誰が一番カッコイイチェックメイトバトル開幕!
「これでチェックメイトだッ!」
「君にチェックメイトはほど遠い!」
「負けを認めろ! チェックメイトォ!」
「チェックメイトはお預けかなッ!?」
ここはジャングルかとばかりに大声を張り上げ、ポーズを取り合うちびっこ男子二名。河川敷で、熱く真剣な眼差しと雰囲気をもって、バチバチと不思議なバトルを繰り広げていた。
その様子を眺め、微笑みながら通り過ぎていくパート終わりのおばさんや散歩中のじいちゃんばあちゃん。おまけのビックリして吠え返す飼い犬たち。
「あんたたち何やってんの」
「あ、美穂」
「おまえこそなんでここにいんだよー」
「お稽古のミーティングの帰り」
少女の冷え冷えとした声が響く。心底呆れたような顔をして、美穂は少年たちが雄叫びをあげている河川敷へと足を踏み入れた。
「翔も健も恥ずかしくないわけ?」
「恥ずかしくなんてねーし。〈誰が一番カッコイイチェックメイトバトル〉してたんだよ」
「そうそう、俺と翔どっちがカッコイイかのバトル」
「つーかイワンエイトの決めゼリフ知ってる? チェックメイトって言葉が必ず入るんだけどさ」
「昨日の放送のイワンエイトもカッコよかったよな〜」
「……はあ、子どもね」
その言葉に二人がカチンとしてしまうのは仕方のないことだろう。この年頃の男子は自分がお子ちゃまだと馬鹿にされるのは我慢ならないのだ。
「だったら、おまえやってみろよー!」
「翔、やめろって。美穂じゃカッコよくチェックメイトできないよ」
今度、カチンと来たのは美穂。売り言葉に買い言葉。この年頃の女子のプライドは山よりも高いのだ。
「やるなら私、本気でやるから」
空気が変わる。緊張感を伴って場が掌握されていく。
カッコイイチェックメイトを披露すればいいんでしょと確認をとる美穂、その凄みのあるオーラに翔と健は黙って頷いた。
見てなさいという宣言から一呼吸。伏せられた睫毛が少し揺れるのが合図だった。
「チェック……メイトよ……!」
それはまさに完成された〈チェックメイト〉。
少年たちの力まかせで大仰な言い方とポージングとは一線を画す、クールなスタイリッシュさ。余談だが、美穂が習っているお稽古とはバレエである。
その惚れ惚れするような立ち振る舞いっぷりに、ちびっこ男子二名が「カ、カッコイイー……!!」と瞳をキラキラさせて大興奮したのは言うまでもなく。
〈誰が一番カッコイイチェックメイトバトル〉勝者は美穂に決まったのだった。