【第十二話】ビルの中が、ヤバいんです。
今晩は。
投稿です。
その人物は……あれ?何処かで、見たことあるぞ?
うん、見たことある!この人!
答えたのは部長だ
「県知事だ」
え?県知事!?
「こいつは、室町時代からこの姿、裏でこの街を操っている人物だ」
「え?」
なにそれ?
で、なんで部長はそれを知っているの?
「葉枷、なんで知っているんだよ!」
聞いたのはバスケ部長。
「明治維新の時、封印したと記してあった」
あ、俺の系統のとか言っていた?
日記みたいな記録がある?
「一度は封印されたはず、どうやって解いた?」
「教えるとおもうかね?愚問だよ、きみ」
その声はザリザリと耳障りな声で、軽い目眩を起こすほど気持ち悪るかった。
「ここは精霊不在の地、異能者よ、助けには誰も来ないよ?まあ、しかしよく、ここまで辿り着けたね?葉枷一族、誉めてやるよ。この地にまさか足を踏み入れるとは」
何を言っているのだろう?
「依代も割れたであろう?」
あ、これは分かる、確かに銅鏡二枚、割れた。
「時期、その手の中の勾玉も割れる」
!
「このビルの建設にあたって、作業員、全員機密保持のため人柱になってもらった。
それ以前にもここは多くの人や罪人が死んでいる土地だ、ここには誰も近づけない。精霊も避けて通る土地、われの勝ちだ、お前達もおとなしく人柱となるがよい」
こいつの目的は何だろう?
「苦しかろう?葉枷?この地ではお前の異能は使えぬ、怨念の土地だからな!この怨念はおまえの異能を上回っている!おとなしく飲み込まれるがいい!」
この人、部長のお話からすると、元人間?
なら……結局、一番恐ろしいのは人か。
霧がエントランスに満ち始める。
「ここで死んだ者は皆、我が眷属、ようこそ、新しい眷属さん」
……なんかしゃべり方、イヤ。
霧の中からうじゃうじゃと黒い固まりが湧き上がる。
「そこの3人、憑きものは落ちたようだが、また快楽を与えてやろうか?自我が崩壊するくらいの快楽を?」
びくっ、と身を固める3人。
「……きさま、彼女達の霊体を汚したな?快楽?あれは地獄の苦しみだぞ!」
「まだ喋れるか?われにとっては、快楽じゃがの」
その知事を目掛けて、木刀が一振り、飛んでいく。
「きさま、子供に何をした!」
投げたのはお母さん。
だが、その木刀は途中でボロボロに腐れて、届かなかった。
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「酒で清めた木刀か?そんな物、ここでは通用しない、言ったであろう?ここは誰の力も届かん」
建物内の異形の黒い影は強かった。
倒しても、なかなか黒い煙にならないのだ!
じりじりと追い詰められる私達。
「どうした?加護が無ければ、何も出来ないか?現代の呪術師は弱いのう」
あ、部長の様子がおかしい。
「どこにいる?どこかに、イマスはずだ!」
探している?
「必ず、どこかに救いははあるはず、どこだ?見逃したか?気づかなければ、地獄の始まりだ!」
何を言っているの?部長?
「あ!?一柱だけおられる?」
?
「何を言う?ここは現実の陰、半分は幽界ぞ?人に与する柱はいない、この穢れきった世界に柱はいない!入り込むことすら出来ない!」
「ここ、……トイレの神様がいる!」
え?トイレ?
「は?糞神か!?」
「あ、その言い方!お前怒られるぞ、トイレの神様は厳しいんだ!それに物質世界において最強無比!人の言うことあまり聞いてくれないけど、ここにもおられる!」
まあ、とても大きなビルだし、トイレはあるだろう、使うかどうかは分からないけど。
と、私がそう思った瞬間、壁にトイレ表示が現れた!
ドカッ!バキバキッ!
ロズマリの拳が、蹴りが、次々に黒い影を粉砕しはじめた!
え?ロズマリ、なに?突然?木刀以上?
「降りた!無敵の神様が!」
「なっ!?」
突然の反撃に驚く主。
玉座の階段を駆け上がるロズマリ。
その背中が光って見えるのは、私だけか?
「我を糞神と罵ったは、お前かあああっ!」
そう叫ぶロズマリ。
階段に湧き上がる黒い影を次々に粉砕する。
その後に続く、お父さんとごんちゃん。
部長は私の足下でダウン。
「ばかな!?この地では神々の力は振るえないはず!加護も守護も憑きものは全て効かぬはず!?この地に降りる神などおらぬっ!この娘、何者だ!?」
……この割れた銅鏡、使えないかな?
取敢えず、投げつけてみる。
ぱこーん!
「ぐわっ!」
あ、当たった!
うわぁ痛そう。
玉座の主は玉座から転げ落ち、階段途中でロズマリと対峙する。
が、起き上がった姿は、人ではなかった。
口が裂け、目はつり上がり、犬歯が異様に長い!
側頭部にはそれぞれ角が生え……幽鬼?という言葉が合うような存在になっていた。
その幽鬼に対して、ロズマリは怯まない!
ロズマリは見たこともない速さで連撃する。
どうしたの?ロズマリ?
強いロズマリは頼もしいが、私はなんだか怖くなってきた。
私は次々に破片を投げつけた。
落ちた破片は更に砕け、周囲の白い霧を寄せ付けない。
お母さんも投げ出した!
場所を確保する私達。
「往生際が悪い者達だな!」
「お前のことだろう!」
お父さんが幽鬼に迫る。
お母さんが投げた銅鏡の破片をキャッチして……え?
拳に握り込み……!
ぶん殴った!
「あの交差点は思い出の交差点!皆の街の交差点だ!それを汚しやがって!俺達はな!一つでも事故を減らそうと、毎日、白線引いてんだ!少しでもいい道にしようと!それを!」
主はブワッ、と霧になると、瞬時に玉座で再生した。
日本刀に手を伸ばし、すらりと引き抜く。
そこに、ごんちゃんがタックルをする。
あ、危ないよ!ごんちゃん!
幽鬼を倒し、刀を奪い、何かを私に向けて投げた!?
「……さま……壊してください!……玉手箱です!」
!?
玉手箱!?
浦島太郎!?
ゴトリッ、と鈍い音を立て、目の前に落ちる異形の箱。
建物が、振動し始める。
……なにこれ?
寄木細工箱?
「浦島太郎の玉手箱だ!壊すんだ!」
足下の部長が叫ぶ。
え゛?
どうやって?
これ、頑丈そうよ?壊れるの?
壊していいの?
「竜宮の乙姫さまの呪物、あいつは、それを悪用した!」
「そ、それに触るな!」
突然、目の前で実体化する幽鬼!
「そんなに大事な物なら、金庫にでも入れとけ!」
お母さんが一升瓶で幽鬼をぶっ叩く!
パカーンと割れる一升瓶!
中のお酒がなんと、幽鬼を焼いた!
煙が出て、火がついたのだ!
「ウガアアアアッ!」
部長はその幽鬼の両脚に体当たりをする。
私は、お父さんに倣い、勾玉を握り締め、思いっきり箱を打った。
パアアアアンッと乾いた音が、エントランス内に響きわたる。
拳は裂け、血が流れたが、箱は割れた。
……痛い。
……指、折れた?
勾玉は、私の手の中で砂のようになった。
勾玉はなくなった。
卑弥呼さまとの繋がりが切れたみたいで、私は少し、いや、とても悲しくなった。
謎の箱は、消火器みたいに白い煙を吐き出した。
「おおおおおっおぐっおぐっ……」
その煙に包まれ、目の前の幽鬼は痩せ細り、ついには砂のようになり消えていった。
「ビルが崩れる!出るぞ!」
煙は終わることなく、その箱から出続けている。
外に出ると、ビルは煙に包まれ、その中から蛍のような光が次々現れ、消えていった。
その数は天ノ川のように多く、綺麗だった。
「こっちよ!潮の匂いがする!」
私は先頭に立ち、皆を誘導した。
気がつくと、そこは交差点中央。
「え?」
「帰ってきた!?」
皆、無事に帰ってきた!
皆に感謝!
jさんにも!
あの場の画面の皆にも!
勾玉にも、神社の神様にも!
ズッキン、ズッキン。
ん?右手が痛い?
視線を移すと、右手が大変なことになっていた。
あ、骨……見えてる……血も沢山……私はそのまま、すーっと倒れた。
次回投稿で完となります。