第四話 アルシオーネ
ここらで解説を
ウスターリア共和国:この物語の舞台。社会民主党と神聖国民党の連立政権が成立している
マジュリー・ソヴィエト共和国:ウスターリアの東の隣国。つい数ヶ月前革命が起きた
ゼロワン:ウスターリア共和国国防軍のエースの1人。女性。本名はミノル・ミツオカ
サクラ:社会民主党のナンバー2にして、ゼロワンたちの形式的なリーダー。女性。本名はアグネス・レントゲン
フローリアン:ゼロワンの同僚。男性。軽い感じはするが明るくいいヤツ
カプチーノ:ゼロワンの同僚。女性。家族の家系で、お嬢様言葉を話す
アルシオーネ:ゼロワンの同僚。男性。自信過剰で血気盛んな金持ちの息子
グランタ:マジュリー軍(赤軍)のエース。男性。誇り高き戦士であろうとする
「わたくし達が来る前に、そんなことがあったんですのね」
「それでゼロワンはアグネスのお気に入りってわけっすか」
「お、お気に入り?」
「ほらー、いっつも通信機をあの人に持たせてたり、ときどき2人だけで話してたり、明らかに優遇してるじゃないっすかー。まあ、今の話聞いて分かったっすけどね。あんたの平和主義のために闘うって誓ったんすから。……別に悪いっていいたいんじゃないっすよ、アグネスとゼロワンは、結構お似合いなペアだし」
フローリアンはからかう口調でいった。
「お似合いって——」
「何をおっしゃるんですか!!」
サクラ本人よりも、よっぽどヒステリックな大声をあげたのはカプチーノだった。
「同性愛というのは、クリスチアニティの教徒として、絶対に許してはならないもの、聖書にもそう書いてあるでしょう!」
「うわ、何すか、そんなに怒んなくても。ほんの冗談っすよ」
カプチーノはなおも息を荒くしてまくし立てる。
「冗談でもいけませんわ。わたくし達は秩序を守る軍なのですから」
「まあまあ、喧嘩はやめましょう? もっと秩序を乱す問題があるんですから」
「そ、そうでしたわ。あの大男を倒すための話を——」
「ハーッハッハ!」
カプチーノの声は、尊大な笑い声で遮られた。
「もはやその必要もないっ!!!この僕はすでに怪我から復活し、闘う用意が出来ている!!!」
今まで怪我で戦線を離脱していたアルシオーネが立っていた。彼の顔には、まるでこちらが焼きつくされそうなほど強烈な、眩しい笑顔が浮かんでいた。
「アルシオーネさん……確かに、その気になればハルバードを片手で振り回せる力は、尊敬に値すると思います。しかし、相手は強敵ですりやはりゼロワンさんが回復するのを待って、あなた達同士で話し合って欲しいんです。そのほうが、あなたの力もスムーズに発揮できると思いますよ」
「む、それもそうか。では明日、あの者が復帰すれば、作戦会議といこうじゃないか」
「相も変わらず単純な方……」
カプチーノは最大級の侮蔑をこめた視線で、アルシオーネを睨みつけるのだった。
一方、マジュリー・ソヴィエトにて
「タイマン? 一対一ですか?」
「そうだ。我の実力を知り、あの者は再び舞い戻ってくるはずだ。その決闘の舞台を用意してほしい。そなたの道具なら可能だろう」
マジュリーのエースであるグランタが、細身の男と話していた。
「……いいでしょう。ただし、これが最後ですよ」
「構わぬ。どのみちこのような闘いの機会など、2度とないのだ。感謝する」
グランタはゆっくりとした足取りで去っていった。
残された細身の男は、頭を抱えていた。
「全く……あれで従順な兵士なら文句はないんだが、あれでは寧ろ邪魔者といっていいなぁ。あの戦士は殺すなだの、この作戦は嫌だのと、注文の多いやつだった。あげくに、私に対して武器を振おうともしたっけ。弱い兵士が50人でもいれば、アイツよりよっぽど役に立つ。……どっちに転んでも、この国はもう終わり、アイツも同じだろう。せいぜい自己満足に満たされて死んでいくがいいさ」
真っ赤な夕焼けを見ながら、男は怪しい笑みを浮かべた。