティアスの目の前へ。


「マ、マティアス先生」


「……? どうされました、ヨランダ先生」


 マティアスは至って普通だ。何事も無かったかのように……いや、目を合わせてくれない。マティアスはずっとあらぬ方向を向いている。


「あの、マティアス先生……すみませんでしたっ!」


 突然の謝罪に生徒含め、マティアスは目を丸くする。一部の勘のいい生徒は『なんだ、もう仲直りするのか……』などと思っているがそれはさておき


「私、マティアス先生の事も考えずに……一方的に上から物を言って……」


「いえ、私も軽率でした。申し訳ありませんでした」


 深々と生徒の前で謝罪するマティアス。生徒にとって、それは二度目だ。マティアスは先ほど、生徒にヨランダのいう通りに謝っている。そしてヨランダに対しても謝罪した。生徒達は再び、マティアスという人物についての見識を深めた。この先生はきっと、人付き合いがド下手糞なんだろうな……と。しかしそれは決して好感度が下がったわけでは無い。むしろ上がった生徒の方が多いだろう。


「い、いえいえいえいえ! 私の方こそごめんなさい!」


「いえ、私の方が悪いです」


「そんなわけないです! 私の方が悪いんです!」


「いえいえ、私の方が……」


 これはツッコミ待ちだろうか? と生徒達は首を傾げた。よく見れば、ツッコミ役のノチェが首に巻き付いていない。まずい、このままでは永遠に二人のイチャつく姿を見せられるハメになると、勇気ある女生徒が二人の間に割って入った。


「あの、先生方、もう授業始まるのでその辺で……」


「ぁっ、ごめんね、アリデルちゃん……じゃあ私はこれで……授業頑張って……」


 そのままヨランダは立ち去ろうとするが、マティアスに呼び止められた。


「ヨランダ先生、よろしければ見ていきませんか。また私が度が過ぎる真似をしたら、叱ってくれると助かります」


 度が過ぎる説教でもする気か、と生徒達は真っ青になりつつ、希望の眼差しでヨランダを見つめた。その目にヨランダが叶う筈もなく、というか授業を見られるのなら参考にしたいと自分から見学を申しでる。


「はい、喜んで……。マティアス先生を見習って、私もビシバシいきます! がんばります!」


 途端に先行き不安になる生徒達。あぁ、ノチェよ、今貴方は何処に? この二人だけではあらぬ方向に突っ走ってしまうと、この場に居ない白猫を想うのであった。



 ★☆★



「クシュッ!」


「可愛らしいクシャミだな、ノチェ」


 ヨランダに置いて行かれ、適当に学園内をふらついている二人。マルティンの肩に干されている白猫は、鼻をごしごしと前足で擦る。

 今はお日様のあたる学園内の庭園に居る二人。マルティンはお腹が空いているのか、そこにある小さな果物をつまみ食い。


「こらこら、マルティン君。勝手に食べちゃ……んぐ、モグモグ……」


 文句を言ってくる猫の口元にも分けてやるマルティン。これで共犯なのだから何も言えまい。


「人間の姿になるのは……いつ以来だろうな。たまには悪くない」


「マルティンという名は咄嗟に出したのか? ダフィネル。懐かしい名だ」


「……ふん」


 もう一つ、と実を頬張るマルティン。すると後ろから人の気配がした。


「こらぁー! どこの生徒? 摘まみ食い厳禁! ……って、うわあぁぁあ、可愛い男の子だぁぁぁ!」


 トンガリ帽子にマントを羽織った女性、胸元にはレッサーパンダを模したバッジが。

 

「で、でもでも、可愛いからって許されるわけじゃ……」


「ごめんなさい……僕、お腹が空いてて……」


「ぐああああぁぁぁ! 許す! ついでにご飯も作ってあげる……!」


 ニヤリ、とノチェにむけて怪しい笑顔を見せるマルティン。ヨランダにとって恐怖の象徴が、こんな可愛い声を出して女性を誘惑する。ノチェは呆れるように小さく溜息を。


「もし、貴方はここの管理者か? お見受けしたところ……魔法使いのようだが」


 トンガリ帽子の女性は、いきなり喋り出した白猫をまじまじと見つめた。少し不審そうな顔をしつつ、よくよく観察を。しかし女性はとりあえず頷き、自己紹介。


「うん、そうだよ。私の名前はハイデマリー、庭園の魔女とは私の事サ!」


 ビシィっ! と胸を張るハイデマリー。そのまま食事の支度をするから中にお入り、と手招きしながら小屋の中へ。マルティンとノチェは、その魔女の名前を聞いて唖然とする。


「ハイデマリー……? まさか、あの豆粒だった子供が……」


「無事に……育ってくれたようだな……」




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