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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

人生は苦しみ藻掻き渦巻く。

作者: 三上 空

 死因:肋骨骨折による肺胞裂傷。


 2トントラックに弾き飛ばされ、地面に投げ出されたとき、僕はもう死を覚悟していた。

 いや、あるいはもっと前からか。

 別に大した理由じゃない。

 何もかもがどうでも良くなってしまっただけなのだ。

 生きるという事。

 僕は今までいろいろな人の話を聞いた。

 

 「生きるのは、幸せになるためだよ?」

 「生きるのは、天国でいい暮らしをするためだよ?」

 「生きるのは、自分を探すこと」 


 こんなきれいな側面ばかりを言われた。

 だが、僕はそう思わない。

 

 「生きるのは、苦しんで藻掻いくため」

 

 そういう事だと考えた。

 その考えに至ったのは15歳。

 遅かったかもしれない。いや、事実遅かった。

 そうでなければ、いまは現役で大学を卒業し、会社勤めをしているのだと思う。

 思う。

 僕は仮定の話が好きではない。

 なぜなら、社会は結果しか見ていない。

 仁義。過程。それを重んじる社会という表面上の温かさが増した現代に、深層的は氷点下は厳しさを増す。資本社会とはそういうモノだ。社会主義と違い、力なき者は圧倒的に弱い。

 僕は、生きる価値があるのか。

 そう考え、自殺を考えたこともある。

 それを踏みとどまったのは、よく覚えていない。

 あぁ、そうだ。

 昔首を吊ろうとしたとき、母親が泣いて止めたんだ。それを思い出して、なぜかやめてしまった。

 まぁ、話を少し戻そう。

 会社勤めとか云々はこの際いい。

 僕の両親は、浮気癖で酒に溺れ酒に塗れたような父親に、食事のためにパートへ出る気弱で病弱な母。

 父は、僕が生まれてから、変わって行ったらしい。

 元は仕事に熱心で、真摯な好青年といった具合だったらしい。

 どこをなにでとち狂ったのかは僕が知りえたことではないが、それに強く出られない母は、パートへ繰り出す中で、廃棄処分になる食材を貰ってきて、僕と母の食事をとっていた。お金なら既に父がパチンコで羽をつけさせて飛ばしてきた。

 僕は、何をすればいいのかがわからなかった。

 僕は、そこの頃から、心が抜けたように静かだった。いや、心が抜けていたんだろう。

 母は常に泣き、父は常に声を荒げる。そんな僕は常にボロアパートの廊下で手を悴ませ、震えるでもなく、肩に雪を積もらせる。

 そんな僕は、中学をはんば不登校になり、母に隠れて新聞配達などをし始めた。先生側には話をつけた。案外すんなりいったのは我が家の過程状況を鑑みた結果だろう。

 僕は毎月給料日に、担任に数万ずつ返していた。

 入学金、制服代などすべてを肩代わりしてくれた先生に、お金を返すためだけにその時は奮闘していた。学校生活による青春などを味わう間もなかった。


 時は流れる。

 高校は残念ながら進学せできずに、すぐ町工場で働き始める。

 その時はもう既に父は姿をくらまし、母も体調を崩し、介護と共に稼ぎを繰り返す。

 確かにつらかったが、母はもう疲れたろうと感じ、それならと身を扮した。

 それも虚しく、数年後には衰弱していき、死んでしまった。

 それでも、雇ってくれた町工場へのお礼と思い十年そこで働き、今日に至る。

 その町工場は今日、大きな会社に買収され合併、会社に吸収され、雇用された者よりも路頭に迷ったものが多くいた。

 僕は、仕事仲間に今までの貯金を出来る限り渡し、ルームシェアをすれば暮らせる程度の金額を渡した。僕が持っていても使わないのだ。生憎空腹には慣れている。

 アパートも家賃は毎月払っていたが、来月分がない。

 そろそろ退去せねば。

  

 ふらふらと中身の少ないバックと中身の薄い財布と、求人冊子を持ち白かったシャツは薄く黄ばみ、黒のデニムは泥が跳ねて汚れている。唯一バックに入れてあった服はツナギで、いまよりはマシだろうと着替える。 

 住宅街の一角。

 夜だというのにトラックの往来は激しく、居眠りをしている人もいる。

 すると、昔の僕の様に薄汚れたシャツに、半パンを身に纏い、ところどころ破けた皮膚から滲み出る血が、僕の目にいやというほど入る。

 少年は交差点へふらぁッと揺れ、それこそ居眠りをしていたトラックがさしかかるのが、ミラーで見える。

 咄嗟に動いた体は、最近の食生活では出るはずのないパワーを発揮し、少年を抱き抱える。

 少年を抱き、トラックに背を向ける。

 背骨が、めきめきと反対に折れ曲がる音がし、地面へ投げ出される。少年の頭を抱き抱え、ゴロゴロと転げる。

 少年は無事無傷なようだが、僕は肋骨がおれ、肺に食い込んでいる。息をするごとに肺胞が縮こまるような感覚がし、息絶え絶えとなる。

 自由の利かなくなってきた腕を上げ、少年の髪をなでる。


 「お家へお帰り、お母さんが待ってるよ」

 「・・・」

 「大丈夫、お行き」


 目を潤ませ、大粒の涙を浮かべて走り去る彼を見るかぎり、まだ絶望するほどではなさそうだ。

 さて、僕はこれからどうなるのだろうか。

 重くなる瞼はもう開かず、サイレンのみが高らかとこ幕を揺らしていた・・・。


                          ~end~

病んでるんですかね、私。

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