セカイが戦いと嫁を求めている。
この短編は後書きを持って完結します。後書きも表示してお読みください。
情報として挿絵が必要です。出来る限り、お手数ですが挿絵を表示できるようにしてお読みください。より一層楽しめるかと思います。
「男が……多くないか?」
異世界へと転生したボクが、前世の自意識を取り戻して、最初に抱いた感想はそれだった。
十歳という年齢で前世の知識を取り戻したボクは、興奮より困惑を覚えた。
異世界といっても、見慣れない動物こそいるが魔王はいないし、魔法もない。
では地球に似ているのか、というとそうでもない。
知っている国の名前が近隣になく、地名もまったく聞き覚えがない。発音が違うとか、別称や別表記であるというレベルではなく、知っている地名が皆無である。
歴史に元の世界とまったく同一性がなく、近代のような文化を持ちながら、稀に21世紀と並ぶ文明の機器などがある。
そんな場所で、とある大陸のとある王国の子爵の長男としてボクは生まれた。なんと封建主義が、この大陸では健在だ。
記憶が戻ったのは1年前。つまり今のボクは十一歳である。
それはともかく、男が多い。
「いや、多いじゃない。男しかいない!」
屋敷の中は男、男、男、男男男。
千差万別、いろいろなタイプの美男子、美……美、中年?
子爵家の使用人ということで、男であっても顔がいい人を集めているのか?
それはいいが、男性しかいない。
不安だな。この家になにか問題があるのかもしれない。
子供部屋に隣接した執務室という勉強部屋で、ボクは腕をこまねき考える。
現在、父親は王都で公務、母親は外国に行っているので、この点の事情を聴くことができない。
メイドもいない。別にメイドが好きというわけではないが、一人もいないというのは気になる。
貴族子息ということもあり、街を自由に歩いたことない。移動時、馬車の窓から覗く光景にも、女性の姿がそれほどなかったような気がする。
あまりに女性がいない。
宗教的問題で、人目につかないよう女の人が家の中にいることが多いのか?
大陸では女性が逃げないようにと、足を靴で小さく矯正する文化などあったが、それとも違う気がする。
ただの人口比なのか、異世界の文化なのか、なにか事件があったのか?
手元にある勉強用の本に、それらの解はない。
「いかがなさいましたか? 坊ちゃま? 読んでいる本で、なにかわからないことでも?」
教育係も務める家令のじいが、悩んでいるボクを見かねて優しく尋ねる。
絵に描いたようなロマンスグレー。
執事喫茶にでもいそうな男性だ。
転生前。こういった渋い男性を、執事喫茶くらいでしかみたことないので、例える男性が思いつかない。
「いや……。じい。うちが武門の家柄だから、屋敷の中は男ばかりなのか?」
ボクは、じいに男ばかりいる屋敷の事情を尋ねてみた。
変なことを尋ねる子供だと思われないか、内心ではびくびくしていたが、じいは快く答えてくれる。
「それはわが国が外征をしたことがないからです。多少、攻められたことはございますが、すべて小規模な戦闘で収まっております」
「そうか。対外戦をしたことがないから……ん? どういう意味だ?」
一瞬、納得しかけたが、まったく関係性が伺えない。
まさか女性は略奪するもの、というわけでもあるまい。そんな野蛮な家風も、国柄も感じられたことも聞いたこともない。
仮にそうだとしても、街で女の人を見かけない理由には……いや、なるか?
男性が女性を攫う世界なら、家からあまり出ない文化になるだろう。
不安が顔に出たのだろう。
じいが何かを決意したようで、その瞳と纏う空気が変わった。
「このことについては、まだ坊ちゃんにはお教えしておりませんでしたね。坊ちゃんのご両親から説明してもよいのでしょうが、私からお伝えするのも責務……」
「一大事にございます!」
坊ちゃんは止めて欲しいな、と思いながら、歯切れの悪いじいの説明を聞きいていると、急報がすべてを断ち切った。
執務室のドアを開け、ノックも忘れてた兵士が駆け込んできる。
「北の山を越えて、隣国の者たちが攻めてきました!」
「なんと! あの険しい山を越えてですか!? 山岳警備のものは!」
「警備のものは国境を抜かれたあと、敵の後続部隊と戦闘状態で動けないもようです!」
「そこまでして……。まさか旦那様不在の時、坊ちゃんだけを狙って……」
じいは強ばった顔で、ボクを見つめる。
え? ボク、なんかピンチ?
「年頃の子どもは少ないですから……」
兵士も不安を肯定するような反応を見せる。じいと兵士のつぶやきを聞いて、そういえばとボクは気が付いた。
同年代の子どもにもあったことがない。
子供が生まれにくい、もしくは成人するどころか育ちにくい環境なのか?
じいの歯切れが悪かったのも、これが原因かもしれない。
戦争で子供が狙われる世界、などという可能性がでてきた。この点については、あとでちゃんと聞いておこう。
報告にきた兵士は、屋敷に立てこもるため準備をする。と言い残し飛び出していく。
幸い、この周辺は使用人や屋敷の維持に必要な人家しかなく、屋敷内への避難も滞りなく進んだ。
要塞や城というほどではないが、外周が堀と堅牢な壁に囲まれているため、少しは安心できる。
もっともそこを突破されたら、あとは綺麗な庭があるだけで屋敷は丸裸も同然だ。
やがて頼もしいことに夕刻には、隣の村から増援の騎士と兵士たちが到着した。
「ガハハハッ! 坊ちゃん。ご安心ください!」
増援を兵士を統率する騎士は、大柄で精悍な壮年の男性だった。
顔のあちこちを覆う傷痕が目立つが、それも彼の強さを表しているかに見えた。
ちょっと怖いけど、こういう時に彼が味方だと頼もしく思える。
傷の騎士は、豪快に笑いながらボクの背中を叩く。
「坊ちゃんは運がよいですぞ。なにしろ、相手はこちらに俺様がいると知らんようですからな」
「げほっ……そうなの?」
「俺様が隣の村に来ていたのは偶然ですからな。戦力と数えておらんでしょ。なにより俺様が近くにいる時に、攻めるようなことはせんでしょうからな! ガハハハッ」
「そうなんだ」
自信満々な傷の騎士に口ぶりに、ボクも少しだけ落ち着きを取り戻せた。
「それに、今回、攻め手の部隊長は、我が家とは因縁のある分家でしてな。ソイツは俺様を兄のようにしたっておりまして。まあ、なんですか。ガハハハッ! 安心してください!」
他国なのに、親戚がいるのか……ああ、そういうこともあるか。国境を取ったり取られたり、裏切ったり、婚姻があったり……ん? あるのかな、婚姻。
「分家が敵だと、安心なの?」
兄のように慕ってくれている親族か。
もしかして話し合いで解決できるのかな?
ボクの脳裏に、甘い考えがよぎる。
だが、それを傷の騎士は破顔して否定する。
「ガハハハッ! ソイツとはいつか一騎打ちで雌雄を決する約束をしていましてね。これを理由に一騎打ちに持ち込めば、全軍で衝突することはさけられますぞ」
「うん、確かに被害は減る。でも失礼と思うけど、万が一に負けた時は?」
話し合いは無理だが、一騎打ちで人的被害は最小限。しかし、当然の疑問である傷の騎士が負ける可能性を口にする。
「万が一もありませんが、その場合は俺様が犠牲になるだけですな。分家とはそういう取り決めになっております。ま、一回限りですが、この場を凌げるにはかわりないので、ご安心を。ガハハハッ!」
ことも無さげにいう傷の騎士。
ボクを安心させるため、尊大とも思えるほど自信たっぷりに、そして少し大げさにいっているのかもしれない。だが──。
「安心できないよ」
「……ほ?」
「偶然、貴方と分家が取り決めをしていたことで、戦いが小さくなることにボクは安心してる。それは確かだ。でも、でもだよ。一回、退いてくれても、貴方が負けてたら、もう貴方がいないわけだ。ボクは助かるけど、それはダメだ。安心できない。だから、必ず勝ってね」
ボクはわがままを言った。
戦力が減る。それは許されないし、怖い。
そんなわがままのつもりだった。
だがわがままを聞いて、傷の騎士は急に真顔となって片膝をつく。両手を立ている膝の上に載せ、そこに額を当てた。
この世界での臣下の礼だ。
「……拝命いたします」
この日、ボクたちは万全の体勢を整えることができた。
+ + + + + + + + +
夜明け近く、隣領の兵たちが山岳の方から姿を現した。
その数はこちらの兵力に対し、倍近い。
こちらが100人ちょっとに対し、200人の敵兵。
たかが300人ほどの戦場だが、ボクにとっては数千、数万の兵が集まっているかのような緊張があった。
ゲームやお話では、万や百万の兵がぶつかるシーンがある。
だけど、たかが200人の敵兵に、これほどの威圧感があるなど知らなかった。
現実の存在感は、数字では表せないなにかがある。
ボクは無理を言って櫓から、望遠鏡を使って戦況をのぞかせてもらっている。
やがて敵部隊に動きがあった。
ひときわ立派な鎧を着た騎士が、馬に乗って敵陣形の中から飛び出してきた。
一騎駆けし、弓の射程ぎりぎりのあたりで止まる。
「久しぶりですな、兄者!」
門と櫓を兼ねた正面櫓門にいる傷の騎士に向け、敵騎士が声をかけてきた。
敵騎士はヒゲの騎士だった。
鼻から上は隠れているが、兜からボウボウのヒゲが飛び出している。鎧こそ騎士だが、首から上はまるで山賊か海賊か、という容貌だ。
「おう! 久しいな! 以前の約束、この場で果たそうぞ! それを持って、今回の防衛の勝敗も決めさせてもらう!」
「このワシも望むところですぞっ!」
傷の騎士とヒゲの騎士。よほど気心が知れている仲なのだろう。
短い会話で、一騎打ちの同意がなされる。
門が開け放たれ、騎乗したキズの騎士が橋を渡っていく。
敵兵士たちは隊列を下げ、隊長であるヒゲの騎士の一騎打ちを見守る。
「では行くぞ! この身をかけて!」
「この身をかけて!」
この世界の、この文化圏の一騎打ちの儀典なのだろうか。剣を肩に当てたあと眼前にかざし、身をかけて、と宣言して二人は騎馬に拍車をかけた。
二騎は真正面からではなく、陰陽を描くようにカーブを描き、蹄跡で大地に刻み込んでいく。
互いが描く円が狭まっていく。
蹄鉄に抉られた土が、ひと際大きく、遠くに、遠くへと撥ね飛んでいった。その時、二騎は火花を散らせて交差した。
曲がりつつ交差した一瞬で、二騎は絡まるかの如く何度も槍を繰り出し、通り過ぎていく。
300余の兵たちが、この光景を見て息を呑んだ。
騎兵の重さと速さを、物ともしない二人の槍捌きは、見る者を魅了する。
二人の戦いは長かった。
修行半ばなボクでも、自陣営の傷の騎士が有利であることは見えた。だが、周囲の反応から、油断は禁物という空気も感じられた。
実際、数度は傷の騎士が不利になったこともあった。
果たしていくつ切り結んだのか、数え切れなくなったころ、ついに決着がついた。
傷の騎士が槍を折って失い、扱いにくい剣を抜こうとしたところをヒゲの騎士が畳みかける。
馬上で剣は非常に扱いにくい。
傷の騎士が分が悪いと思われた。
しかし、馬の差がそれを補った。
槍を失ったその一瞬で主の不利を悟った馬が、勝手に剣の間合いとなるよう踏み込みを切り替えた。
これがヒゲの騎士の機会を潰した。
勝手に馬が動いたのか、それとも普段からこれを想定して傷の騎士が馬を仕込んでいたのか。
どちらにせよ──
人馬一体とはこのことか。
はじめてボクが戦いの高揚を経験した瞬間、傷の騎士の剣は、ヒゲの騎士の首を捉えた。
首が飛ぶようなことはなかったが、遠目でもわかるほど大量の血が吹き出す。
これはボクの興奮を冷ますには十分な光景だった。
馬が主人でヒゲの騎士の異常を悟ったのだろう。心配するように歩を止め、馬上の主人を見るかのように体を捻った。
悲しい事に、主人を気遣う馬の行為が原因で、ヒゲの騎士は力なく地面へと落ちた。
ボクは敵であるヒゲの騎士が死んだと思った。
傷の騎士が勝って、ホッとする一方で、死を目の当たりにする恐怖も確実にあった。
あれほどの大量に血が出たら、もう助からない……、と思って震えていたら、落馬したヒゲの騎士はヨロヨロと右腕を立て、膝をつこうと身を起こす。
「あれ? 敵の騎士、あの出血で生きてた?」
「いや、死にましたな」
「は?」
ボクのつぶやきに、じいは妙な反応を示した。
「死んでたら動かないよね?」
「死んだからこそ、立ち上がるのです」
──意味がわからない。
え? ゾンビ?
困惑していると、ヒゲの騎士がついに立ち上がった。はずみで兜が脱げる。
兜に固定されていた面当ても落ち、長い黒髪が垂れ落ちた。
風が吹き黒髪が流れ、美しい女性の顔があらわとなった。
ヒゲの騎士は美人騎士だった!?
「まさか……女の人だったの? あれ? でも声は男の人だったような。いや、そもそも髭あったよね?」
威圧と男装のため、面当てにヒゲの細工がしてあった可能性もある。
だが面当てだとすると、ヒゲのついたそれはどこに行ったのか?
どこにも見当たらない。
勝ったボクの陣営は、歓声を挙げるのはわかる。だが、負けた敵陣営も、なぜか興奮気味に歓声が上がるのはどういうこと?
傷の騎士は歓声に押されるようにして、ヒゲの騎士改め、黒髪の騎士の元に馬を寄せた。
「ほう。ヒゲの手入れも下手で無骨な貴様だったが、こうなるとなかなかの美人ではないか」
さきほどまでヒゲの騎士であったことも理解しながら、それでいて眼前の変わり果てた騎士を同一人物として美人であると褒める傷の騎士。
意味が……わからない。
「くっ、こうなっては是非もない……。ワシを娶れ!」
くっ殺ならぬ、くっ娶と叫ぶヒゲの騎士改め黒髪の女騎士。
美人の黒髪ロングの騎士が、ワシという一人称は癖が強いなぁ。
「ガハハハッ! 当然そのつもりだ! 嫁に来い! そして兵は引き上げさせるのだぞ!」
傷の騎士は、当たり前だとばかりに馬から飛び降りると、さきほどまでヒゲの騎士だった黒髪の女騎士を抱き上げた。
お姫様抱っこだ。
「わ、わかった。……兵は副長に任せて、ひ、退かせる。だ、だから、衆目の前で……こんなことはやめろ、バカ!」
「ガハハハッ! 大人しくせんと落ちるぞ落ちるぞ」
お姫様抱っこを拒否しようと身を捩るが、傷の騎士の力には敵わない。
それでも抵抗しようとするが、元の体型から一回りどころか三回りくらい小さくなっているので、オーバーサイズとなった鎧が脱げ落ちる。
それがまた彼女……彼女? 黒髪の女騎士の羞恥を掻き立てたのか、両手で顔を覆って赤くなった顔を隠した。
ねえ、キミ、さっきまでヒゲもじゃもじゃのマッチョ騎士だったよね?
なんでそんな乙女になってるの?
死にそうになったから、別人となにか不思議な力で入れ替わったの?
身代わりのジツ?
いや、傷の騎士の反応を見るに、同一人物らしいけど、黒髪の女騎士が本当で、ヒゲの騎士に変装してたの?
恥ずかしがっていた黒髪長髪の女騎士は、震える手のひらを開いて、少し涙目の瞳を見せて傷の騎士に懇願する。
「あ、兄者……もちろん、ワシの兵たちは」
「わかっている! 引き上げの道中、手出しはするなよ! ガハハハッ! かわいい弟分……いや、可愛い嫁の願いだからな!」
「うぉおおおおっ!」
歓声が両陣営から挙がる。
それは勝鬨でも、自陣の代表が負けた悔しさからでたものでもない。
まるで傷の騎士と黒髪の女騎士を、両陣営が祝福するかのような歓声だった。
「あの、ねえ、じい? どういうこと?」
ボクはこれら混線した疑問の大渋滞を、雑な言葉にして纏めてじいにぶつけた。
「雌雄を決したのです」
じいは簡潔に答えた。
うん、簡潔にわからない。
「うん、雌雄を決したのはわかるよ。でも、あの敵の騎士は、ヒゲの騎士だったよね? 死んだよね? 入れ替わった? 敵が退いてくれるのはわかるけど、なんでうちの騎士と結婚することになったの?」
訊ねることが山ほどあって、うまく質問ができない。
「落ち着いてください、坊ちゃん。まず敵騎士についてですが──」
じいはそんなボクを優しい眼で見つめて答えてくれる。
「彼は見事な名誉ある女体化をした騎士なのです」
「見事な名誉ある女体化した騎士!?」
なにそのワード!
「先日、お伝えしたかったのはこのことなのです」
「ああ、ボクが男ばかりいる理由を……まさか!」
ボクは不安で身を竦める。
その不安は的中する。
「坊ちゃん。この世界のあらゆる生き物の中で、人間だけは自然に女性は生まれません。みな生まれた時は男性です。双方が同意した生死をかけた戦いで、負けた方が勝った者の嫁となるため、女体化するのです」
「なにこの世界」
男しか生まれない世界。
だが、名誉をかけて戦い、死ぬと女になって生き返る。
比喩ではなく、本当に雌雄を決する法則が支配する世界。
あれ? もしかして。
もしもこの防衛に傷の騎士が来てくれなくて、戦いに負けていたらボク、女の子にされてたの?
いまさらながら、ボクはゾッとした。
縮みあがったその時、櫓に手紙を持った使用人が訪れた。
「王都の旦那様から、急報が届きました」
使用人がじいに手紙を手渡す。
ボクが読む前に、じいが確認をする。
「坊ちゃん。王都の御父上殿よりご連絡です。どうやらこの王国で、内紛が起きたようです。御父上は陛下にお付きになりましたが、隣国はすべて敵に回っております」
「なんだって!? すべてが! まさか……今回のことはその前哨戦なのか!」
「そのようです」
この世界の衝撃的な事実を知った直後に、この国の衝撃的な事件を知ってボクは憔悴する。
男性しか生まれない世界の真実の方が衝撃的すぎて、内紛の方はあまり驚かなかったくらいだ。
まさか戦って負けると、女の子になってしまう世界だなんて……。
「戦争のない世界ってないのかな」
つい、そんなことをつぶやいてしまった。
じいの目が細まり、冷たい視線を感じる。
弱気で甘い考えを漏らしたボクに、幻滅したのだろうか。
「そのような考えは、おやめください」
「なぜだ? じい?」
少し怖いが理由を尋ねる。
じいはさも当然という顔で、恐ろしい仮定を示唆する。
「平和な世界。それは戦のない世界。どのようなことになるか、想像に硬くないことでしょう」
ボクは戦慄した。
命を懸けた戦いの勝敗でのみ、女性が誕生するこの世界。
争いのない世界となれば、新たな女性が現れないこの世界。
ボクは気が付く。
この世界は戦いを求めている。
未来は平和で緩やかな破滅か、断続的で調整された戦いで人類を存続させるほかない。
遅まきながら現実に気が付いたボクは、拳を握りしめて宣言する!
「ボ、ボクは絶対に負けないぞ、じい!」
「その意気にございます!」
ボクは……、ボクは。そうだ、ボクは負けられない!