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今日は食って歩いて、遊ぶだけ。 後編

*散策3:午後1時*


午後の観光は、魔導博物館。

ドーム型の広い建物は空調が効いていて、広い通路の左右には、空飛ぶほうきの展示、魔導鍛冶の歴史、かつての冒険者が残した伝説級の武具などがずらり。


「これ全部、実際に使われていたんだって!」

『ドラえもんの道具みたいだな』


体験コーナーでは、魔法陣体験やミニドラゴンの餌やり体験、香り魔法の調合ラボ等がある。


「香り魔法!!!香り魔法!!!こーちゃんの香り作る!!!いつでも嗅げる!!!」

『本人がずっと一緒にいるでしょう』


まるで猫のように首元の襟を引っ張られるチコ。

そのままコージンは魔法陣体験コーナーへやってきた。

ちょうどもうすぐ締切のタイミングだったようで、参加してみる。

親子連れや一人参加も含め15名程度いるようだ。

現代では詠唱により魔法を使用するそうで、魔法陣を描くことはもうほぼ無いと説明がされた。


˹こちらの魔法陣は、炎を発生させる魔法陣となります。この空間は防火対策の魔法が施されているので、怪我等の心配はありません。では、見本通りに描いてみましょう。この右側の文字を逆に書いてしまうと、水が出てきてしまいます。気を付けてくださいね˼

「˹はーい!˼」


チコや子供たちの元気な返事が響く。

指先が光り、見本に合わせて宙に魔法陣を描く。

各々がポッと明かりをともすように炎を生み出す中、チコが魔法陣を書き終えると、チコを中心に体験コーナーの床一面が花畑になった。


「なんか花咲いた……??????????」

˹あー、こことここの文字と記号が間違っていますね。大丈夫です、間違える方もたくさんいらっしゃいますから˼

『絶対水出すと思ったのに、いつも予想を上回ることするよな……』


呆れ顔のコージンと書き直しに必死のチコ。

無詠唱使い放題チート魔法を授かって良かったと心の底から思う二人なのでした。






*4食目:午後3時*


博物館内にあるカフェにてひと休みをする二人。

この博物館の名物商品でもある“幻実果の夢色パフェ”を2つ注文した。

待つこと10分、パフェのグラスに羽が生えており、パタパタ音を立てながら二人のテーブルの上にパフェ自ら降り立った。


『「いただきます!」』


それぞれ自分のパフェを一口味わう。


「苺と桃のパフェかな?こーちゃんのは、プリンアラモードのパフェバージョンみたいだね」

『ん?俺のはチョコと抹茶だぞ。プリンどこにもないだろう』

「え???プリン様が頂上に鎮座しておられるが!??!?」


チコがコージンのパフェを一口食べる。

甘いプリンとフワフワの生クリームが口の中に広がり、とろけるチコ。


「やっぱりプリンじゃん!」

『チコのはチーズケーキとブルーベリーの味がする……』

「なん……だと……」


コージンもチコのパフェを一口食べるが、チコとは違う味がするようだ。


幻実果はその時の食べたい味が実際に現れる魔法果実。

グラスにたっぷり盛られたパフェは、見る人によって見た目も味も変わる。


楽しい異世界スイーツに舌鼓を打つ二人なのでした。






*散策4:午後5時*


おやつも食べ、博物館を後にした二人は、宝石湖のほとりに佇んでいた。

湖の水面は鏡のように空を映し、夕焼けがゆっくり染めていく。

その美しき湖上を、守護種である聖湖白鳥が優雅に泳いでいる。

表面には風に揺れる魔法の光粒が広がり、湖全体がまるで巨大な宝石箱のようだった。


「さっきのパフェみたいにキラキラ綺麗だね~」

『食い気』


心地よい風になびくチコの髪を一握り優しくつかむコージン。


『チコちゃんの方が綺麗ですよ』


目をハートにしてコージンに飛びかかるチコ。

一瞬のことになすすべもなく倒れるコージン。

コージンの胸元に高速頬ずりをしながら「好きっ♡」を連呼するチコ。

遠くを見つめながら、されるがままのコージン。


茶番劇とも言える2人のいつものやりとりに、冷ややかな目線を送る聖湖白鳥なのでした。






*5食目:午後6時*


暖色の魔法灯が揺れる異世界の居酒屋は、木の香りと人いきれに満ちていた。

壁には冒険者の武器や魔獣の角が飾られ、笑い声とジョッキの音が心地よく混ざり合っている。

テーブル席に腰を下ろすと、すぐに泡立つジョッキが並べられる。


˹お待ちどうさま!˼

「それでは!」

『「かんぱーーーい!」』


ジョッキの三分の二を一気に飲み干すチコと、一口飲んだ後はチコの飲みっぷりを眺めていたコージン。


「あーーーこれこれこれこれ」

『今日は最初から最後まで幸せしかないな』


テーブルに次々とつまみが並ぶ。

肉汁たっぷりビール泥棒の魔獣ソーセージの炭焼き。

疲労回復の魔法塩を使用した香草ポテト。

ほのかな甘さと燻香が広がる湖魚の燻製。


「この世界には美味しい物しかないの?」

『いつかブラックホール胃袋を生成して、食べ歩きに行くか』


ゆっくり飲んで食べて、笑って。

異世界の夜は、ゆっくりと更けていく。


「すみませーーーん!月蜜酒2つくださーーーい!!」


周りの雰囲気に酔いしれ、明るい未来に対する話題は尽きず、杯を重ねる二人。


「なにこれ、美味しい……!」

『月蜜酒ってなんだ……?月蜜酒とは、夜にだけ花を開く月蜜花の蜜を主原料に仕込まれる、淡い金色の醸造酒である。ほんのりと魔力を含んでおり、月光を浴びた蜜ほど香りと甘みが深くなる。見た目の美しさと飲みやすさから、ビールに次ぐ人気を誇る一杯である。』

「へぇーへぇーへぇーへぇーへぇー」


チコが懐かしいジェスチャーをしながら、月蜜酒をグビッと飲み干す。

ちなみにコージンは携帯を使い月蜜酒について調べたが、他の人には携帯は見えず、周りから見ると会話も仕草も何一つ不自然なところは無いように映る、便利仕様となっている。


「すみませーーーん!月蜜酒おかわりくださーーーい!!」


顔を真っ赤にしたニコニコチコが、コージンを見つめる。


「楽しいね!」

『楽しいね』

「幸せだね!」

『幸せだね』


そして、追加注文した魔茸のバターソテーと竜卵のだし巻きに箸が止まらぬまま、居酒屋を開くのもいいなと妄想を膨らませる二人なのでした。






*帰り道*


店を出ると、夜風が火照った頬に心地よく触れた。

暖色の魔法灯が石畳をやわらかく照らし、昼間の喧騒が嘘のように街は静かだった。


遠くでまだ賑わう酒場の笑い声。

どこかの家から漂う夕餉の匂い。

宝石湖の方角には、淡く揺れる光粒が夜空に溶けている。


二人は手を繋ぎゆっくりと歩き出した。


「今日は最高の日だったね」

『食って、歩いて、遊んで。何も考えなくていい日』

「こういう日を、これから何回も過ごすんだよね」

『ああ。何回でも一緒にな』


チコはコージンの腕にぎゅっとしがみつく。

夜道に二人の影がひとつに重なる。


「異世界来てよかったなぁ」

『そうだな』


笑いながら、また一歩。

宿の灯りが見えてくる。

今日という一日は、特別な冒険も試練もなかった。

ただ、食べて、歩いて、遊んだだけ。

それでも胸の奥に残るのは、確かな幸福感。

石畳を踏む二人の足音が、静かな夜にやさしく溶けていくのでした。

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