今日は食って歩いて、遊ぶだけ。 前編
「今日は何をしようかな~?」
チコが宿の部屋の真ん中でくるくる踊っている。
その横でコージンは、ソファに全身を委ねだらけきっていた。
春の陽気に包まれて小鳥も唄う美しき早朝。
何もストレスが無い解放感と、これからの人生何でもできるという高揚感から早く目が覚めてしまった二人。
ゆっくり寝たい休みの日ほど早く目が覚めてしまう、社会人あるあるのようだ。
『んーーー、今日は食って歩いて、遊ぶだけの日。』
「採用!!!!!!!!!!!!」
「というわけで、今日は外食にします!夕飯も無しでお願いします!」
魔法を使い一瞬で身支度を整えた二人は、宿の受付に寄り、出かける旨を伝えた。
お揃いの靴を履き、お揃いのキャップを被り、お揃いのTシャツとワイドパンツを履いて、ペアルックの装い。
いつも服を買うときは、必ずお揃いにするチコとコージン。
˹かしこまりました。ダイセンデート、楽しんできてくださいね。˼
ヒラヒラと手を振る受付の女性に見送られ、二人はダイセンの街へ繰り出したのであった。
『「しゅっぱーーーーーつ!!!!!!!!!!!!」』
*1食目:朝7時*
街の広場で開かれるダイセン朝市には、新鮮な肉や魚、野菜が色とりどりに並び、焼き物の香ばしい匂いと、威勢のいい呼び声が朝の空気を満たしていた。
肉を叩く音、魚を捌く音、笑い声。
まだ眠気の残る街が、ゆっくりと目を覚ましていく。
「いい匂い〜!絶対あれおいしい!!」
チコが早速、屋台の波に吸い寄せられていく。
その視線の先にあったのは、淡く青く光る魚の握り寿司だった。
˹獲れたての星魚だよー!夜明け前に揚がったばかり!˼
「すみません!2人前ください!」
受け取った瞬間、指先に伝わるのは新鮮な弾力。
「ねぇ見て、これピカピカしてるよ……?」
『光っている魚は美味しいに決まっている』
「これも一種の光り物……かな……?」
夜にだけ光る星魚を、薄く切り、魔法の炎で一瞬だけ炙った逸品。
表面はほんのり温かく、身は半透明に輝いている。
うっすら青く光る身は、ぷるんと甘く、海老と鯛を合わせたような上品な味わい。
朝の澄んだ空気の中で食べる星魚は、身体にすっと染み込んでいくようだった。
「朝からお寿司なんて最高の贅沢……!」
お一人様3貫ずつペロリと平らげる二人なのでした。
*2食目:朝8時*
ふらふら気の向くまま歩くこと数十分。
緑豊かな大きな公園が佇む住宅街エリアにて、パン屋さんを発見した二人。
『隠れパン屋を発見!突撃します!』
「イエッサー!」
店に入ると、香り高い小麦の焼ける匂いに一瞬でノックアウト。
ざっと30種類はあろうパン天国の中から、各々慎重に選ぶ。
˹ありがとうございました˼
チリンチリンと音を鳴らすドア。
二人の足取りも、パンのように軽い。
店から出ると、すぐさま袋の中をあさり始める二人。
厳選した結果、チコは2個、コージンは3個購入。
その中でも二人揃って選んだものは、“空花チーズのとろける花包み”。
空花という浮遊する花から採れる乳で作ったチーズを、薄く焼いた花びらパンで包んだ一品。
中からとろけ出すチーズがほんのり桃の香りで、酸味と甘味が絶妙。
『結局シンプルイズベストだよな』
「このチーズ、スイーツなの!?おかずなの!?どっちでもいけるやつだ!!」
『焼きたてのパンは正義』
そして、気の向くまま赴くまま、パンを頬張りつつ、歩みを進める二人なのでした。
*散策1:朝9時30分*
住宅街を出て、街はずれを目指す。
道は舗装されており、両脇には花が植えられ、歩いていくと視界に現れる高さ60メートルの細長い塔。
先端には風向きを示す魔法の鷹がくるくる回っている。
その周囲の空には、浮遊魔法で浮かぶ船が静かに離発着していた。
「風見の塔と浮遊船広場だって!船が!!!浮いてる!!!」
『風の魔石が使われてるんだな。音も静かで上品だ』
塔の根元には芝生とカフェスペースがあり、風の精霊が花びらを舞い上げるように飛び回っている。
魔法と自然が調和した、美しい都市の風景。
浮遊船から降りてくる人々の波を、手を繋ぎながらかき分けて進む二人。
どこかから帰って来たのだろうか。
両手にたくさんのお土産をひっさげ、皆の顔は笑みで溢れている。
『船の真下とか初めて見た』
「飛行機よりは人をたくさん運べそうだね」
『空港みたいに場所を取らないから、短距離でも使い勝手がいいんだろうな』
「もはや飛行機替わりじゃなくて電車替わりみたいなものか。いつかこれに乗って、他の街にも遊びに行こうね」
新たな船が広場に到着し、人々を乗せた船は大空へ飛び立つ。
忙しく飛び交う浮遊船を瞳に映し、まだ見ぬ景色に思いを馳せる二人なのでした。
*散策2:朝11時00分*
中心街に戻る途中、通りかかったのは“精霊樹の並木道”。
二人は自然と足を止めた。
高さ10メートル以上ある白樺のような木々が続く道。
その枝葉の間には淡く光る蝶のような精霊が静かに宿っている。
風が吹くたび、葉と葉が触れ合い、鈴を鳴らすような澄んだ音が空気に溶けた。
足元の石畳には、古代文字の様な模様が刻まれており、一歩踏み出すたびにほんのりと青白い光が灯る。
「……今、めっちゃ異世界っぽい」
『これ、夜はもっと幻想的なんだろうな』
昼間にも関わらず、ここだけは時間の流れが緩やかで、外界の喧騒が嘘のように遠い。
風に揺れる木々の音と、時折聞こえる鳥のさえずり。
静けさと魔法の気配が混ざる。
何も話さなくても、同じ景色を見ているだけで満たされる時間。
ダイセンの懐の深さを感じる二人なのでした。
*3食目:昼12時*
昼時の屋台通りは、香ばしい匂いで満ちていた。
炭火の前で、巨大な骨付き肉を豪快に焼く屋台の主が声を張り上げる。
˹さあさあ!本日限定、竜の骨付きミートだよ!˼
「わぁ!!!こーちゃん見て!!!武器!!!武器!!!あれで戦える!!!」
『食べ物で遊んじゃいけません』
チコは目を輝かせ、両手で抱えるほどの肉を受け取る。
表面はこんがり、中からは肉汁がじゅわっと溢れていた。
一口かじると、思わず声が漏れる。
「おいし……っ!柔らかいのに、噛むほど旨みがくる!」
『竜ってもっと硬いイメージだったけどな。お、本当だ、脂がくどくない』
コージンは骨を持つ手を少し持ち替え、豪快にかぶりついた。
˹今朝討伐されたばかりで新鮮だよ!竜肉は下処理が命でね。魔力抜きしてあるから安全さ!˼
「討伐」
『魔力抜き』
「竜って、見かけたら勝手に倒してもいいんですか?」
˹そりゃあ、人間には脅威の存在だからね。いなくなってくれれば助かるさ。冒険者達にとって、ドラゴンスレイヤーの称号は永遠の憧れというしね˼
「ほうほうほう」
『冷汗』
美味しいお肉を頬張り、チコは頬を膨らませながら幸せそうに笑う。
『おこちゃまチコちゃん』
チコの口元についたタレを、コージンは指でそっと拭った。
咄嗟にタレの付いたコージンの指をくわえ舐めまくるチコ。
チコの頭をわしづかみし、なんとか離そうと奮闘するコージン。
『俺じゃなくて肉を食え!!!』
「ブーーー」
そして骨だけになるまで夢中で食べ続け、ひっそりとドラゴンスレイヤーの称号獲得を目論むチコなのでした。




