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クソゲーの『悪役』令嬢と『デーモンスレイヤー』  作者: 傘花
第四章 宇宙を飲み込む嵐の中で
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第八話 運命を委ねられた者


***


「はぁぁぁあああああああッ!」


 致命の一撃、バルライカは振り下ろした鎚でドラゴンの頭を叩き砕いた。彼女はすぐさま途切れた《*肉体強化*》や《加速》を掛け直し、後方へ駆けるトロールの膝を潰し止めを刺す。


「くそっ、いつまで続くんだ!」

「《暗黒の嵐》! 喋ってないで手動かせ手ぇ!」

「うっせぇ! 分かってるよ!」


 悪態をつきながらもバルライカは一匹二匹と楽々魔物を蹴散らす。その横で、彼女の頼もしい仲間たちが今もまだ戦い続けている。


 マリメラは仲間の背に隠れながら《暗黒の嵐》を連発して雑魚を蹴散らし、仲間の武器に《吸血の刃》を掛けて援護する。キットも同じく隠れながらだが、透明な魔物に染料を投げつけ他にも弓矢や魔法棒で支援する。


 ヴェローチェは両手剣を振り回しながら、アンデッドや悪魔、邪悪な魔物を破邪の力で消滅させている。ヒンメルは《結界の紋章》で自分の周囲に魔物を遠ざける力場を貼り、苦戦している味方に《体力回復》や《祝福》を掛けながら、時折メイスで魔物を叩き潰す。


 バルライカがチラリと北の方を見やれば、大魔法の眩い光が今も荒れ狂っていた。


(早く終わらせてくれよな、アズさんよぉ……でないとペルティアが死んじまうぜ……)


 カオスゲート中央、第一の防衛線最前線。


 中でも最も激しい戦いを繰り広げるのは、ペルティアの立つ最前列だ。


 半円状のバリケードの間を抜けて来た魔物は、まず、その先に待ち構えるペルティアに切り捨てられる。


 次に、逆凹型に配置した迷宮壁で待ち構えている“愛の星”や上級冒険者達が手強い魔物を狩り、取りこぼされた魔物は多数の中級冒険者達や市民の繰る魔法棒の集中砲火で始末される。


 こうして、殺到する魔物の群れは問題なく押し留められていた。


 ペルティアに最も負担がかかるという点を除けば。


「さァッ! 来いッ! 来いッ! 魔物共ッ!

 私はここに居るぞ!! 私はッ!! ここにっ、立っているぞッ!!

 殺しに来い!! 殺してみせろぉぉぉおおおおおおお!!」


 己の正しさと信念で以て困難に挑み、他者の為に身を削る事ができるのなら。その魂は(まさ)しく黄金のように輝いているに違いない。


 決断する勇気で、恐怖に抗う覚悟で、運命を退ける精神で、ペルティアの往く道は朝日の如く希望で照らし出される。


 故に誰もが彼女に導かれる。


(私が選んだのよ、戦いも、この傷も、痛みでさえも! 誰にも奪わせない、この誇りだけは!)


 彼女は周囲を鼓舞する最中でも呼吸のリズムを崩さず、一ミリのズレもなく短剣を振る。


 まず竜が居れば首を刈り、幽体獣のように迷宮壁をすり抜ける魔物は《空間歪曲》、増殖する巨大ゴキブリなどは《プラズマ球》で始末する。


 その程度の魔物なら、延々と楽な戦いが出来た。


 だが、今や魔物の強さは一段階も二段階も上がり、ペルティアでさえ殺すのに少々時間を要する魔物が現れる。


 それらは時に彼女の横をすり抜けていき、“愛の星”や上級冒険者達が決死の思いで殺す。


 その間に無数の魔物が雪崩込み――バリケード周辺は混沌と化していた。


「“陽気なレプラコーン”だ!! 誰か《抹殺》してくれ!」

「アウェイは止めろ! おとなしく引け!」

「ぎゃぁああああああ!」

「そこのお前、上級冒険者達にポーションを届けろ!」

「俺が行く!」

「うわぁああああ! 壁が壊れたぁ!?」

「急いで塞げぇ!」

「集中砲火で殺せッ!」

「《竜の息吹》の魔法棒を持ってこい!」


 悲鳴、怒号、断末魔。喧々囂々(けんけんごうごう)とした場は辛うじて崩壊していないものの、その段階まで最早秒読みだ。


 後方にはすり抜けた魔物を始末できるだけのパワーが無い。ペルティアや上級冒険者達が苦戦する以上、勇敢な市民や莫大な物資の存在なしに戦線は維持できなかった。


 これ以上の命の浪費は確実な破滅を招く。


 ペルティアは十メートルもある巨人――グレータータイタンの激しい打撃をかいくぐり、手足を切り飛ばして消滅させる。一瞬の隙を見つけて、彼女は叫んだ。


「この通路は破棄するわ! 十字路入り口まで撤退! 撤退!」


 ペルティアが《壁生成》で自身の退路を塞ぎながら指示を出すと、“愛の星”と上級冒険者達は持てる力を振り絞って通路内の魔物を排除し、道幅を狭くするよう迷宮壁でバリケードを作って一息ついた。


 ペルティアはそれを見送って距離を取り、己の外套に込められた力を解き放つ。


 祝福された『サンライトイエロー』ミスリルの外套スカードレッドは、太陽の力を宿し、持ち主さえ焼き焦がす破壊の光を降らせる事ができる。


 少なくとも、ペルティアにとっての切り札になり得るパワーを秘めていた。


「《太陽波紋》!」


 瞬間、半径二十メートルの範囲を猛烈な太陽風が駆け抜けた。百万℃を越す凄まじい炎と変異の混沌が荒れ狂い、彼女に群がろうとしていた数多の巨人や竜や有象無象が灼き尽くされた。


 バリケードや人員に被害はなく、魔法の太陽風は瞬く間に過ぎ去る。


 ペルティアは焦げ付く臭いと熱を感じ取り、背中の皮膚が融解している事に気づいた。慌てて*体力回復*の水薬(ポーション)を飲み干す。


「残り四本……少し配りすぎたわね」

「おーい! 早く戻って来いよ!」


 迷宮壁の向こう側からバルライカが呼びかける。ペルティアは大きく息を吸い込み――


「全員!! バリケード内に侵入した魔物の排除を完了させなさい!! 《抹殺》が必要な時は上級冒険者に投げなさい!! 今より後は、そこから北には出るな!!」


 ビリビリと耳を痺れさせる程の声量で指示を出した。


 彼女は単独で、押し寄せる魔物の方へ飛び出す


 そして背後からの静止の声も聞かず跳躍。飛び込んできたただの(・・・)竜の額を踏みつけ、短剣で二度切りつけ殺すのと同時にもう一度高く跳び上がった。浮遊の力で宙を飛び跳ね、足場を三つ程経由した位置で腰の袋から一本の杖を取り出す。


「周りに人がいると、使えないのよ」


 *破壊*の杖だ。


 一振りすれば、周囲の地形を文字通り*破壊*して作り変える。


 全ての魔物を一撃で消し去るが、本物の生命に対しては、魂と肉体の繋がり(HP)を半分だけ*破壊*する。尤も、それは*破壊*の副次的な作用でしかないが、魔物への緊急措置として重宝する者は多い。


 今の状況下において、魔物を問答無用で*破壊*させられるのは心強いが、味方が二度で全滅するのであれば意味がない。街も破壊されてしまう。


 必然的に、使うなら一人の時に限られるのだ。そして、たった一人でも生存できる人間は、一人だ。


「*破壊*」


 跳んだまま、ペルティアは杖を振った。


 彼女の半径五十メートルで大地が揺れたかと思うと、全てが――建物も道も空気も魔物でさえも――*破壊*され、生まれ変わる。


 破壊は創造と表裏一体。変化は一瞬で劇的だった。


 迷宮壁が林のように生い茂り、迷宮壁に囲まれた真四角の空白地帯がモザイク状に点在する。それはある種の秩序を持っており、ダンジョンという混沌と秩序を端的に表していた。


 ペルティアは迷宮壁の柱に着地し、誰よりも高くから“針鼠の肉屋”の戦いを見た。


 とはいえ、先程と同じ、大魔法による光の洪水だけが目に映る。その境界間近の黒炎は火災とは異なりゆっくりと南下し続けている。


「……!」


 突如、光の洪水が収まった。


 黒炎に遮られ視界は良くないが、それでもペルティアの目は“針鼠の肉屋”を捉えた。


「うそ……」


 彼の持つ巨大な武器は手から抜け落ち、身体が徐々に傾いて――砂漠の上に倒れ伏した。


 敗北だ。


 “針鼠の肉屋”が、唯一の“紫白”が、邪神に対抗できるたった一人の人間が、負けた。


(ありえない……ありえない、ありえない! 何が起こったの!? 何が……)


 混乱するペルティアの思考。


 脳の機能不全を叩き直したのは、無数に、無限に、今度こそ、砂煙を上げて殺到する――数万の魔物だ。


 【憎悪の太陽】に照らされた真っ黒な影が列を成す。


 互いを喰い合い殺し合い、カオスゲートの影を呑み込み、死を象って進軍してくる。


 地震の如き足音が、万雷の如き叫びが、いざ滅びの福音を(もたら)さんと列を成す。


 人々のちっぽけな勇気やささやかな抵抗を踏み潰す異形の群が、希望を掲げるペルティアの下へ。


 パティイ・スナ・ウーが《召喚》した魔物が小川なら、それはさながら濁流であった。


 百を超える数の龍のみならず、カオスワイアームや時空ワイアームに真なる龍――ペルティアでさえ戦いを挑もうとすら思わない――機械仕掛けのサイバーデーモン、異形の亜神。


 盤上遊戯の駒の兵団。

 形のないエレメントの群。

 地下世界(アンダーグラウンド)のダークエルフ。

 影のエーテルの者共。

 死せる偉大な魔法使い。

 飛来する蟲人。

 空泳ぐ鯨。

 女王アリと死を恐れぬその配下たち。

 天を覆う天使と悪魔の大軍勢。


 正しく、敷かれたバリケードは無意味になった。


 彼奴らは空を飛び、壁越しに彼らを見下し、時に呼び寄せ、テレポートし、迷宮壁を押し出し、壁を突破するだろう。攻撃を遮るものが無くなる以上、それは僅かな間、彼らの進軍を止めるだけだ。


 幸運なことは、皆でパティイ・スナ・ウーの小川を飲み干さない限り、濁流が押し寄せないことだ。


 ペルティアは溢れそうになる涙を堪えた。打ち砕かれそうな心を繋ぎ止めた。


 決断したのが己だからだ。


 あの丘で誓った日、過去の自分を殺した日、時代の流れに殺されるより夢の前で死ぬと決めたのだ。


 艱難(かんなん)辛苦を打ち砕き、汗と泥と血に塗れたとしても道を拓くと、自分で決めたから。


「私が戦わなかったら、誰が立ち向かうっていうのよ……やるしかないのよ。私が、私だけが……」


 白紙の地図を埋めるには、彼が必要だ。


 カオスゲートが必要だ。


 *勝利*へ至るための決意が必要だ。


「そうでしょ、■■?」


 あの名前が、呼べなかった。


 それどころか、ペルティアの頭の中から名前さえも消えようとしていた。


 世界が、時代の流れが、大いなる意志が彼の存在を消し去ろうとしている。


 ペルティアは心の何処かで感じ取っていた“針鼠の肉屋”の力が、急速に奪われていく(・・・・・・)事に危機感を覚える。


 魂が凍り付くような孤独だ。心の底から何かを分かち合った者同士が、永遠に分かたれる。その前兆に身を震わせた。


「冗談じゃ、ない……あなたの、名前はッ!」


 ペルティアが感知の目を飛ばす。数万の魔物の情報に鼻血を吹き出し血涙を流そうとも構わない。


 “針鼠の肉屋”は共に産まれた仲だ。


 世界が認めるたった一つの名は■■だけでなくてはならない。


「認めない。認めるものかッ! 誰にだって否定はさせない! 始まってすらいないのに、もう終わりだなんて許さないわよ!」


 彼女の目に映るのは、血の海に沈もうとも黄金球に手を伸ばし、決して膝をつかない彼の姿だ。


 まだ、負けてない。


(いいえ、絶対に*勝利*するのよ)


 彼は、世界が名乗らせたArhotztohraなどという名前ではない。


 彼の慟哭が聞こえる。彼の絶望が見える。彼の取り零したものが、影に呑まれていく。


 彼の心には死が街を覆い尽くす光景がいつだって焼き付いているのであると、ペルティアは思った。いや、考えるまでもなく分かった。


 魂が繋がったように自然と理解できる。


「アズが守れなかったもの、今度こそ私が守ってみせる。だから、あなたと同じ事をしていたんじゃ駄目……二人で生きる……だから、アズの不足を私が埋める!」


 嘆く暇はない。


 泣く暇はない。


 絶望する暇はない。


 一人で立っている時間はない。


 世界が名前を奪ったなら、ペルティアはそれを取り戻すだけだ。


 世界が全てを奪うなら、ペルティア達は必ず報復する。


「それでいいよね……? 私、まだ、戦えるよ」


 いざ、|Nyarlathotep《邪神》の詭謀(きぼう)に復讐を。


***


 バルライカ達を含む冒険者は、迷宮壁で出入り口を完全に遮断した後、その場に座り込んだ。一部の者は警戒しているが、皆は束の間の休みに精一杯休息する。


 もしも処理能力が限界を越えそうになったら、速やかに他の隊に連絡を送りつつバリケードを封鎖する手はずになっている。彼女たちはその通りにしたまでだ。


 ペルティアが一人で残ったのは想定外だったが。


 ともかく、これをすることで幽体の魔物や壁を破壊してくる魔物以外は街の外――つまり北門(があった場所)から予め開けておいた南門まで回り込もうとする。魔物が持つ最短距離の法則だ。つまり、時間が稼げる。


 完全に塞ぐと壁を破壊しようとするので、あくまでも南門付近に魔物が着くまでの間だけだが。


 バルライカは辺りを見回して、防衛の要である上級超級が欠けていないことを確認した。


 ただし、その要を守るために中級以下には多数の死者が出ている。


 後方へ死体を引きずった跡が幾つも残っており、半ばで折れた魔法棒や魔法の巻物(スクロール)の燃えカス、瓶の破片に金属片が幾つも転がっている。


 人の命を燃料にしてバリケードは維持された。だがこんなものはいつまでも続かないのだ。


「なぁ、マリメラ! こりゃいつまで続くんだ?」バルライカが相棒に囁く。

「あの紫白が――アレが邪神を倒すまでだな」マリメラは喉元まで出かかった名前をボカして言う。

「あー……」


 バリケードが完全に封鎖された後の、束の間の平穏。滅びに向かう街で一時を過ごした経験のある“愛の星”の面々は、決意をもう一度固める。


「来る所まで来た、という感じがしますね」


 ヴェローチェが感慨深く頷く。


「ま、ボク達二度目な訳だしネ」

「“愛の星”にはもう、逃げるという選択肢はありませんから」


 ヒンメルは遠い昔に思いを馳せた。


 彼女たちは皆、“針鼠の肉屋”が滅ぼした都市の地獄を知る者達だ。悪魔から逃げ、正気のまま肉体の操作権を失った人間に追い回され、血と臓物と阿鼻叫喚が降り注ぐ中を幸運にも生き延びた者達だ。


 理由は違えど、ペルティアのように此度の戦いに掛ける意気は大きい。


 対して、“愛の星”以外の冒険者達は、皆ペルティアに当てられて付いてきただけだ。*破壊*でせり上がった柱の上に佇む彼女を見つめ、その背中に力強さを感じているものの、精神的支柱が無い。


 アズが邪神を倒すまで耐えればいい。


 彼らはそう信じ、希望を抱き、死力を尽くして戦った。


 その幻想は打ち砕かれる。


 ――最も忌むべきは、ペルティアが収集してきた魔法の武具を、惜しげもなく皆に配布したことだ。


 彼らは悪魔や人型や竜や混沌の“属性(概念)”を持つ魔物に対して、特別強い効果を発揮する道具を得た。


 得てしまったが故に、武具に付随する“属性への感知”の力で気付かされてしまった。


 認識する魔物の数が二倍、三倍――ああ、悠長に数えている間に逃げてしまった方がいい、そんな考えさえ頭に浮かぶ程に、膨れ上がっていく。


 死力を尽くして戦った敵が、巨大な嵐の水の一滴だと思い知らされて、どうして抗う気になろうか。


 今まではアズが倒していたので勘定に入っていなかったが、ソレが無くなった以上は希望が絶たれたに等しい。


 心砕かれていき、誰もが膝をつく。


 誰もが思う。ギリギリの戦いの中で殺される方が、絶望に立ち向かうよりもよかった。希望を抱いて打ちのめされるのは何より耐え難い。


 もはや戦意は回復不能。


 ペルティアにどれだけカリスマがあろうとも無駄だ。


 残された生をどう過ごすか、その段階に入っている。


「はぁ……ま、あいつらにゃ荷が重いか」


 バルライカは大盾に肘を付きながら後方を見た。


 戦意を喪失する中級以上の冒険者達に、魔法の武具を持たない市民や初級、ギルド職員が戸惑っている。


「そんなもんさ。全く、あと八百年は生きるつもりだったってのに」

「それなら八百年と言わず、千年生きてみなさいな」

「っ!?」


 マリメラは声を出さずに飛び上がって驚く。


 死を決意した“愛の星”の前に、音もなくペルティアが現れた。


「ペルティアさん、わたし達は引けません。過去に置いてきた後悔を消し去らなければいけないのです」

「真面目臭いわよヴェローチェ。大勢は決したわ。覆しようはない」


 あの“真紅の雷光”ペルティアが断言した。


「そうですか、やはり……」


 ヴェローチェは両手剣の柄頭に掌を乗せ、額を置いてうなだれた。


「このままなら、ね」

「……!」


 期待の目が集まる。


 威風堂々たる様で、不敵な笑みを浮かべ、妖しげな紅の瞳を向けて、ペルティアは両の足で立つ。


 絶望に屈しそうな今、彼女たちにはペルティアしか縋れるものがなかった。


 いや、ペルティアならば、という思い込みがあった。東の壁を越えて開拓をしようなどと宣ってしまう彼女の大言壮語には、いつも自信があった。


 今回も、“愛の星”は信じてみた。


「それ、ホント?」

「何だっていいでしょキット、逆転の機会よ!」


 ヒンメルがメイスを担ぎ上げて背筋を伸ばす。ヴェローチェはバルライカに支えられ、マリメラが杖を振り回す。キットも渋々といった仕草で――しかし小さく笑いペルティアの下へ小走りで駆け寄る。


 次なる策は何か、と。


 六人だけが立ち、向かい合い、目に光を宿らせた。


「“彼”による状況の打破は見込めないわ。彼はいま偽りの“名”を与えられ、邪悪な存在に転じようとしている。

やることは単純よ、今度は積極的に行くわ。彼の名前を取り戻すために、名を叫ぶ」

「……まさか、“命名”されたのか!? 邪神に!?」

「知ってんのか、マリメラ?」

「“名は体を表す”だ!

 原初の言葉は真に力を宿し、大いなる者の呼び掛けは世界の(てい)を容易く改める!

 神秘の魔法の基礎!」


 暗黒の領域の使い手は早口で語る。


「えぇ、そうみたいね」

「悠長にしてる場合じゃないぞ“命名”の儀式が完了すれば私達みたいなちっぽけな存在の呼びかけなんぞに答えるわけがない、ペルティア名前は分かるか今すぐ何でもいいから全員に叫ばせでもしないと取り返しがつかなくなる!」


 興奮するマリメラをよそに、ペルティアは意外なほど冷めた態度だった。余裕や信頼といった言葉では言い表せない――根深い感情にバルライカは気付いた。


「慌てんなよ相棒。で、我らがペルティア様はどうするんで?」

「彼が現れるまで待つのよ。今は沈んでいる、夢に浸るように。声は届かない」

「あー……分かりやすく頼む」

「もう一度アズが姿を表した時――その時がチャンスよ。恐らくね」


 その名を呼んだ直後、彼女たちの真上から汚泥が流れ落ちてきた。


 虹色に泡立つ不浄は地に落ちると渦を巻いて消え去るが、リング(・・・)の下からは絶えること無く汚泥が流れ続けていた。“渦”に触れたが最後、この世の何処でもない領域に流されて二度と戻っては来れない。


 六人は“それ”を中心に距離をとった。


 そこに、神はいた。


 流れ続ける汚泥にクリーム色の輪を七つ重ねた胴体、萎びた灰色の球形頭部に四方を見つめる複眼の目。


 其の名はパティイ・スナ・ウー。渦を呼ぶもの。


「総員退避! 誰かを引き摺ってでも第二防衛線まで撤退しなさい!」

「防御陣形1-3-1!」


 ペルティアの声に、中級冒険者以上の冒険者は抱えられ、その他の者は跳ねるように逃げた。信号弾が打ち上げられ、全ての戦線で撤退が開始された。


 それを尻目に、最も戦術眼に優れるキットの手話と号令で“愛の星”は対特異個体戦術をとった。バルライカを先頭で盾とし、マリメラが後方での固定砲台、他三人が補助だ。


『苦痛を夢見よ、屈服に歓喜せよ。策は成れり、策は成れり』

「希望を見据え、勇気を手繰り寄せなさい。生き残れば、その先が如何なる闇でも道はある!」


 滅びに抗うヒトと、流されていく化身の戦いの火蓋が切られた。


 “愛の星”がありったけの強化を掛けている間、ペルティアは宙を駆り“渦を呼ぶもの”の懐へ潜り込もうと――


「っ!」


 刹那、汚泥から伸びた何本もの腕を切り捨て、後ろへ跳ぶ。


 “渦を呼ぶもの”は汚泥を波打たせて黒々とした腕を作り、腕は地を這いずって体を動かす。自身で呼び出した腕でさえも汚泥は上から下へと流して渦の中へ消し去るが、お構いなしに腕は呼び出されて這いずり消えていく。


 “渦を呼ぶもの”は地を這う蟲の様に素早く動いた。


 ペルティアは泡立つ汚泥の腕を切り捨てつつ、迫りくる“渦を呼ぶもの”から素早く後退する。


(速い! 腐っても神か、接地したまま汚泥に呑まれたら、何処へ消え去るか分からない!)


 ペルティアは汚泥に掠り腐食された腕に、致命傷回復の水薬(ポーション)を振りかけて癒やす。


 彼女は“愛の星”と十分に離れている事を確認し、手指を動かして混沌の領域に座す魔法を唱えた。


「消し飛びなさいッ――《魔力の嵐》!」


 純粋な魔力で形作られた球が炸裂し、“渦を呼ぶもの”の顔面で吹き荒れた。


 汚泥が飛び散り、肉体と魂の繋がりが僅かに断たれ、かすり傷の様な跡がポツリと出来た。


 ゴム質の表皮が小さく裂けたものの、出血している様子はなく――出血の概念があるかさえ疑わしいが――明らかに軽傷だ。


 ペルティアにもそんなことは分かった。


 ダンジョンの中でさえ、特異個体を殺そうと思えば時間は掛かるのだ、神の化身であれば尚更で、それが問題だ。


(――丸一日、丸一日掛けてやっと相手を消耗させられる、絶望的に手強いわ)


 近接攻撃を除けば、《魔力の嵐》はペルティアの持つ最も強い一撃であった。


 ペルティアは“愛の星”に一瞬だけ視線を向けた。彼女たちはまだ準備している。バルライカが居なければ攻撃をモロに食らうので、まともに共闘するのは不可能だ。


 敵は神の化身。


 いや、ほとんど神と言っても差し支えない。


 太古、人類という存在が産まれてから、今に至るまで縋り続けてきた存在が神で、それと同等の敵だ。


水薬(ポーション)用意!」鋭く指示を飛ばす。

「何を――」


 ペルティアが*破壊*の杖を取り出したのを見て、“愛の星”は身構えた。


 *破壊*なら、例外なく二振りで殺せると目論んだ。


 “渦を呼ぶもの”の汚泥の腕が、彼女の眼前まで迫る。


 攻撃が届くよりも早く、ペルティアは完璧な動作で杖を振った。


「*破壊*!」


 不発。


 “渦を呼ぶもの”の萎びた灰色の頭部は皺を深くして喜色を浮かべた。先程汚泥が触れた時、魔力吸収打撃で杖の魔力を吸い切ったのだ。


 あまりの出来事に思わず凍りついた表情、ペルティアは一瞬だけ動きを止めた。


「ッ――!」


 彼女が逃げようとした時にはもう手遅れだ。


 汚泥の腕が体にまとわりつき、汚泥の終点――虹色に渦巻いた先さえ分からぬ領域に引きずり込もうとする。


「があッ、ぐ、くっ……!」


 不浄に蝕まれていく全身には激痛が走り、腕の感覚が遠のいていくが、それでも脚に力を込めて踏ん張る。


「ペルティアーーッ!」


 キットが*体力回復*の水薬(ポーション)を投擲すると、叩き落とそうとする汚泥を掻い潜り、ペルティアの胴体で砕ける。


 刹那、肉体を修復した彼女は短剣を翻し、無理矢理拘束から脱出する。


「助かったわ!」

「*破壊*の予備は無いのか!?」

(さえず)るな――《魔力の嵐》』


 “愛の星”を中心に純魔力球が炸裂。


 全員の至る所に裂傷が形成され、血が吹き出した。


「っ我が神バーラフバよ、どうか癒やしの力を此処に――《治癒の雨》!」

「クソッ、《壁生成》! 《壁生成》! 《壁生成》!」


 ヒンメルが回復し、キットが迷宮壁で射線を遮る。


「ペルティア! こっちは気にせず戦え! あたしらはまだ時間が掛かる!」

(――もう強化は終わってる筈……何か策があるの!?

 でもここでは話せば敵にバレてしまう……連携の巧い彼女たちに任せるしかないわ)


 ペルティアは短剣をポーチに仕舞い、新たに武器を取り出した。


 それは彼女の背丈ほどもある大剣だった。


 肉厚で幅広く、表面は白銀に輝いている。


 彼女の細腕ではとても持てそうにないような――大きな両手剣だ。


 祝福された『襲撃者たる』古強者のグレートソード《ディフェンダー》。


 『殺戮』の概念は先程の『勇気凛々の』短剣よりも遥かに強いが、小回りが利かない。


 しかし、リーチで言えば雲泥の差。接近し過ぎが即死を招く“渦を呼ぶもの”に対しては、やっと勝負の土俵に立てると言えよう。


 短剣を持って飛び込んで汚泥を掻い潜り、捕まらずにリングを切り裂いて戻るなど、神の化身と相対するに無謀過ぎる行為だ。


(有用な武器があるなら、それに自分を合わせる……我ながら無茶を努力でどうにかしたと思うわ)


 ペルティアはグレートソードを肩に担ぐ。


 彼から教わった――否、死線の中で使い方を学ばされた技術は、短剣術と比較しても謙遜ない領域まで仕上がっている。


 使わなかった理由は単純、防衛戦においては押し寄せる魔物の中で十分に効果を発揮できないからだ。持ち替えるだけの隙が出来たとも言える。更に言えば、彼女の象徴でもあったからだ。


「ふぅ――――」


 ペルティアは大きく息を吐き、担ぎ上げたまま片足を大きく後ろに下げる。


 そのまま重心を下げ――駆る。


 先程とは打って変わって、小さな殺戮を積み重ねるのではなく、腕力と殺戮で叩き潰すスタイルだ。


 ペルティアは階段を駆け上がるように宙を蹴飛ばし、一気に加速して“渦を呼ぶもの”の胴体にグレートソードを叩き付ける。汚泥の終着点たる“渦”とは先程よりも遠く、汚泥の山の頂上に位置するリングと腕をまとめて薙ぎ払える。


 同じ戦術であっても、ペルティアならば十分達成可能な域の技だ。


(ッ硬い!)


 腕の妨害を物ともせずクリーム色のリングにぶち当たったグレートソードは、ゴム質の表皮に阻まれる。


 だが、殺戮が作用した裂傷に刃をねじ込み、表面を滑るように裂きながら――ペルティアは横を通り抜けた。


 傷は浅いが、《魔力の嵐》よりも深い。


 着地と同時に振り返り、追いすがる腕を得物で切り飛ばす。


(外皮が硬い、やはり手数を重ねても無理ね。私の魔力じゃ《魔力の嵐》も弱い……だけど、アズから貰ったこのアーティファクトなら!)


「別に、倒してもいいんでしょう……!」

『羽虫風情が抗うか!』


 呼吸を一定に、叫ばず、殺意を滾らせ、グレートソードを担ぐ。


 屠殺の構え。


 死闘ではなく、激戦ではなく、苦戦ではなく、作業として殺す。蟲を潰すように殺す。呼吸をするように殺す。感情を動かさず殺す。一人で踊るように殺す。


 人目の殆ど無い環境。士気を気にしなくていいのならば、ペルティアは殺意を漲らせたままに戦える。


「ふぅぅぅぅぅぅぅ――――――――」


 深く深く空気を吐き出す――それは誰にとっても一瞬のように感じられ――次は肺を満たし、肩が僅かに下がると同時に飛び出す。


 “渦を呼ぶもの”は強力なアーティファクトに警戒を示し、複眼がペルティアを視界に収めた。


『《魔力の嵐》』

「っ!」


 苦痛に歯を食いしばってペルティアは駆けた。腕を斬り伏せ、払い、避け、表皮に刃を思い切り叩き付ける。


 “愛の星”が準備を整えるまで幾度となく《魔力の嵐》を浴び、うめき声一つ上げず、その度に水薬(ポーション)を体に叩きつけて肉体を再生する。


 ペルティアはほとんど真横に倒れたまま“渦を呼ぶもの”の周囲を疾走し、腕を掻い潜って彼奴の真上に跳ねた。


 彼女は灰色の頭部を真下に、背を反らし――重力に腕と腹の筋肉を沿わせてグレートソードを振り下ろす。


 音もなく萎びた果実の頭部は切り裂かれ、刃は半ばまで通った。複眼は瞳孔を彷徨わせ、“渦を呼ぶもの”は呪詛を漏らす。


『貴ィ様貴様貴様貴様ぁぁああああああ!』


 ペルティアは空気を蹴飛ばし宙返りで着地した。


 瞬間、汗がドッと吹き出す。水蒸気が立ち昇り、人間では耐えられない程に体温が上昇する。心拍数は跳ね上がり、血管を凄まじい勢いで血潮が駆け巡る。猛烈な空腹と乾燥が身を苛み、鉄の味が喉いっぱいに広がる。


 間違いなく、己の限界を超越した一撃。


 だが呼吸は一定に、グレートソードを担ぐ。


「――ペルティア! こっちに!」


 キットの言葉とともに疾駆、ペルティアは《魔力の嵐》を浴びながらも“愛の星”の下へ飛び込んだ。


「で、何を待っていたのかしら?」水薬(ポーション)瓶を体に叩き付け空腹充足丸を呑み込みながら耳を傾ける。

「神の(ゆる)しを得ました」


 ヒンメルが祈りの姿勢のまま答えた。


 ペルティアは後背の、第二防衛線やヒンメル自身から神の力を感じ取っていた。


 神聖で穢れのない透き通った力。されども、暖かく包み込んでくれる春の陽気や父の如き威厳を感じさせる。


 神の力はあちこちに芽吹いていた。ありとあらゆる人類の神が集結し、信徒に、戦士に、親子に、冒険者に力を授ける。


 だがそれ以上に、ヒンメルに漲るそれは強い。


「人類の興亡この一戦にあり――《神の息吹よ(ゴッド・ブレス・ユー)》!」


 ペルティアに痺れるような衝撃が走ると共に、神の力が流れ込む。


 神々の意志と善なる力は、最も強い者に宿った。


 隅々まで駆け巡った神力に筋肉は溢れんばかりのパワーに満ち、感覚が鋭くなる。まるで己が己でなくなるような――何でも出来ると錯覚する程のパワーが肉体に込められた。


 その凄まじい全能感に酔いしれる誘惑を、ペルティアは跳ね除けた。酩酊したままで倒せる敵ではない。噛み締めた唇から流れた鮮血を拭い、己を取り戻す。


「これが秘策?」

「ペルティアさん……この逆境を打破できるのは貴女しかいません。神々は、人類の存続を貴女に委ねました」


 ヒンメルが冷や汗をかきながら早口で、縋るように言った。


「滅亡と繁栄がいま、貴女の上で秤にかけられています……!」


 ヒンメルの言葉はペルティアの心に染み入った。


 長い間失っていたはずの、砕け散った誇りを取り戻したのだ。神々に未来を託される栄誉――その甘美なる味に、空虚であった器が満たされていく。


「私って……意外と単純だったのね」

『《魔力の嵐》いいぃいいいい!!』


 純魔力球が炸裂。だが傷は先程よりずっと浅い。


 ペルティアは勝機を見出し――駆けた。


(遅いッ!?)


 何が神の力だと悪態をつきそうになった彼女だったが、実際はそうではない。


 余りある肉体強化をなお追い越す意識の加速。体が重いのではない、感覚が速すぎるのだ。


 水の中を進む鈍重さで――風より疾くペルティアは駆ける。


 息苦しさで肺が爆発しそうになり、肉体が燃え尽きる程熱くなるのを気にも留めない。


 苦痛に喘ぐ肉体、されど体は剣を握る。


 鈍臭い動きをした汚泥の腕を遠目に、リングを一裂き。


 すぐさま体を反転し、もう一撃。


 今度は逆側に駆けて一撃。


 腕を切り払い一撃。


 切り、伐り、裂いて飛び退き飛び込んで斬る。


 精神の限界まで“渦を呼ぶもの”の周囲を跳ね回り、ペルティアは舞い踊る様にグレートソードを振り、着地した。


 彼女が振り返って空気を吸えば――――傍目には、刹那の内に化身の肉体をズタズタに引き裂く程の猛攻を見舞っていた。


 “渦を呼ぶもの”は苦痛に身悶え、汚泥は剣筋に沿って撒き散らされ、綿の詰め物の如き体液がリングからメリメリと汚物のように溢れ出てくる。


 飛び込もうとして出鼻を挫かれたバルライカが「あなたは盾役でしょう」とヴェローチェに引き戻された。


『下等生物がッ! 神の絞りカスの野糞にも劣るゴミ共がぁあああああああ!!』

「勝つのよ、私が!」

『【|Y’dyhauln P’amneelh《無限螺旋へ鬱屈せよ》】

 【|Nilharr B’oovth 《無間の呼び声よ》】

 【|Aenomiku S’plazekth velmuze’nt《虹の無幻を暴きし者へ》】』

「どこでもいいから隠れろぉぉおおおおおおおお!!」

『【|Lthyrrm U’npugyr《永劫の渦》】』


 マリメラの叫びに全員が身を翻した直後、“渦を呼ぶもの”から流れ落ちる汚泥が沸騰し始め、虹に煌めく水泡が大量に舞う。


 視線を遮っていた迷宮壁が虹の泡に触れると、そこ(・・)は抉れ、何処でもない何処かへ消え去った。


「触れたらお陀仏だぞっ!」

『薄汚い下等の猿の糞虫がぁ! 永遠の責苦に打ちひしがれるといいッ!』


 泡の壁が押し寄せる。


 冗談ではない、ペルティアは心の中で悪態をついた。おめおめと逃げざるを得ないなど、彼がいま目覚めれば致命的な行動になる。


 声は遠ざかり、呼び掛ける余裕はなく、悍ましい化身に磨り潰されて死ぬ末路が誰の目にも見える。


(どうする、どうする、どうするの!)


 思考は加速するが、現状を打破する手段はほぼ無い。


『逃げ場など無いぞ! 《龍召』


 その時、世界は凍りついた。


 【憎悪の太陽】がバリケードごと化身を焼き払う。


 あまりの熱量に“渦を呼ぶもの”の魔法は消え去り、六人は後ろにたたらを踏む。


 そして、暗黒の炎の陰から一つの神が立ち上がった。


 己を穿つ無数の牙に、暗闇の繭の外套を背負う。


 連なる獣の顎門(アギト)に九の星の如き紅の眼を輝かせ、人のように武器を持つ。


 だが、アレは最早獣だ。人ではない。


 存在(・・)は憎悪と殺意に満ち、広がり、全ての者の希望の空を絶望で(かげ)らせた。


 悪の従神。


 憎悪と復讐の神。


 破滅と再帰の神。


 絶望と磔刑の神。


 人では呼び得ぬ神の名は――Arhotztohra。


 世界は震えて(ひび)割れ、歪みのままに悲鳴を上げた。


Y’bhnemerk(血を流せ)


 感情のままにArhotztohraは呪う。


 《真なる加速》によって世界を置き去りにし、世界中の者を宇宙の只中に突き落とした。


 無限の星々の光が暗黒から集い、Arhotztohraと化身の柱を輝く籠に閉じ込める。


「どう、なって……」


 ペルティア達は、消失した様に見える周囲のあらゆる光景に絶句した。呼吸が出来ない訳ではない。


 ただ、大地が無ければ見える筈の光景に、景色が切り替わっているだけだ。


 “渦を呼ぶもの”は彼女たちの目の前で光の籠に吸い込まれていき、虫を潰すように殺された。あっという間の出来事だった。



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