第七話前編 再戦
解説
ウスターリア共和国:この物語の舞台。社会民主党と神聖国民党の連立政権が成立している
マジュリー・ソヴィエト共和国:ウスターリアの東の隣国。つい数ヶ月前革命が起きた
ゼロワン:ウスターリア共和国国防軍のエースの1人。女性。本名はミノル・ミツオカ。東洋から来た黄色人種。父の影響で小さい頃から政治活動に時間を費やしてきたので、世間知らずなところがある。サクラとの出会いに運命を感じ、その思想に共感する。
サクラ:社会民主党のナンバー2にして、ゼロワンたちの名目上のリーダー。実質的には「お目付け役」であり、実際に指揮を取ることはあまりない。女性。本名はアグネス・レントゲン。彼女の名前は皆知っているので、通信のとき以外はコードネームで呼ばれない
フローリアン:ゼロワンの同僚。男性。軽い感じはするが明るくいいヤツ
カプチーノ:ゼロワンの同僚。女性。元貴族の家系で、お嬢様言葉を話す
アルシオーネ:ゼロワンの同僚。男性。自信過剰で血気盛んな金持ちの息子
グランタ:マジュリー軍(赤軍)のエース。男性。誇り高き戦士であろうとする
聖歴2572年 10月1日 宿舎
その夜、ゼロワンは少し考え事をしていた。今回の作戦においては、自分の後に入ってきた3人のエースとくらべ、自分には特定の役割がないということを。フローリアンは銃の名手、カプチーノはナイフと隠密行動と素早さに長けていて、アルシオーネは腕力がある。ゼロワンは剣の扱いで右に出るものはおらず、銃弾を弾くことすら造作もないが、グランタ相手ではあまり有効ではない。軍人は忙しくあるべきではない職業だが、同僚が活躍するのを黙って見ているのは少し不安だった。
10月2日 ウスターリア東部
曇天の下、共和国国防軍の兵士たちとともに、ゼロワンたちは国境へと向かった。グランタへの対処は4人が行い、残りの赤軍と共産党系労働者たちの排除を一般の兵士が実行することになっていた。
ゼロワンはスター号を運転し、占領地域に接近。グランタがこの前とは別の盾を持っているのを発見し、サクラに問い合わせたが、テラーもそのことは知らないといった。
「なんにせよ注意が必要ね」
「でも、盾は所詮防具っすよね。間合いをとって飛び道具で動きを止めるっていう作戦に影響はないんじゃないっすか?」
「まあ、そうかもしれないわ。でも万が一ということもある。気持ちを引き締めるというのは大事なことよ」
国境についたゼロワンたちに対し、グランタは堂々とした姿勢で出迎えた。
「4人か。なるほど、是が非でも我を倒そうという気迫が感じられるなあ」
「当然よ。あなたに付き合う義理はない。ウスターリアの領土を侵すあなたには、確実に出ていってもらうわ。みんな、行くわよ」
「りょーかい!」
フローリアンは小型のマシンガンを取り出し、アルシオーネはグランタへと接近した。
「マジュリーのエースの力、このアルシオーネがじっくりと見てやろう。さあ来い!」
「いいだろう。我が力と我が国の技術の結晶、その恐ろしさを思い知るがよい!」
グランタのハンマーとアルシオーネのハルバードが大地をふるわす衝撃と共に激突する。
「む、お主、平気なのか?」
「エンジニア1人の心を繋ぎ止められないで、何が我が国の技術だ!」
「なるほど、亡命者か。しかし我が力を受け、お前はいつまで立っていられるかな?」
再び武器をぶつけあうグランタとアルシオーネ。その隙にグランタの左右にカプチーノとフローリアンが回り込んだ。
「いくぜええ!」
フローリアンはマシンガンを打ち出した。グランタの注意は銃声のほうへ向くのでそれを盾で防ぎ、カプチーノが反対から音のしないナイフを投げて仕留める、それが作戦のはずだった。フローリアンの側で待機していたゼロワンも、自分の出る幕はないはずだと思っていた。
しかし次の瞬間、ゼロワンはフローリアンのうった弾が空中で、全くスピードを落とすことなくフローリアンの元へと戻るのに気づいた。
「危ない!」
すんでのところでゼロワンはフローリアンを突き飛ばし、刀で全ての銃弾を跳ね返した。同時に、反対側からカプチーノの「ぐあっ」という悲鳴が聞こえた。自分の投げたナイフに刺されたのだ。
「なに!?」
「よそ見をするな!」
グランタはアルシオーネの隙をついて、渾身の一撃を喰らわせた。アルシオーネはなんとか攻撃を防ぎ、後方に吹っ飛ばされた。
「なんだ今の?それにカプチーノも、一体何が……」
動揺するフローリアン。ゼロワンも、表情には表さないが混乱していた。
(一体何?弾が空中で跳ね返るなんて……)
グランタは余裕の笑みを浮かべ、アルシオーネに近づいていった。