第三話・その一 敗北
今回から何回かに分割して第3話を書きますが、今回はかなり短めです。
聖歴2572年 9月30日
この日ウスターリアの東西で発生した暴動のうち、最初に発生した西部のそれはすぐさま鎮圧された。しかし、東部ではマジュリー・ソヴィエト赤軍のエースの介入や、多くの部隊が西部へ派遣されていたことによりウスターリア共和国軍は敗走。
マジュリー・ソヴィエトの共産党は、この地に『ウスターリア・ソヴィエト共和国』の樹立を宣言した。
ヴェーナへ戻ったゼロワンは、まだ強烈なめまいを感じていた。
「大丈夫ですか!?」
宿舎に戻ると、すぐにサクラが出迎えた。
「ええ、なんとかね。でも、めまいがひどいわ」
「とにかく、今はお休みになってください。今のところ、共産党勢力たちはあの地域に留まっているようです。今後のことについては、私たちが話し合っておきます」
「ありがとう……ごめんなさい」
「どうして謝るんですの? 無理だと感じたら撤退する、当然の判断をしたまででしょう?」
「そうっすよ。誰だって失敗くらいあるし、むしろ今回のは、敵の情報を掴んでくれたんすから、大助かりっすよ!」
「でも、私は使命を、果たせなかった……」
「大丈夫です。私の理想は生きています。あなたはまだ、使命を果たしています」
「……ありがとう」
ゼロワンは、いつになく思い詰めた表情で、部屋に戻っていった。
「あの方、よほど敗北がショックだったのでしょうか。あのような辛そうな表情、見たことがありませんわ」
「……なあアグネス、ゼロワンの『使命』って、何だ?」
サクラは一瞬の沈黙のあと、このように答え始めた。
「私の理想。平和を守ることです。……せっかくですから、詳しくお話ししておきます。あの人は自分から話さないだけで、隠したいわけじゃないと思いますしね」
次回は回想から始まります