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後がなかった

「よう、アラン! 久しぶりだな! 俺が抜けてから『永遠の翼』のパーティーランクが下がったって聞いたけど、それって本当のことなのか!?」


 冒険者ギルドの、掲示板の前。何か新しい依頼や重要な情報の告知などが為されていないか、と確認していた俺の耳にそんな軽い声が響く。俺は内心、溜め息をつきながら振り返るとそこには分厚い鎧を身に纏い、髪を短く切った若い剣士がいた。一見、地味だがよく見れば顔のいいソイツは俺たちのパーティー、『永遠の翼』の元メンバーであるミシェル。今となってはもう、仲間でもなんでもないはずのソイツだがミシェルはニヤニヤと、意地の悪そうな笑顔を浮かべて俺を見つめている。


「聞いたぞ。俺を追放したから『ゼウスの雷鳴』や『アルテミスの弓』が使えなくなったんだろう? おかげで戦力がガタ落ちしてるらしいけど、それがちょうど俺の追放と時期が重なっているらしいな。なんだか周りのパーティーではよく噂になっているらしいけど、大丈夫か?」


 きゃんきゃんと子犬のように喚くミシェルに、俺は仕方なく対話を始めることとする。どうせ、このまま何も言わずに去ったって周りが適当なことをあれこれ言ってくるだろう、それよりここでほかの冒険者やギルド職員のいる前で、適当にあしらった方がいい。


 面倒だなぁ、と溜め息をつきたくなるのを堪え俺は淡々と今の自分たちの状況を説明する。


「お前の言う通りだ。ミシェルを追放してから俺たちのパーティーは一気に戦力ダウンした。おかげでほかのパーティーからは『あのミシェル様を追放するあんてバカじゃないのか』『パーティーのリーダーをしているらしいアランとかいう男は、よほど無能なんだろう』。ずっとそんなことを言われてばかりだよ」

「そうだろう! そうか、そりゃ大変だよなぁ! 」


 ミシェルは言葉だけは気の毒そうに、だけど喜々とした表情で大仰に頷いて見せる。コイツのこういう、「かまってちゃん」「察してちゃん」がなんか嫌だからってのもパーティーを追放した理由の1つなんだけどな。そんな俺のぼやきにも気づかず、ミシェルは期待に満ちた目でじっ、と俺の方を見つめた。


 ……まぁ、だいたいわかっている。コイツが俺に何を言ってほしいのか、どういう態度をとってほしいのか。なんだかんだパーティーにいた頃は仲間として、仲良くやってきたのだ。「察してほしい」「かまってほしい」っていうのがありありと伝わってくる面倒くさい、だけどだからこそ仲間への感謝や親愛を素直に示す憎めない奴。だからコイツが今の俺に何を求めているのか、コイツがどんな言葉を望んでいるかぐらいはなんとなく想像がつく


 だが――今の俺はその期待に応えることが、できないのだ。


「まぁ、お前を追放した時からランク落ちになったり周りに色々言われるようになったりするのは覚悟してたから、別に後悔はしてないよ。『永遠の翼』はお前のおかげで成り立ってたようなものだからな。だけどどの道、俺たちパーティーはあのままじゃもう後がなかったと思うんだ。だから俺たちがお前に迷惑をかけるなんてことは、しないから安心してくれ」


 俺の言葉に、ミシェルは凍り付いたような表情を見せる、。それからさっと顔から血の気が失せてっいたが、そんな自分を振り払うようにミシェルは顔を真っ赤にして食い掛かってくる。


「そうやって強がって見せても無駄だぞ! 『ゼウスの雷鳴』や『アルテミスの弓』は俺がいたから使えた技なんだし、魔力・戦闘力全体の底上げをしていたのだって俺なんだから! 俺の影響の大きさを痛感したお前たちは、絶対に『永遠の翼」に戻ってきてくれって言ってくるはずだ。でも、もう遅いからな! 俺はもう絶対に、お前たちとパーティーを組むつもりなんてないんだからな!」

「おーそうかい。そりゃ良かったなぁ」


 別に言われなくても、もうお前とパーティー組むつもりなんてないから。そう心のの中で唱えながらも、俺はしっしっと野良犬を追い払うようにミシェルを振り払おうとする。だがミシェルはそれが気に入らなかったらしく、ヒステリックに金切り声を上げると感情ままに地団駄を踏み始める。


「なんだよ、その態度! だいたいお前が俺をパーティーから追放した理由だって気に入らないんだ! 『そろそろ現実を見てほしい』とか『自分ときちんと向き合うべきだ』なんて、わけがわかんねぇんだよ!」


 ダンダダンと、地割れでも起こすつもりんじゃないかと思うぐらい暴れまわるミシェルに俺は、頭を抱える。もうそろそろ、騒ぎを聞きつけた無関係の冒険者やギルド職員が俺たちの様子をうかがっているようだ。仕方ない、ミシェルには酷だがここで現実を突き付けてやろう。そう思った俺はミシェルの秘密をはっきりと、この場で告げて見せる。


「でもさ、ミシェル。そうやって『俺』って一人称を使ったり男みたいな格好したりしてるけど――お前、本当は女の子だろう?」


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