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初心者向けスターターセットは買っとけ

話題、こういう内容と合ってるようで合ってないような感じので行こうと思います。

「はあー。疲れた。夕飯どうするかな」


 椅子から立って全身を伸ばすと、座っていて固まった体中が悲鳴を上げた。

 まだ動きにくい体でゆっくりと歩いて冷蔵庫に向かった。


「何もない……。そういえば今日放課後に買いに行こうと思ってたんだった。完全に忘れてた」


 冷蔵庫の中には飲み物と冷蔵する調味料くらいしか入っていなかった。

 翔太は面倒くさい気持ちを必死に抑えて、カバンを持ってスーパーに向かうことにした。



「いったあっ!……。な、なんなんだ……」


 家から出て廊下を歩いていると、突然左半身に衝撃が加わった。ただ廊下を歩いているだけなのに突然のことに翔太は状況が分からずにただ立っていることしかできなかった。


「あ、ご、ごめんなさい。しっかりと確認してなくて……」


 衝撃が加わった左から声がして左を見ると、そこは翔太の隣の部屋の扉だった。

 突然扉を開けたからたまたまその前を歩いていた翔太がぶつかったのか。それなら仕方ないなと思い相手の方を見ようとすると、丁度扉の裏から出てきた。


「いやいや。大丈夫です。別に怪我とかしてないんで……って。桜麗華!?まさか、隣に住んでたのか?」


 扉から出てきた人を見ると、それは見覚えのある人だった。翔太と同じクラスで、絶大な人気を誇る桜麗華だ。


「そういうあなたは、確か……。小野翔太君よね。同じクラスになった、美化委員の」


 部屋から出てきたのは、私服姿の桜麗華だった。私服でもその美しさは衰えず、むしろまた違った美しさを醸し出していた。

 翔太はこのアパートに高校入学と同時に入居したが、それから一年間。隣に麗華が住んでいたことなど全く知らなかった。


「ああ。まさかの偶然だな。このアパートに住んでるのはじいさんばあさんだけかと思ってた」

「私もよ。っとごめんなさい。ぶつけてしまって。もし何かあったら言って」

「ああ。大丈夫だ。じゃあな」


 まだ痛みの残る肩をさすりながら、スーパーに向かった。


「ま、隣だからって、何にも関係ないがな」


 ラブコメによくあるような、一緒に帰ったり、家が隣だからと何かとコミュニケーションをとるような、そんなことはありえないと、この時の翔太は思っていた。


 ◇◇◇


 翌日。翔太が学校へ行き教室へ入ると、早速男子たちに絡まれた。


「なあ、翔太。何か趣味はあるか?」

「好きな食べ物は?」

「好きな教科は?」


 昨日翔太に代わってくれと言ってきた男子たちは、美化委員を変わってもらえないのなら、翔太と仲良くなって、翔太を介して麗華と仲良くなろうという作戦にシフトチェンジしていた。その下心が透け透けな考えに、翔太はかなり機嫌を悪くした。


「美化委員、やめよっかな……」


 全部の提案を断わり続けて何とかチャイムが鳴る時間まで耐えると、男子たちは無理だと感じたのか絡んでくることはなくなった。

 周りからの視線は未だに感じるが。


『あー。学校長い。早く帰りたい』

『まだ朝じゃん!ダメだよー』

『どうせ学期始めなんて授業無いんだから、大丈夫だろ』

『がんばれー。あ、私先生来た』

『俺もだ。じゃあな』


 ◇◇◇


「――――じゃ、これで連絡は以上だ。最後に。今日は放課後に委員会の集まりがあるから、それぞれの委員会で、黒板に貼ってあるプリントに書いてある集合場所に行くように」


 帰りのLHR。担任の話を聞いてなかったせいで今初めて委員会の集まりがあることを知り、若干気分を落としていると、すぐに移動になった。


『ごめん。ちょっと帰るの遅くなる』

『私もだよー……。帰るときはすぐ連絡するね!』


 レインに一言送ってから集合場所に行くと、まだ数人しかおらず、麗華もまだ来ていなかった。

 久しぶりに校内で何の視線も感じず、落ち着いた時間を過ごしていると、すぐに教室が騒がしくなった。


「おい、あれって噂の……」

「ああ。桜麗華だよな。マジかよ同じ委員会とか最高だな」

「これを機にお近づきになれたらな……」

「ま、無理だろうな。今まで桜麗華の前に散って行った男は三桁に行くレベルだって話だぞ。俺らみたいなレベルじゃあな」


 集合場所の教室に麗華が入ってきた瞬間、室内の雰囲気が一気に変わった。小声での会話しか聞こえなかった室内は、一気にガヤガヤと騒がしい物になった。


「流石学校のアイドルだな……。騒ぎ過ぎな気もするが」


 担当の先生が入ってくるまで、教室内は絶えず騒がしく、麗華の周りには人だかりができていた。

 同じクラスだからという理由で隣に座ることになった翔太からしたらたまったもんじゃなかったが。


「早く帰ってゲームしてぇ…………」



 無駄に視線を感じる委員会を、翔太は終わった後のゲームのことだけを考えて乗り過ごした。

 常に数人以上の視線が隣に注がれ、そのせいで自分まで見られているような気分になる数十分間は、最悪なものだったが。


『今から帰る。帰ったらすぐインする』

『私も今やっと用事終わってようやく帰れるよー』


 委員会が終わると、すぐに翔太はスマホでレインに連絡をした。連絡した瞬間に既読が付き、すぐに返信が来た。


「ほんと、一緒に生活してるんじゃないかってくらい同じだよな」



『家着いた。五分後にはインする』

『私も今着いたー。じゃあ五分後ね!』


 ◇◇◇


『じゃ、俺はそろそろ落ちるかな。明日も学校だし』

『……ちょっと待ってもらってもいいかな』


 途中、休憩をはさみながらも、日が変わる頃までゲームをし続けた翔太は、流石に疲れて来ていた。今日はまだ学校が午前だけだから時間はあるが、麗華関連で余計に疲れているせいで、今すぐベットにダイブしたいほどだった。


『どうした?流石にもうボス討伐とかできる体力は残ってないが』

『ううん。そうじゃなくて、ちょっと話があるんだけど』

『どうしたんだ。そんな改まって』


 自然とモニターの前でキーボードを打っていた翔太は、相手に見えないながらも話を聞く姿勢に入っていた。


『私たちって、出会ってからもう何年も経ってるじゃん』

『ああ。もう三年だな』

『でさ、最近結婚したわけじゃん』

『したな』


 そのチャットを最後に、レインからは連続で送られてきたチャットは止まった。いつもならもの凄いタイピング速度ですぐに送られてくるが、長文を打っているのか、わざと溜めているのか。

 そして数十秒後、キャラのモーションと共に新しいチャットが表示された。


『私たちさ、そろそろ……。オフ会しない?』


「……………………は?」


 突然の提案に、チャットで反応できずに実際に口に出てしまった。


『オフ会って、あのオフ会だよな?ネ友がリアルで会って遊んだりおしゃべりしたりご飯食べたりする』

『そう。そのオフ会。やらない?結婚してるのに会ったことないどころか、声も聞いたことないなんて、これまでずっとおかしいと思ってたんだよ。ね?いいと思わない?』


 ピロン

 突然の提案にまだ思考が追いつかず、チャットを返せないでいると、通知音と共に翔太に一通のゲーム内の手紙が送られた。

 チャット機能とその面倒さからほとんど出番が無く、正月とイベントでしか目にすることがない物を、翔太は初めて人からもらった。


『詳細はその手紙に書いておいたから!明日までに返事ちょうだいね!』


 それだけ言って、レインは先にログアウトしていった。

 一人その場に残された翔太は、ゲームでもリアルでもしばらくその場から動けなくなってしまった。


「ま、開けるしかないよな……」


 受信欄にある一通の手紙。「ショー」へという手紙を、少し緊張しながら開けると、可愛い文字フォントで手紙が書かれていた。


 私たちのオフ会計画!


 開催日:近日中(できれば土日!)

 開催場所:関東ならどこでも行くよ!それ以外は…………。がんばる!

 目的:会いたい!話してみたい!


「予想より少なかったな。もっと沢山書いてくるかと思った」


 手紙をスクショして、スマホに転送すると、翔太もログアウトして、スマホでレインに連絡をした。


『手紙見たよ。オフ会、行こうと思う』

『ほんと!?嬉しい!』

『で、場所なんだけど――――』


 二人のオフ会計画は、日の出近くまで続いた。

 普通に学校があるせいで全く寝ることができずに朝を迎えることになった。


 ◇◇◇


『ごめん。今日は行く途中連絡できない。電車で寝たい』

『私も今日はあんまり元気ないかも……』


 電車の中でギリギリまで寝て、歩いている途中もほとんど寝ながら学校まで向かっていた。


「オフ会は次の日曜日。それまでに色々準備しないとな。レインに幻滅されたら普通に死ねる」


 教室に着いてからも、レインに連絡することなく、翔太は一人で日曜日に向けての計画を立てていた。人と二人きりで出かけること自体が翔太は久しぶりだし、相手は多分女性だ。翔太の記憶の中で、異性と二人きりで出かけた記憶は見つからなかった。


「まずは服だな」


 学校と買い物以外に、ほとんど家から出ない翔太には、異性。それも特別な関係の相手と出かけるために必要なものが、一から全て揃っていなかった。


 検索エンジンで自分に合う服を探していると、いつの間にか朝のHRの時間になっていた。だがそれでも自分に合うものは決まらず、結局放課後そのままショッピングモールに行って決めることになった。


『ごめん。もしかしたら今日インできないかも』

『え、どうしたの!?何かあった?』

『ちょっと用事で買い物に行くんだ』

『珍しいね。ショーは平日基本すぐ帰ってすぐゲームなのに』

『大事な用だからな。悪い』

『おっけー』


 ショッピングモールの中に入っている有名な服屋に入ってすぐに、翔太はマネキンとにらめっこを始めた。

 ファッションのふの字も知らない翔太では、畳んで置かれている服を見たところで善し悪しは分からない。ならば、最初から完成されているものを使おうと思ったのだろう。


「やっぱ初心者はテンプレ装備だろ」


 だが、そのテンプレ装備ですらも、初めの街すら出ていない翔太にはどれにすればいいのか分からなかった。

 職業ごとに違った装備があるように、男物と一括りにしても、落ち着いたもの、派手なもの。機能面まで考えると、まるで最初の職業を選ぶかのような緊張感が生まれる。

 前に出たい戦闘狂が僧侶になっても、相性が悪いから強くなれない。ゲームしか頭にないリアルのない翔太が派手な服を着たところで、浮いて目立つだけだ。


「お客様、どうかなされましたか?」

「あー……えっと、自分に合う服が分からなくて」



 だが、服屋には救世主がいる。

 時にウザがられ、時に感謝される。自分から話しかけてきてくれる店員さんだ。

 ノルマもあるんだろうが、圧倒的コミュ力で服選びのサポートをしてくれる、序盤の兄貴キャラみたいな存在だ。


 そして、買い物を終えればもう関わることはない。

 序盤で消えるところまで兄貴キャラじゃないか。


「そうですねー。お客様の雰囲気に合う服ですと、これとこれですかね」


 そう言って店員は慣れた手つきで棚から二枚のシャツを持ってきた。どちらも落ち着いた色をしている、翔太には合っているものだ。


「できればセットで買いたいので、マネキンだとどうですかね?」

「わかりました。それでしたらこちらはどうでしょうか?もし良ければ試着して確かめてみるのもいいですよ」


 そう言って店員が見せたのは、黒Tシャツにパーカー、チノパンと、THE普通な組み合わせのマネキンだった。

 もう何が何だか分からずに、ただ店員さんがおすすめしてくれたやつを買おうと思っていた翔太は、面倒だからと試着して確認をせずにサイズだけ見て購入した。


「服おっけー。次は持ち物か」


 人と出かけるということが滅多にない翔太には、出かけの際に持っていくものを一切知らなかった。しかも会う相手はゲームとはいえ結婚相手。恥ずかしいところを見せれば、どうなるか分からない。


「ついでにお土産も買っておくか」


 結局、必要なものを全て買い終わる頃には、もう夕方になっていた。


☆が★になると踊ります。

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