【第二話】特定されたら、ヤバいんです
本日二回目の投稿です。
「で、部長、お話しの続きは?」
ごんちゃんのマーカーが止まる。
「お?なんの話だ?昨日の配信か?主人公の声優さん、すげーよな?」
「違うですの!部長の話って言ったら邪馬台国ですの!」
「あ?あのホラ話か?ハカセも物好きだよなぁ、偽物の銅鏡まで用意するなんてガハハハッ、あんなんじゃ、誰も騙されないぞ?」
え?二人とも知っているの?
偽物?
ふーん。
先にこの二人には、お話ししているんだ。
へーっ。
私は3番目なんだ。
ほーっ。
確かに興味はない!
ないんだけど!
……なんか腹立つ!
同じ陸上部の、部長と副部長なのにっ!ハカセとジョシュなのに!
部外者の二人にはお話ししているんだ!
私より、先にっ!
そんな私のモヤモヤした気持ちを無視して、部長は話し出す。
「方角と距離、そして暮らしぶりも書かれているんだ」
「ふーん」
「ジョシュ?なんか怒ってない?」
「べえっっつにいぃ」
「ハカセ、サヨは一番に話して欲しかったんですの、ロズマリには分かりますですの」
ギロッ!
「い、い、今のはロズマリの寝言ですの……気にしないで下さいですの……ロズマリは寝ています……」
かきかき。
ホワイトボードに何やら書き始める部長。
九州の地図?
「ここ、先ずは末蘆国に上陸する。唐津とか呼子あたり、まあ他にも諸説在るけど、おおまか九州のこの辺り。ここから東南に陸500里で伊都国に到着。更に東南100里で奴国、東に100里で不弥国、ここから南に水行とあるから船だね、船で20日進むと投馬国、更に南に船で10日、陸行で……歩きで一月、邪馬台国到着!となる」
「え?部長!九州、飛び出ているじゃん!海だよ?」
「そ、ここがまず問題その1、そのまま行ったら海なんだ、それと国名と現在の地名、答え合わせが難しいんだ」
「距離も、500里ってどうやって測ったのかしら?それに方角も!」
「おお、さすがジョシュ、そうだよね」
「距離498里じゃ駄目なの?」
「わはははは、さすがにジョシュは面白い!」
?
なんか笑われるようなこと、言ったかしら?
「まず、問題その1、九州を飛び出るのは、当時の地図なんだ」
「地図?」
「当時の日本地図は今と違って、東北に長い島国じゃ無くて、右下がり、東南に長く記されている」
「お、じゃ、それに当てはめればいいわけね?」
「まあそうすると、近畿説になる、もしくは九州内で収まる説か」
「近畿説?九州説?」
「実は九州説と近畿説が主力なんだ、他にもあるけど」
「いつから揉めているの?」
「江戸時代から揉めているらしい」
「うわ、それでも見つからないのね。ん?方角はどうやって決めたの?」
「方位磁石がある」
「ええっ!?」
「木に磁石を乗っけて水に浮かす、はい出来上がり!」
「おお!それで方角を決めた!?」
「で、これを呪術的に見る」
「お、部長の得意分野ね?」
「まず、ジョシュ、特定されたらどう思う?住所、氏名、年齢、その他個人情報」
「えええええ!?イヤよ!駄目!困ります!怖い!絶対駄目!」
「だろ?日御子さまも一緒なんだ」
「え?」
「特に呪術師、場所の特定はしてはいけないし、嫌うんだ。呪術師は基本ハーミット」
「はみっと?」
「ハーミット、隠者さ。当時、呪術は深く信じられていたし、恐れられていた。自国、他国関係無しに、だ」
怖いけど必要だと?畏怖と尊敬か?
「そんな巫女がいる国、暴露するか?呪われるかも知れない、もしかしたら自国の政敵が利用するかも知れないぜ?どうする?」
「え?でも紹介はしないといけないよね?近くの国だし、貴重な情報、色々と使える。あ、でも詳しく書きすぎると呪われるかも知れない?政敵なんかに利用されるかも知れないかな?でも、助けを求めたり……しないといけない場合だってあるかも……」
「だから、途中までは事実を記載している」
「知って欲しいが、行って欲しくないと?でも、それじゃさ、いざ、という時、辿り着けないじゃん」
「普通に読んだら辿り着けない。でも、呪術の関係者が読むと、読み解ける」
おいおい、部長?本当か?
あっやしいなぁ?
「近場は正確に記してある?」
「そ、途中からは曖昧なんだ、距離が書いてなかったり、方位が微妙だったり、地名が抜けたり、邪馬台国に近づけば、近づくほど、曖昧ないんだ、ここ、不弥国からは水行、陸行の日数のみ、何里かは書いていない、不親切だろ?最後の投馬国、水行10日、陸行一月、これ、船の後、歩きで一月?それとも船なら10日、歩きなら一月?どっち?水行10日の地点で地名が抜けている。今までは全て、地名が記載されていたのに!」
「単に、作者が知らないだけだとか?地元調査員に聞いていないとか?あと、途中で行くの止めて、聞いた話だけで済ませた!とか?」
「ま、それもアリだね。じゃ手抜きか?というと決してそうじゃない。鳥や獣について詳しく調べている。この国には、カササギがいないと断言しているし、虎や豹もいないってね」
「す、すごいじゃん!」
「これ、呪術的意味がある」
「え?カササギ?それとも虎?豹?」
「ふふっ、解けるかな?そして樹木だ」
「?」
「樹木の種類にも触れていてね、一番初めにタブノキが紹介されているんだ」
「たぶのき?余り聞かない木ね?」
「そう?でもタブノキは呪術師、特定の異能者にとっては、特別な木なんだ」
「特定の異能者?異能者って種類があるの?」
「ある。特にタブノキは、俺が属する系統の異能者達、異常に反応するぜ。最初、魏志倭人伝を読んで、タブノキの記述があるのを見て、ぞっとしたよ、それくらい意味のある木なんだ」
「ふーん」
ごめん、部長、私には分からん!
「この魏志倭人伝の筆者は呪術を知っている。少なくともタブノキを記して呪術者に警告している」
「そ、そうなのですか?」
「だってよ、事実、呪術者の俺にはタブノキのメッセージ、届いたぜ」
え!?記載だけで?
「どんなメッセージなのですか?」
「まあ、気づいた者は心して読め、解いても沈黙しろ、ってところかな。で、呪術的に読むとおおよそ見当がつく。そこで夏休み始まってすぐに、行ってみたんだ」
「どこへ?」
「邪馬台国」
「部活さぼって何しているんですか!またホラ話を!」
だが、私の背中には冷たい汗が流れた。
連続投稿です。
次話、暫しお待ちを。