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プロローグ ゼロの戦い

連載『ウスターリア愛国者』スタートです!

 聖歴2569年 11月15日 ウスターリア共和国東部


 深夜、世界革命への情熱を燃やす赤軍の民兵組織の構成員数十人が、『マジュリー共和国』との国境からウスターリアの領内へと侵入した。

 当時ウスターリア政府は国境地帯に軍隊をほとんど配置できておらず、当初は主に、民間組織である『祖国防衛連盟』による抵抗が行われた。

「諸君! 今こそ国境を脅かさんとするアカを打ち払い、我ら祖国防衛連盟の力を軟弱な中央政府の政治家に見せつける時だ」

 防衛連盟は自らの土地を守ろうと、闘志を燃やして立ち向かった。

 しかし、民兵とはいえ正規の軍人から戦闘の指導を受けていた赤軍に対し、単なる自警団にすぎなかった防衛連盟はいたずらに死者を増やすばかりで有効な反撃ができなかった。警備についていたごく少数の正規軍も国境の突破を許してしまった。

「本部へ、ウスターリア国境地帯の突破に成功しました。損害は軽微、というか、ほぼありません」

「了解。そのまま全身を続けろ。あとから援軍をよこす。何かあれば、また連絡しろ。」

 勢いに乗る赤軍は、ウスターリア東部の占領を目標として、赤旗を掲げ、西進していった。抵抗を試みる市民はほとんどなく、怯えて、あるいは我関せずといった様子で家に閉じこもっていた。

 そのときであった。

 前進を続けていた赤軍の前方より、突然一台の乗用車が現れた。それは角ばった造形で、近未来的なスポーツカーのようだった。警戒する赤軍の前へと降りたのは、刀と大型の銃をもつ若い男であった。

「止まれ! 武器を全て捨てるんだ!」

 赤軍は拳銃を構えて警告する。しかし男はまるで意に介さず、刀に手をかけつつ、ゆっくりゆっくり前へと歩いてくる。

「止まれと言っている!」

 そう言うと同時に、赤軍の1人が威嚇のために男の顔のすぐ横を狙って発砲した。

 すると次の瞬間、男が刀を一振りし、鋭い音が数回響く。そして突然、発砲した兵の真横にいた者が声もなく倒れた。

「おい、どうし……た……」

 見ると、頭から血を流して、息絶えていた。

「ど、どうなってやがる!」

 兵は拳銃を持つ手を振るわせながら男を睨み据えた。

「さあな。それより早く俺を殺せばいいじゃないか。いつもやってんだろ? 猿以下の脳味噌にクソみてぇな思想を詰め込んで、人様の土地に上がり込んでは自分は正しいなんて思いながら人殺しをする練習をしてきたんだろう? 俺たちの民族を脅かす“奴ら”に操られてるとも知らないで——」

「黙れ! 貴様陰謀論者か! それに、我々の思想がクソと言ったか」

「何度も言わせんなよ、頭だけじゃなく耳も悪いのか?」

「同志たちよ……コイツを撃ち殺せ!」

 最前列の兵たちが、一斉に発砲を開始する。すると男は目にもとまらぬ速さで刀を振り、弾が打たれた数だけ兵が倒れていった。

「コイツ、刀で弾をはじいて跳弾で攻撃してんのか? 人間業じゃねえぞ!」

「どうした? もう来ないのか? だったらこっちから行かせてもらうぞ」

 そう言うや否や、男は一瞬のうちに兵たちの眼前へと迫り、瞬く間に何人もの兵を斬り殺していった。兵たちはナイフで応戦するも、男は次々と迫り来る攻撃を刀で弾き返し、自身は無傷のまま、ある者の首を斬り、ある者の胸に刃を刺し、民兵たちを殺していった。

「コイツはダメだ。みんな、退くぞ! 撤退だ!」

 集団の後方にいた兵が叫び、民兵たちは国境へと撤退を開始した。

「バカめ。逃げられると思ったか? 民族の敵への断罪が、この程度で済むと思うなよ」

 男が大型の銃を構えると、銃の下側からグレネードが発射され、逃走する兵の大部分はあっけなく吹き飛んだ。なおも生き残った兵たちに対しても、通常の弾丸を連射し、1人残らず殺していった。

 男は伸びをすると、通信機を取り出した。

「やあ、カール。こちらミハイル……いや、コードネームで言うんだっけか。えーと、俺は、『ゼロ』だ。で、あんたが『チェリー』だよな。敵部隊の殲滅に成功した。援軍なんてこれっぽっちも必要なかったな」

「……こちら、チェリー。本当に君1人でか?」

「敵っつっても民兵だぞ?苦戦する要素なんてないない。ちゃんと全員殺してやったぞ」

「そうか……よくやった。帰還してくれ。あとから合流する予定だった兵士たちにも戻るように指示しておく。だが次からは指令に従って、他の兵士たちと共に行動してほしい。それから、必要のない殺戮はしないように。私が評価しているのは、国境を守ったことであり、敵を皆殺しにしたことでは——」

「りょーかい!すぐ戻るっての」

 腹立たしげに声を張り上げると、ゼロは一方的に通信を切った。

「何が悪いんだよ。奴らは民族の敵で、生かしても何の特にもならねえのに。むしろ殺せるだけ殺してやってんだから、褒めてくれたって良いのによ。ムカつくぜ、平和主義者の老害め——」

 ブツクサと文句を言いながら、月明かりもない街の中を、ゼロは車に乗って首都へと帰っていった。


「本部へ! 妙な男が、1人で、刀で、みんなを、ぐぁぁぁぁ!」

「どうした? 応答せよ、応答せよ……ダメか。」

 マジュリー共産党本部では、この通信を最後に、突入した民兵からの連絡は一才途絶えた。

 この結果を受け、マジュリー共産党はウスターリアへの介入を控え、マジュリーの政権奪取に集中することに決めた。その試みはまもなく成功することとなる。

次回から本筋の物語がスタートします。

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