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プロローグ 異動


 荷物が詰め込まれたダンボールを抱えつつ、僕は社の廊下を歩く。

 ダンボールが大きいせいでたまにすれ違う人とぶつかってしまう。その度に頭を下げるが、睨まれたり舌打ちされたりしてメンタルが擦り減っていった。


 部署異動を命じられたのはつい先日のことだった。

 入社して3回目の春のこと。

 地元の大きな企業に奇跡的に入社できてから、もうそんなに経つんだなぁとコーヒーを飲んでいた時のことである。課長に「君、異動だから」と小さな紙片かみきれを渡された。そこには人事異動通知と書かれていた。

 入社して仕事を覚えるのにてんやわんやしていた年月が過ぎ、落ち着くこともままならない中で異動の準備にてんやわんやしたというわけだ。


 異動にしては急じゃないか? という疑問はあるが、まあ会社の、いち歯車人間からしてみれば、何を言われてもそれに従うしかないわけである。

 別に普段から労働が厳しいというわけではないし給料も悪くない。右を向けと言われて右を向くのはさして難しい事じゃないしそれでお金がもらえるのなら仕方のないことだと思える。


 と、言うことで。

 時間をかけてゆっくりと準備できなかった分の、この荷物のまとまり具合(まとまらなさ具合)なのである。

 長い廊下を渡り、これから4階分上に上がらなければいけない。階段で行こうかとも思ったが、ちょうどいいタイミングでエレベーターの扉が開いた。ラッキー。

 エレベーターを降りたのは隣の部署(こないだまで隣だった部署)の1年後輩女子社員だった。彼女は僕の方に気が付くと、扉を押さえて乗るのをサポートしてくれた。

「あ、ありがとうございます」

 ペコペコと頭を下げる。

 彼女は僕の代わりにボタンまで押してから、微笑みを残して鉄扉の向こうに消えていった。


 後輩とはいえすごくありがたかったなぁ。別に特別親しかったわけではないが頑張っている姿を見てた僕には、彼女がとても頼もしく思えた。

 小さな体なのにスーツをなんとか着こなす姿は、1年間働きこの春で先輩となった彼女の成長がうかがえた。

 それにしてもなんて優しく可憐だったのだろう。

 あの瞬間、あの子が天使に見えた。まぁ白衣の天使じゃなくスーツの天使だけど。

 もっと親しくしておけばよかったなぁと僕は頭があの子のことでいっぱいになりながら、天にも昇る気持ちで物理的にも上昇していった。

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