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第一話 ヒューゴ国境紛争

いよいよ物語本編がスタートです。

ウスターリア共和国国防軍特殊部隊の戦いが始まります

 聖歴2572年 8月16日 ウスターリア共和国南部


 この日、ウスターリア南部・ヒューゴ王国との国境地帯に、ヒューゴ市民たちが突入、一時占拠する事態となった。ウスターリアのティローラ地方は、先の世界大戦の講話会議でヒューゴ王国が要求したものの得られなかった地域であり、ヒューゴの過激派政治団体が実力行使をもってこの地を祖国に捧げようと行動を開始したのである。

 ウスターリアでは新設された軍が、事態の沈静化のため、ティローラへと出発した。そこにはのちに共和国軍のエースとして知られる数人の若き兵達が含まれていた。


 鼠色の曇り空の下、鎮圧にあたる兵士たちの後方に3人の男女を乗せたトラックが到着した。

「『サクラ』へ。こちら特殊部隊の『ゼロワン』です。敵勢力の付近に到着しました。『フローリアン』『カプチーノ』も同様です」

「こちらサクラ。了解です。通常の部隊による鎮圧に問題が発生する場合、速やかに行動を取れるように後方で待機していてください」

「分かりました」

 1人の女性兵士——ゼロワンが通信を切ると、隣にいた男性兵士が話しかけた。

「つーか何だよ? 鎮圧に問題が発生する場合って。武器持ってても所詮一般人っすよね?」

 すると、もう1人の女性兵士——ゼロワンと比べると小柄である——が口を挟んだ。

「……フローリアンさん、聞いていなかったんですの? 敵側に強力な兵士が3人ほど混ざっている可能性があると、サクラさんから聞いたではありませんか」

「んあ?そうだっけか」

「いずれにしろ、今は静かに待つときよ、フローリアン」

 ゼロワンが冷淡な口調でたしなめると、フローリアンは退屈そうな溜め息を漏らし、口を閉じた。

 その時、前方の通常部隊の隊列を3人の敵が破ってきた。

「アレよ! いい、非殺傷兵器を用いて確保するの」

「了解っす!」

 フローリアンはそう言うと、拳銃を空へ打ち上げた。3人がゼロワンたちに注意を向ける。

「来なさい、私たちが相手をするわ」

「何だ? あの女たち、俺らとやりてえようだな。」

 ゼロワンは刀を抜く。相手側の1人が拳銃をゼロワンめがけて撃ってきた。しかし、彼女は表情ひとつ変えずに刀を振り、弾丸を弾き返してしまった。

「な、何だあ?」

「アイツ弾きやがった!」

「あり得ねえ、オレは夢……でも……」

 すると、敵兵士の1人がいきなりよろめき、倒れてしまった。

「おい、どうした!」

 動揺する2人の敵。

「隙あり!」

 次の瞬間、1人の敵が真後ろから手を回され、ナイフを首に突き立てられた。

「なっ、何だ! 誰だ!」

 背後に回っていたのはカプチーノだった。さらにもう1人の敵へとゼロワンが迫る。

 敵は銃を構えようとするが、ゼロワンの刀がその銃を弾き飛ばすほうが少しだけ早かった。

「終わりよ!」

 ゼロワンの刀が敵に接触すると、刃から電流が流れ、敵兵士は気絶した。

「これで全部か?その強い奴ってのは」

「そうみたいね。向こうはさっきまでの状態に戻っているし」

「では、その2人とこの者を車に乗せて、早く戻りましょう。特に麻酔銃を受けた者は、時々そのまま目を覚さないこともあると聞いておりますしね」

「麻酔銃?んなもんいつ撃ったんだ」

 カプチーノに捕まったままの兵士が訝しげに言った。

「俺が最初に一発撃っただろ?」

「……あの時、空中に撃ったのを当てたのか?」

「俺にかかれば朝飯前っすよ」

「では、あなたを連行するわ。手を出しなさい」

 ゼロワンは兵士たちに手錠をかけ、トラックに乗せた。

「こちらゼロワン、それらしき3人を拘束。これから連行するわ」

「こちらサクラ。よく頑張ってくれました、任務完了です。帰還してください」

 トラックは起伏の大きい山岳地帯を抜け、ウスターリア東部にある首都ヴェーナへと向かっていった。


 結局この日突入したヒューゴ市民らは1時間ほどで国境の向こうへ押し戻された。ヒューゴ王国政府はこの件に対し、領土問題をこのような手段で解決しようとするのは王国の方針に全く反しており、断じて容認できる行為ではないとコメントした。


 空に輝く星が見える頃、ゼロワンたち3人は一仕事を終え、専用の宿泊場所で休憩をしていた。

「そうかそうか、僕がいないのに素晴らしい働きをしたようだね」

 尊大な態度で3人の話を聞いている大柄の男は子特殊部隊のもう1人のメンバー『アルシオーネ』である。今回の出動時には怪我をしていた。

「当然ですわ。むしろこれから先も私たちだけで十分にやっていける気がしてきますわねえ」

「いやいや、僕のデカい武器を振り回す筋力を侮ってもらっちゃ困るよ、お嬢さん」

「その呼び方はやめてくださらないって、前にも申し上げたと思いますが?」

「まあまあ、その辺にしておきましょうよ」

 サクラがお茶を運んできた。紅茶が2つと緑茶が2つ。

「いいの? アグネスは忙しいはずなのにしょっちゅうここに来て」

「お気になさらず、皆さんを労るのもある意味私の仕事ですから」

 アグネスとはサクラの本名——アグネス・レントゲン——である。

「それで、もう知ってるかも知れませんが、あの3人は隣国のとある政治団体の者だったようです」

「隣国ってヒューゴのっすか?」

「いえ、ジェマ共和国のです」

 ジェマとはウスターリアの北西に位置する広い国家で、かつて大戦争をウスターリアとともに戦い、ともに敗戦国となった国である。

「ジェマ共和国で勢力を少しずつ伸ばしている極右政党が、他党との武力闘争のために作った組織があるんです」

「それがヒューゴの団体に援軍を送ったってことよね。新聞にも出ていたわ」

「お互い弱小の部類に入る団体ですから、少しでも味方を増やしたいんでしょう」

「何にせよ迷惑なことですわ」

「なーに、心配することはないさ。この僕と! 君ら4人がいる限り! ウスターリアの平和が脅かされることはない!」

「ま、それに関しちゃおっさんの言う通りっすね。この俺と! あんたら4人がいる限り——」

「ウスターリアの平和が脅かされることはないっ!」

「ちょ、何で言っちゃうんすか、アグネス〜」

「わたしの願いでもありますからね」

「というかちょっと待て、フローリアン君。今、僕のことをおっさんなどと……」

「何をなさっているのやら、先が思いやられますわね」

 皆の一時の安らぎを黙って見ているゼロワンは、頬杖をつきながら口の端に薄い笑みを浮かべていた。

「頑張らないと」

 独り言を呟くと、サクラが反応した

「え、何ですって?」

「あなたが願いを……平和を叶えるまで、戦い続けるってこと」

お読みいただきありがとうございます

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