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新しく「恋愛」が授業に導入されました

作者: 伊角 せん

「それではこの流れから読み取れる女性の心情を――はい、じゃあ大漉(おおすき)くん」

「え、俺ですか」

「はい俺です」


 先生は早くしろといわんばかりの強めの口調で俺を見る。


「わかりません」

「なに。授業聞いてなかったでしょ。それならまず問題を読みなさい」


 呆れた顔をする先生に促され、仕方なく教科書を持つ。少し読むのをためらいつつも、先生の最早睨み付けるくらいに鋭くなった目を見てようやく「えーっと、」と口を開いて問題を読み上げる。


《問題》


 高校生たかし君は前から気になっていた女の子クラスメイトのゆみちゃんとデートに来ています。


 ファミレスで食事を終えるとゆみちゃんがお手洗いへと席を立ちました。


 たかし君は今の内にとテーブルに伏せられていた伝票を見て、財布の中身が足りることを確認します。


 ゆみちゃんが戻ってきたタイミングでお会計に行き、「ここは僕が」とたかし君が支払いを済ませました。


 外へ出るとゆみちゃんはあからさまに機嫌を悪くし、その後の会話も弾むことなくデートは終了。その後の進展はなく、二人の関係はそれっきりでした


 Q:ゆみちゃんはどうして機嫌が悪くなったのでしょうか?



「よし、じゃあ答えて」

「だからわからないですって」

「なんでわからないの!? こんな簡単な問題」


 先生はあからさまに機嫌を悪くした。先生の心情なら答えてあげられそうだが、火に油なのは目に見えているので「すいません」と頭を下げる。


 そんなんだから美人なのに彼氏もできないんだよと思ったがこれも伏せておいた。殺されかねん。


「じゃあ瀬川君。代わりに答えて」

「はい、簡単です。彼女はお手洗いに行っている間にお会計を済ませていなかったことに怒っているんです」


 偉そうに飄々と答える瀬川に先生が少しだけ口の端をゆるめ、


「正解よ、流石だわ」


 と拍手を送るので何人かの生徒が追随して拍手を送る。瀬川は目をつむり、その一音一音を噛み締めていた。


「大漉君、理解できたかしら?」

「いえ、全くわからないです」


 この女はまず奢ってもらったことに感謝をするべきだと思う。キレるなんてもっての他だ。


 問題文の横には挿し絵がついていて、4つのコマがそれぞれのシチュエーションを表している。


 最後のコマのたかし君の悲壮感に溢れた顔がなんともいえない。


「あのねえ、ゆみちゃんはお手洗いに行ったけどこれはたかし君に支払いを済ませるチャンスを与えたの!」

「マジですか? 普通にトイレ行きたかっただけかと」

「違う違う違う! 違うっ!! むしろトイレに用事なんてなかったの。せいぜい鏡で身だしなみチェックして携帯いじって時間潰して戻ってきただけ」


 先生の熱弁を何人かのクラスメイトはうんうんとうなずいていた。ほんとかよお前ら。

 

 いくらファミレスで値段がリーズナブルとはいえ、二人は高校生だぞ。そのお会計を一人で持つのがどれだけ大変か……たかし、お前はよくやったよ。もっとお前にふさわしい女性がいるぜ。



「このままじゃ今度のテスト、赤点は確実よ。しっかり復習しておくこと! わかった?」

「はい……」


 つい数ヶ月前の俺なら「一体なんの授業でこんなこと習うんだよ」とかバカにしてただろうが、残念ながらこれは紛れもない現実である。


「いい、他のみんなも。こんなの勉強して将来なんの役に立つんだよって思うのもわかるわ」


 先生は教室をぐるっと見渡しながら、真剣に訴えかける。


「国語も英語も数学も歴史に地理、科学だって。ある一定の教養さえあればなんとかなる社会のしくみになってきてる。AIの発達も今以上に進むでしょうし、必死に勉強する必要はあまりないのかもしれない」


 教師らしからぬセリフだが、まだ30手前で俺たちと割りと年が近い方であるからこそ、生徒目線の視点で話すことができるのかもしれない。


「けど、この授業だけは例外よ!」


 先生は黒板をバンッと叩いて大きな声を出す。


「この『恋愛』の授業に関してだけは今からでも必死に学ぶべきと断言できるわ!」


 黒板に大きく書いてある「恋愛」の字が嫌な現実を思い出させる。


 そう、この学校に春から新科目として導入された授業――それが「恋愛」である。


 新学期早々、校長の話でそんなことを唐突に告げられたもんだからもちろん生徒全員困惑していた。


 しかし、新しい担任から時間割表を貰うとそこにはバッチリ「恋愛」の授業が入っていたので、あれは校長のエイプリルフールの嘘じゃなかったんだと焦ったものだ。


「いい? 昨今日本では生涯未婚率の減少、それにより少子化が進んでいるわ。これを解決する為にとられた策の一つが新科目『恋愛』の導入なの。好きな気持ちがあってもなかなか気持ちを伝えられない、好きな気持ちに比例していじわるな態度で接してしまう。せっかくデートにこぎつけてもどう立ち回ればいいかわからない――そういった不安から人は奥手になり、そのままズルズルと年を重ねていってしまう」


 なにやら思い当たる節があるのか何人か渋い顔をしている。悔しいが俺も、そして中でも先生が一番ダメージを受けているように見えた。


「そこで、早いうちからこうして恋愛への苦手意識をなくそうという思いでこの授業があるの!」


 またも拍手でも起きようかという雰囲気に、一人の生徒がスッと手を上げた。


「先生、言いたいことはわかるんですが何故そこまで恋愛を強要するんですか?」


 学級委員の野村さんが淡々と言い放つ。メガネの奥の瞳がキラリと光った。


「私、今は勉強に集中したいんです。しっかり勉強していい大学に入りたいので。この学校は昨年まで恋愛の禁止を謳っていたのに、今年から授業にまで導入されて他の授業の割合減らされて正直困ってるんです」


 よく言ってくれた、とクラスが誇る秀才たちとオタク達が羨望の眼差しを送る。


 そうだ、先生の言うことは正しくはあると思うが、恋愛に興味がない人ももちろん一定数いる。


「あのねえ野村さん。人はなんで生きていると思う?」

「なんですかその宗教の勧誘みたいな」

「いいから答えて」


 野村さんは少し考え込んでから、


「豊かな生活を送る為、ですかね」

「そんな抽象的な考えなのね」

「別にいいじゃないですか。確かに私に将来の明確なビジョンはありませんが、その為に今は選択肢を増やしているんです。しっかり勉強していい大学に入って自己を成長させれば、近い将来なりたいと思えるものになれる可能性は高くなる筈です」


 すごい、高校2年生でそんなことまで言えるなんて。俺が家帰ってだらだらと何回も読んだことある漫画を読んで笑い転げている間に彼女は黙々と勉強しているんだろうと思うと頭が下がる。


「すごい見上げた考えをお持ちね。尊敬するわ」


 軽く拍手してニヤニヤしている先生に野村さんはムッと表情を向ける。


「じゃあ先生は何の為に生きているんですか?」

「私? 私はね、種を存続する為よ」


 なんかいよいよ怪しいこと言い出して怖くなってきた。まさか「早く恋愛の授業進めてくれ」と思う日が来るとは。


「ごめんなさい。難しい言い方して。生き物ってね、突き詰めていくと()える為に生きてるの。どんな生き物だって、自らの種を絶えさせない為に行動してるわ。我々人間だって例外じゃない」


 野村さんはなにも言えず、口をつぐむ。なんとなく言っていることはわかって、それを否定できる材料がないようだ。


「で、結婚して子供ができるその前の部分――それが恋愛よ。ただ人間は他の生物と違ってなまじ知能が発達してしまったもんだからその辺の駆け引きが複雑化してしまっているの。そこでこの恋愛への勉強が早期的に必要となってくるわけ」

「そ、そういうのは大人になってからでも遅くないかと思います!」

「遅いのよ。大人になればなるほど失敗することへの重みが増していくの。仕事もそうだし恋愛は特に慎重にならないといけない。それなのにたいしたノウハウもなしに自分の浅い経験や知識であれこれ判断しろだなんて失敗するに決まってるじゃない」


 野村さんが劣勢に見える。陰ながら応援していたがここから覆すのは難しそうだ。先生の脳内では勝利演出BGMでも流れてそうなくらい勝ち誇った顔をしている。


「今はネットでそういう知識も蓄えられますし、先生が先ほどおっしゃっていたようにAIに頼ることだってできるじゃないですか?」


 確かに一理あるな。しかし、野村さんの鋭い指摘に先生は全く動じていない。


「そうね。そういったものに頼ることで多少のリスクは回避できる。でも、恋愛は人と人との関わり合いによって生まれるの。数学と違って明確な答えを出すのはかなり苦労するわ。それに、一瞬一瞬の行動が命取りになる。テストは見直したら間違いに気づいて訂正できたりするかもしれないけど恋愛は気づいた時にはもう遅い。好きってあの時言わなかったからもうどうしようもない……行き場のない気持ちは残ったまま」


 先生は遠い目をしてなにかを思い出している。


「それに野村さん。恋愛は大人になってからでも遅くないと言ったわね?」

「ええ、言いました、けど」


 もう野村さん涙目だよやめてあげてよ大人げない。


「つまり、将来的に恋愛をするつもりがあるんじゃないの?」

「それは、わかりませんけど、興味が持てたらその時はそうなるかもと」

「違うわね。あなたは今、勉強をすることで自分の気持ちにフタをしているのよ」


 ズバリ言い放つ先生にいよいよ野村さんは立ち上がる。


「そんな、そんなことないです! 今は、今は恋愛に興味はっ……」

「私の元にこの前、匿名でこんな相談が来ていたわ。幼なじみと前みたいに話せるようになりたいって」

「な、なんでそれを……」

「彼とは中学までは通学を共にし、親も公認の仲。しかし、高校が別々になり一緒に通学することはなく、たまに道で会っても一言二言で話は終わってしまう」


 先生は持っていたタブレットをスワイプして書いてあることを淡々と読み上げる。


 おそらく生徒からメールで受けた相談の一つを読んでいるが、ほぼ確実に野村さんからのものだろう。


 みんなの前でそんなこと言っていいのかと思うが、野村さんの幼なじみの話はけっこう有名で、去年の文化祭にも顔を出していたりしてその時の野村さんの顔がまあ乙女だったというエピソードもあり、クラスの中でも知らない奴の方が少ないだろう。


 だからといってみんなの前で読み上げていい理由にはならないけども。


「野村さん、あなたみたいな真面目で素直な女性は男に弄ばれる可能性が非常に高いと言えるわ」

「も、もてあそばれ!?」

「そう。そういう女性には恋愛経験値が低い傾向にあるから、彼らは甘い言葉を使ってあなたを陥れる。そうならない為にも恋愛を学ぶことは必要よ。それに――」


 先生は嘘みたいに優しい笑顔になり、


「幼なじみと結婚して幸せになる――これってこれ以上ないくらい最高な恋愛じゃない。あなたは見てないフリしているのかもしれないけど胸に手を当ててもう一度聞いてみなさい。今、恋愛には興味ない? 本当に好きな人はいない?」

「…………います」


 野村さんが折れた。可愛くコクリと頷いて、頬を少し赤らめている。


「じゃあもうわかったわね。幸い、この学校では『恋愛』もテストがあって、しっかり評価に加えられる。『恋愛』に前のめりになるのって少し恥ずかしいって子もいると思うわ。でも、この学校では恥ずかしがることなんてない。だって授業になっていて成績にも反映されるんだもの。やらないと成績落ちちゃうし仕方なくやるしかないわよね?」


 丁寧に免罪符を渡され、もう誰も反論するものはいない。むしろ感動してる生徒が見受けられるほどだ。なんかもう恋愛万歳とか言い出しかねない。


「それに、これだけは言っておくわ。色々こじらせちゃうとみんな、30手前で悪い男達にさんざん騙された挙げ句、性格が歪んで見た目は悪くないのに未だに結婚の『け』の字もない、」


 先生は右手を自分の胸の前に置き、


「私みたいになるわよ」


 説得力のレベルが違う。自虐がここまで来ると最早あっぱれだ。


 ディベートは勝ったが、なにかもっと大切なものを失った先生はその後は何事もなかったように授業を進め、俺たちもなにも聞いてないかのごとく振る舞った。





 その日の昼休み。紙パックのジュースをズズズーっとストローで吸っているとピコンと一件の通知が入る。


 それも俺だけでなく、教室中でいくつか同時に音がしたので、例のアプリからだろうと画面を見る前に察する。


「やっぱり『コイ恋』からか」


 コイ恋とは、学校からダウンロードするよう指示されたアプリである。


 我が校独自のもので、新規登録には生徒手帳が必要で二重登録防止や二段階認証といったセキュリティもしっかりしている。


 生徒は必ずダウンロードする決まりで、めんどくさがる奴が多かったが、これのお陰で今まで禁止だった校内でのスマホの持ち込み、及び使用が認められたので文句を言う人は一人もいなくなった。それも学校のWi-Fiを使い放題だ。

 

まだ開発途中のアプリで、その都度アップデートされていく予定だと説明を初めにされて以降、たいした動きがなかったが、内容を見ると中々のことが書かれていた。


 ~校内恋愛ランキングの実装について~


 この度、コイ恋で校内恋愛ランキングなるものを実装することとなりました。


 数値化しにくい恋愛というものをランキングを作成することで、己のレベルを可視化することができ、恋愛への意欲向上を目的とした試みです


 ランキングの付け方は事前に回答いただいたアンケートや学校の成績、先生方や保護者の評価を参考にさせていただいております。


 ランキング上位者には様々な特典がありますので、是非積極的にランキング上位を目指してください。


 詳細は追って連絡いたします。  以上


 とのことだ。またわけのわからないことを。


 通知を閉じるとアプリのトップ画面が開き、今までなにもなかったところに俺のランキングが表示されていた。学年の男子で300人中178位。学校全体の男子で900人中の601位。


 おいおいなんともいえない数字が一番辛いって。


 周りのクラスメイト達もアプリでの自分のランキングを見て、友達とリアクションを取り合っている。


「お、ダイスケお前何位だったよ」

「うるせえ。おい勝手に見んなって」

「お前リアクションしづらい順位やめろよな」

「俺が決めたんじゃねえよ仕方ないだろ。そういうカズトは何位だよ」

「学年30位で全体98だな」


 自慢げに携帯を見せつけてくる。嘘だろと思い、至近距離で数字の間違いを願い確認しにいくが、カズトがいった通りの順位で愕然とする。


 嘘だろ、確かに俺より社交性はあるけどモテ度で言えば俺と地を這っていたはず。早くもこのランキングのバグを見つけたのか俺は。


「ソウマ。お前はどうだったよ」

「ん、ごめんまだアップデートしてて」


 ソウマは携帯を机に置いてダウンロードを待ちつつ片手に購買部で買ったサンドイッチを頬張っていた。


「なんだその余裕ある感じ。そんなんだからモテるんだぞ」

「それ日本語合ってる?」


 眉をひそめて笑うソウマは絵になっていて、男の俺でも素直にカッコいいと思えるほどだ。ダウンロードを終えると、机に置いたまま携帯を操作する。


「ん、で、どこ押せばいいの?」

「ここだよ。あー、違うもっかいアプリ開き直してくれ。相変わらずこういうの苦手だよな」

「ごめんごめん。いつも助かるよ」


 こういう隙を見せてくるのもズルい。なんなのコイツ。頼むから誰にもいえない猛烈なコンプレックスとかあってくれよ。


「お、開いた開いた。えーっとこれは2位と9位? どうこれそこそこいいんじゃない?」

「おま、ヤバすぎだろ」


 カズトが絶句して口をパクパクさせている。


「さっきカズトが自慢してた時間辛すぎだろ。もうちょっと思いやりを持った人間になりなさい!」

「えっと、なんかいわれのない因縁を付けられてる?」


 ソウマはさも興味なさそうに携帯を閉じて残りのサンドイッチをおいしそうに食べていく。もうちょっと自慢げにしてくれよ。これ以上残酷な現実を見せつけないでくれ。


「ソウマくんランキング見た? 何位だったの?」


 クラスの女子数名がソウマ目当てに近づいてくる。それで正気に戻ったカズトは自慢げにソウマの順位を発表するが、


「は? なんでお前が答えるの? 聞いてないんだけど」

「ていうかいたの? セミの脱け殻みたいになってたくせに。ミーミーうるさいんだけど」


 またも固まってしまう。カズトも調子に乗ってたが流石に言いすぎだと思う。


「みんなそんな言い方しないで。カズトだって悪気があったわけじゃないし」


 柔和な笑顔で対応するソウマ。あらやだ口にサンドイッチの食べカス付いてるわこの子。人目がなかったら抱き締めてるかもしれない。


「あ、ていうか上位の人はアプリで順位公開されてるすごい! ソウマくんめっちゃ上位じゃん!」


 ほんとだ。学年と学校全体で男女それぞれ上位30名はアプリでランキングが公開されている。「弓場蒼真(ゆばそうま)」の名前がしっかりと表示されていた。


 女子達はそのままキャッキャとソウマと話していたので俺はカズトを連れてそーっとその場から離脱した。


 ソウマには悪いが、女子の目が「邪魔」だと訴えていたのでこうするのが吉である。


「あいつら……あんな酷い扱いしなくてもいいだろ」


 中庭へと避難してきた俺たちはベンチに腰を下ろして残っていた昼食を口に入れ込む。


「モテる方も大変ってことだ。ああいう女子達の相手もしないといけないからな」

「ダイスケ、そういうのはモテててから言おうぜ。ひがみにしか聞こえん」

「うるせえ。半分はひがみだからいいんだよ」


 男二人でうだうだ言って過ごす昼下がり。悪くはないが、なんか悲しい気持ちにもなってしまう。


「そういや、女子の方のランキングも見れるんだろ」

「上位30位までだけどな。どれどれ」


 二人して携帯を覗き込み、恋コイのランキング画面をなめるように見た。といってもそもそも生徒数が多くてほとんどの人がわからない。


 同学年の2年生の1位は「不童堂景華(ふどうどうけいか)」。一つ下の1年生は「安里(あさと)いろり」がトップとなっている。やっぱりわからん、誰だ。

 

 一応、名前の横に顔写真も載ってはいるが、それでもピンとこない。


 カズトに聞いてみると、


「は? お前この学校にいてその二人を知らない!? もしかして今まで不登校だったか?」

「なに言ってんだよ。一緒にいただろいつも。なんなら皆勤賞だ」

「なのに知らないって……お前。いいか不童堂景華――才色兼備の帰国子女。成績優秀で完全無欠の八方美人のお嬢様。スラッとした佇まいに下ろされた長い艶やかな黒髪はまるで滝のよう。自分の優秀さを自慢することなく、常に謙虚で上を目指そうとする姿勢は彼女の背筋と同様にまっすぐで眩しいくらいだ」

「八方美人ってなんなら悪口じゃね? あいてっ」


 え? 普通にビンタされたんだけどなにコイツ。


「そして安里いろり――最近入学してきたばかりだといのにその愛嬌とルックスで全ての男子生徒を虜にしてしまった脅威の小悪魔。彼女と一度でも目を合わせればあのくりくりで大きい目によって固まってしまうだとか」

「悪魔なのメデューサなのどっちなの? もっと設定練ってからってあぶねっ」


 またもやとんで来たビンタを間一髪で止める。男子生徒全員を虜にしたって、俺はカウントされてねえのかよ。


「うだうだうるせえよ」

「だからって手を出すな手を!」


 カズトと取っ組み合いになり、膠着状態が続く。すると、誰かがこちらに歩いてくる音が聞こえた。


「こんにちは。少しいいかしら」


 落ち着いていて上品な声。知り合いにこんな話し方をする奴はいない。


「お昼から元気ですね、せんぱいっ」


 これも知らない声だ。そもそも先輩なんて初めて言われた気がする。


 俺たちは掴み合ったまま、首だけ声のする方へ動かした。やはり、見知った顔ではない。カズトを見てみると、口を開けて目を丸くして驚いていた。


 ん、そういえば見たことある顔のような……。


「はじめまして、になるかしら。私は不童堂景華。こっちは、」

「安里いろりでーす! 気軽に『いろりちゃん』って呼んでくださいっ!」


 二人はそういって笑顔を浮かべる。さっきまでカズトと話していた恋コイランキングトップの二人が目の前に並んで立っている。


「自己紹介は、さっきしてもらってたし省略していいかしらね」


 どうやらカズトのさっきの説明の時からいたらしい。カズトは俺から手を離してこの状況が整理している。頭の上に「Now Loading……」とか出てそう。


「なんか俺たちに用ですか?」

「はい、すごく大事な用があってきましたっ」

「そうか、ちょっと今カズトが放心してるから少しだけ待っててもらえるか?」

「いえっ、大丈夫です。用があるのはせんぱいにだけです! 大漉大輔(おおすきだいすけ)せんぱいっ!」


 なぜかフルネームで呼ばれるのこわっ! 俺に用ってなんだよ初対面なのに。


「なんですか?」

「そう警戒しないで。あなたに伝えたいことがあってきたの」

「私もです! どうしても今すぐにでも伝えたくて……」


 なんだろう、嫌な予感しかしないんだが。


 ごくりと唾を飲む込み身構える。二人はすっと片手を俺の前に差し出して、


「私とお付き合いしてください」

「私と付き合ってください!」


「……は?」



 

 


 最後まで読んでいただきありがとうございます!

 よければ下にある☆☆☆☆☆から作品の応援お願いいたします。

 面白かったら☆5つ、つまらなかったら☆1つ。感想、ブクマ、いいねでも構いません。作品に反応していただけるだけで嬉しいです。


 何卒よろしくお願いします。

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