カゲランド 1
お久しぶりです。
あの衝撃の出来事から月日が流れ、俺は中学3年生になった。
どうも、ボルゾイの弟、狗神 有次です。
あの後どうなったかって?
寝込みました。どうやらうなされている間に家に帰っていたようです。父と母は長い間仕事の都合で留守にしていて、先生が車で送るという話だったらしい。
……そう、実際は兄貴が、俺を、お姫様抱っこで連れ帰ってくれたそうだ。
はぁあ??って思うよね。うん。
先生止めなかったんだよ。「狗神くんなら大丈夫だね」じゃないんだよ。兄貴当時中学1年生だよ?170センチは超えてたけど12歳だよ?大人でも子供でもない12歳だよ?
次の日からの俺のあだ名はお察し、ヒメだった。
一旦落ち着いて
どうやらすんなりと任されたのは、兄が小学生時代に武勇伝を立てて伝説の存在になっていたからだとか。小中一貫のためその話が伝わっていて、生徒から先生幅広く兄のファンがいたからだとか。友人づてに聞いたので、定かではない。
小学生時代から兄のイヌ集めは、始まっていたのかもしれない。
***
「ただいま〜ってあれ、千秋くん」
「おかえり、ユウジくん」
にこりと挨拶してくれたのは、お隣に住む高校生の保坂千秋くん。俺がちっちゃい時から色々お世話になってる優しいお兄さんだ。兄ちゃんの1コ上の高校2年生。
「今日はどしたの?兄ちゃんに用事?」
そうそう、と頷きながらジャージを取り出した。
「体育の時に貸してもらってね、返しついでに遊びに来たんだ」
そう、あの傍若無人を絵に描いたような兄でも、数少ない友人がいる。その1人が、幼馴染で親友の千秋くんだ。
あの兄と仲良くできるなんて、と尊敬する相手だ。
「兄ちゃんならまだ帰って来てーーー」
「おい」
ガチャっと音をさせて入って来たのは、
「あ、たっくん」
たっくんこと、高校1年生になった狗神鷹道その人です。たっくんなんて呼べるの千秋くんだけだよ、すげぇよほんと。
「お前な、先に家に入ってんじゃねぇよ」
「えー」
「来い」
青春だなぁ。俺もあんなふうに仲良くできる友達欲しい。
さて、宿題でもやりますか。担任の鬼塚は山のように宿題を出す鬼なのだ。
たまにトイレに行く以外は大人しくリビングで宿題してたんだけど、1人でいるのにも飽きた俺はお菓子とお茶を持って鷹道兄ちゃんの部屋に行くことにした。
にいちゃんの部屋は2階の奥の角部屋で、階段を登って少し歩く。いつも階段をのぼりきったら、にーーーちゃーーーーんはいってもいいーーーーと言いながら歩いていくのが部屋へ入る儀式だ。
けどその時は妙に魔がさして、そろりそろりと静かに部屋まで歩いてしまった。千秋くんもいたし、いつものは恥ずかしくて。
そしたらさ、聞こえてくるんだよ。部屋から小さな犬の鳴き声みたいなのが。もちろんうちは動物は飼っていない。
えっ、って思って、ドアが少し開いていて、
ちらって、見ようとして……
ごちんっ
「イッテェ!!ってひっ」
「覗き見なんていい度胸じゃねえか、なあユウジ」
ゴゴゴゴゴ……。
魔王がいたよ!逃げよう!
咄嗟にばっと身を翻すも兄の長い腕と俊敏さの前には無力。ジタバタもがけばもがくほど絡め取られた。ぐえっ
「あは、ユウジくん何やってるの」
クスクス笑いながらベッドに座ってこっちを見ている千秋君。なんでだかホッとしてた。
「ユウジくんも見る?カーゲンハウンドランドのHP」
兄ちゃんのバックハグみたいな体勢から体を捻って覗き見る。
千秋君の示すタブレットの中で、大人気のアニマルテーマパーク、カーゲンハウンドランド(略してカゲランド)の紹介動画が流れていた。カゲランドは犬が主人公のアニメからテーマパークにまで成長した老若男女問わず大好きな遊園地なのだ。動画では期間限定、犬の大合唱パレードが注目!!と書かれていた。
「うわ、いいなぁ」
思わず目で追ってしまう毛並みのいいワンコたち。小型犬から大型犬まで揃ってる!
「犬、好きだもんねユウジくん。
ねえ、一緒に行かない?カゲランドに三人で」
へっ!?三人って俺と千秋くんと、
「おい、まさか俺もその中に入ってるんじゃないだろうな」
「もちろーん」
「もちろーんじゃねぇよ、行かねぇよ」
グリグリと何故か俺の頭をしめながら顰めっ面な兄ちゃん。
「仕方ないな、それじゃあ僕と2人きりで、朝から晩まで楽しもうか、ユウジくん❤︎」
「はえ?!」
千秋くんと2人でワンコまみれ。近くに魔王がいない。そしてワンコまみれ。最高か!!
「いく!!俺行きたい!!」
「ユウジ!!」
「にいちゃぁん、俺ちゃんと千秋くんのいうこと聞くからさっ
お願いお願いお願い!」
うるっと我が家で最も決定権のある兄ちゃんを見つめる。
お願いだよぉ〜、犬が見たいんだよぉおお
「……っち
しゃぁねぇ、わかった。」
やったーー!!
ぱぁっ!っと満面の笑みを浮かべて千秋くんに近寄りタッチしながら喜ぶ俺。やったぁ!初カゲランドたのし……
「ただし、オレも一緒だ」
これだからドSボルゾイなんだよォッッッ!!!!
Q.好きな犬は?
ユウジ「全部好き!!」
鷹道 「従順な犬」
千秋 「コーカシアン・シェパード・ドッグなんか素敵だよね」