第三話 世界を照らしてみせよ、化け物め
ペルティアは無事、ここから離れた地上に逃れることができた。
その代償として“針鼠の肉屋”は無防備なまま《魔力の嵐》を喰らったが、そのダメージは微々たるものだ。
そうでなければ、始祖に連なる悪魔殺しなど出来るはずもない。
「《影の投影》」『《魔力消去》 クソが! 解除できないヤツじゃないですかー』
魔法の打ち合いはすなわち、戦いの火ぶたが切られたのと同義だ。
彼らは刹那の内に相手の次の手を読み合った。
魔法による強化は《魔力消去》で打ち消せるが、《魔力消去》は《魔力の嵐》を掻き消すことができない。しかし《魔力の嵐》だけを連発しては、重ねられた強化が容易に自分の首を絞める。
どうとでも覆せる三竦みだが、《影の投影》は魔法としては別格だ。
真実の世界から投影した『影』の自分を己に纏わせて、あらゆるダメージを『影』の自分に肩代わりさせる。本物の“針鼠の肉屋”には数段劣るが、《魔力消去》では消せない肉盾を手に入れることができる強大な魔法だ。
それらに続いて、彼らはすぐさま魔法を唱えた。
「《無敵》《魔力の嵐》《魔力消去》《無敵》」『《魔力消去》《魔力の嵐》《加速》』
「《魔力の嵐》《魔力の嵐》《加速》《魔力の嵐》」{《魔力消去》《魔力の嵐》《魔力消去》《加速》}
「《肉体強化》《魔力の嵐》《魔力消去》《加速》」[《魔力の嵐》《魔力の嵐》《加速》《魔力消去》]
「《魔力の嵐》《肉体強化》《究極の耐性》《無敵》」
須臾の魔法合戦。
アストラル体に働きかけて四度同時に呪文を唱える《四重詠唱》の応用。四つの呪文を一つの口で同時に唱える異口詠唱だ。
五つの頭と三柱の化身が一斉に魔法を唱え、互いの強化を打ち消し合い《魔力の嵐》を飛ばし合って苛烈に攻め合う。
頭数の差でアズに強化が掛かったが、お互いの魂に与えたダメージはごく僅か。大局を決定付ける程ではない。
しかし、数瞬の間に放たれた十度の《魔力の嵐》は地下室で波濤の如く荒れ狂う。長屋ごと天井が吹き飛び、瓦礫が火山弾のように噴出すると共に土埃が天高く舞い上がった。
時刻は0時過ぎ、空には満天の星空が広がっていた。
街には小さな灯りが二、三個見えるだけで、起きている者などほとんど居なかったが、その轟音で近くに居た大半の住人は飛び起きた。
都市の壁に近く住宅の多い北区であったが、幸いにも瓦礫は人の居ない通りに落ちた。警邏の叫びで目覚めた北区の住人も、尋常ではないと慌てて家から逃げ出した。
しかし、土煙のヴェールを引き裂いて、千の化身をその身に宿した巨大な異形の肉柱がせり上がると、運悪く目撃してしまった数十人が発狂した。
それに続いて五頭十腕十本脚の化け物も蜘蛛に似た脚を伸ばして立ち上がる。これを見た者は、同じ様に恐慌に陥った。
そんな地上の様子はお構いなしに、彼の蜘蛛様の六つ脚は格闘戦のため腕のように構えられた。
本体である“針鼠の肉屋”はただ幽星体に吊るされているようにみえるが、残った二つの脚の根本を動かしながら空を飛ぶように接近し、黄金球で殴り殺さんと肉薄する。
幽星体の六つの腕は手に持ったアーティファクトを振るい、残りの二本は弓に矢をつがえて放つ。
対するNyarlathotepの化身達は、まず理性のない狂った化身が次々と柱の表層に現れては矢面に立ち、家々よりも太い触手の束で迎撃した。森のように触手を生やしながら理解し得ない叫びを撒き散らし、触手の鞭をしならせて四方八方から打ち付ける。
“針鼠の肉屋”はその巨体に見合わぬ身軽さで六腕を動かし、全ての触手を《無敵》や《影の投影》で防御した上で切り落とすか受け流すかしてやり過ごす。
そして攻撃の反動を利用して化身達の柱――本体に百数回もの反撃を叩き込んだ。流れる雲の長さの矢は肉を貫通し、遠方の地面に大きな凹みを残すと瞬く間に霧散した。
化身共はその隙間のない連撃を神がかった腕前で幾度か受け流すが、捌ききれず大半をもろに食らう。
戦闘がずば抜けて得意な神ではないのだ、Nyarlathotepは。意識が幾つも在ることが弱さの原因でもある。
ただ恐るべき事に、魔法の打ち合いから近接戦闘までを一周期と仮定しても一秒として経ってはいない。化身は自身の想定以上の速さで“針鼠の肉屋”が動いていることに苛立ちを隠せず、同じ化身共を罵倒していた。
既に人間では踏み込めない領域の戦い、“針鼠の肉屋”がカオスゲート最後の砦であることは最早言うまでもない。
{蛆虫共が脳無しの貴様らをこの私が使ってやっているというのに無価値の塵芥がァ!!}
『ハハハハハハッ! 想像を絶する化け物じゃないですか!
まさか“死に至る螺旋”を本当に殺したとは!
人間如きの身でここまで至ったなんて!』
「いくら束になろうとも、貴様ら化身の実力は“奴”未満だ。無駄な足掻きをする」
八腕が煌き、数多の魔法が化身達を粉々に砕いた。
触手が悶えるように歓喜の声を上げ、新たに作られた口が喚き出した。
{観測用の子機を潰されたのは予想外だったが、最高級の玩具になって帰ってきたとは嬉しい誤算だ}
「悪魔殺しの神アトゥスライアーも貴様の化身か。古の神々は欺かれたようだが、最早これまでだ」
“針鼠の肉屋”の猛攻が激しさを増した。
触手をただ振るう化身――勿論並の技量ではない――に比べ、“針鼠の肉屋”は一撃一撃を神業のような精密さで通してくる。ただ凄まじく速く、技の出も早く、見切りも疾い上、狙った部位を決して外さない。
三筋の剣閃をするりと躱した触手を、そのまま剣の僅かな機動と殺戮で灰にする。埋め合わせで飛来した多臓器様の化身を四股の足で叩きつけてすり潰し、肉柱から伸びる触手の森を因果攻撃の鎚で過去ごと削ぎ落とす。
“殺”に特化した“針鼠の肉屋”に真っ向勝負を挑むなど、そもそも戦いが成立するかどうかも怪しい行為だ。
『ちょちょち』『ょ! 一ター』『ンに何』『回こうげ』『きしてるん』『ですっあ――』『消耗速度がぁ!』
{一七八れ}{ん撃だ}{口の生}{成すらお}{いつかん}{とは}
[逞し][は良き][ことですが][いささ][か激しす][ぎますわ][次なる][策に移][行しま][しょう]
雨粒の様に降り注ぐ《魔力の嵐》で消えていく化身もいれば、凄まじい連撃と殺戮の力で叩きのめされる化身もいる。だが、どの化身も神には違いなく、負けじと《魔力の嵐》や触手で反撃している。
秒間七柱の速さで、化身が粉微塵に砕かれては消えていく。
何万と両断され肉が欠け落ちようとも削られた部位は瞬く間に再生し、死した化身の穴埋め要員は雲霞の如く湧いて出てくる。
無尽蔵とも思えるほどの化身を持つNyarlathotepであったが、有無を言わさぬ攻撃には音を上げた。このペースでは一日と持たない、と。
『《四重詠唱》《龍召喚》』「《四重詠唱》《魔力の嵐》」
化身は《召喚》によって攻撃対象をバラけさせる作戦に出た。彼はすぐさまその動きに対応し、有象無象を一掃する方向に舵を切る。
「《魔力の嵐》《魔力の嵐》《魔力の嵐》《無敵》」{《四重詠唱》《龍召喚》}
「《究極の耐性》《魔力の嵐》《魔力の嵐》《魔力の嵐》」[《四重詠唱》《龍召喚》]
「《四重詠唱》《魔力の嵐》」
「《四重詠唱》《魔力の嵐》」
百を超える数の龍が一気に召喚された。
カオスワイアームや時空ワイアームに真なる龍といった龍の祖であり頂点に近い種もあれば、この星で“厳冬”として徘徊する龍も居る。いずれも凄まじき力の持ち主であるがこの場では端役だ。
好き勝手にブレスや物理攻撃を仕掛けたものの、《魔力の嵐》に巻き込まれてあっという間に蒸発してしまう。
『クソがァァァあああああ!! 役立たず共がッ! 見てる暇があったらお前らも《召喚》し』『クソがァァァあああああ!』
柱の中で脈打つ化身達が、癇癪を起こした銀髪褐色の化身を嘲笑う。
彼女は化身共を口汚く罵倒して《召喚》するように促した。化身達は同じNyarlathotepであって上下関係があるはずもない。互いに互いを見下し合い、指示されたとしても梃子でも動かないだろう。
しかし、彼らの心は“針鼠の肉屋”に対する残忍で冷酷な欲望に溢れていた。調理したいと思うもの、引き裂いて生き血を貪ることを望むもの、堕落と退廃の道に引きずり込もうとするもの。
そして、彼を完膚なきまでに叩きのめそうとするもの。
いずれにせよ“針鼠の肉屋”に地獄を味わわせたいと望む心が一致し、化身達は行動していた。
直接対面した以上、彼らにとっては最早消化試合。“針鼠の肉屋”に抗う術など万が一にもない。だから化身共は手を抜いて、同じ化身の醜態を嗤っていられるのだ。
“針鼠の肉屋”が大した傷もなく龍を消していく中、化身達は気まぐれに《召喚》の魔法を唱え始めた。
一口に《召喚》と言っても、実に多種多様な種族が呼び出される。それは時に、強大な龍よりも恐ろしい数の力となる。
それは盤上遊戯の駒を象った人形の兵団を。
それは形のないエレメントの群れを。
それは灰色の肌と白目をした地下世界のダークエルフ達を。
それは陸では生きられぬ剣のような魚を。
それは薄汚れた緑の肌の狂ったゴブリン軍団を。
それは死せる魔法使いの骨と死せる戦士の死体の大群を。
それは女王アリと死を恐れぬその配下たちを。
それは天使と悪魔の最終戦争を。
《召喚》された魔物はそれだけではなかったが、その数はゆうに千を越していた。
彼らの足元では召喚魔法によって混沌から呼び出された意志無き魔物たちが、定められた善と悪の概念に従って殺し合うばかりか、北区を南下して住人を殺しつくそうと飛び出した。
一秒あれば何万という数の魔物が溢れ出す――“針鼠の肉屋”はこの手法をよく知っていた。
彼が《支配》の悪魔の拠点を潰す時は、まず無数の魔物を呼び出していた。そして呼び出された魔物が《召喚》を行い、《召喚》された魔物がまた《召喚》を行い……と、《召喚》を無限に連鎖させて、数の暴力で悪魔を轢き殺す。
通称、“召喚地獄”。
ダンジョンの中でよく起こる現象であり、大抵の場合“召喚地獄”に陥った階層は攻略不可になる。大人しく《帰還》や脱出の巻物、《フロア・アップ》の魔法棒で逃げるのが鉄則であるが、ここは地上だ。
地上を諦める――そんな事を“針鼠の肉屋”はしない。
だが、《魔力の嵐》を地上に放てば人間が巻き添えを食う。Nyarlathotepは期待に目を輝かせた。
「無駄だ」
「ィィッィィィィィィイィイィィィィアアァァァァッア"ア"ア"ア"アアアア!!」
無数の《魔力の嵐》と近接攻撃が化身の幾つかを消し飛ばした。そして、四つの頭の一つ、アダイアの頭がガラスを引き裂くような声で絶叫した。
魔力を多分に含んだ“死の音”は聞かされた者に強力な衝撃波をぶつけ、抽象的な“死”を与える。
抵抗できなかったものは時間が過ぎ去るように当然に、前触れ無く肉体が粒子となって崩れ去り、そこに存在しなかったように消え去った。
《召喚》された全ての魔物は龍にも劣るほどか弱く、その“声”に耐えられるはずもなかった。
後に残った魔物は居ない。
『ゲェーッ! 敵味方識』『別のMAP兵器とか聞いてない!』
当然ながら“針鼠の肉屋”は耳を貸さない。
一度戦いを始めたが最後、彼を止めるには敵を滅ぼすしかない。
分子の穴を通すほど精密に攻撃し、かつ宇宙が滅びても死なない程度に頑丈な殺戮兵器だ。邪神と言えど尋常ならざる手段がなければこのまま死ぬ。
{だが倒す方法など幾らでもあるのだよ。唯一にして絶対の欠点、素体の限界がね}
『“針鼠の肉屋”さぁん! 忘れているかも知れませんがぁ! 死んだお兄さんのお肉は美味しかったですかぁ?』
化身が揺さぶりを駆けるが無駄だ。
彼は決して惑わない。
憎しみ以外を抱かず、必要を必要なだけ満たすことができる戦闘機械だ。
彼は《召喚》された魔物共を蹴散らしながらも、魔物を北区から逃さないよう体を張って進路を塞ぐ。
『埃と小石を喰む人間が生きられると思います? あなたの肉体は何一つとして正常ではないんですよ!』
彼は決して惑わない。
研鑽に眠りがなければ全ての時間を費やせるだろう。
研鑽に迷いがなければ食事は一つで十分だろう。
鋼の肉体、不壊の精神、神に通ずる技量、全てを身に着けて彼は個体としての頂点に至った。
化身を粉砕し魔物をいとも容易く屠るその威容は、あらゆる者に逆らおうという気さえ起こさせはしないだろう。
『人間単体の効率的な殺し方に一番詳しいのはあなたですよ!
知り合いを殺すのはさぞ楽しかったでしょう?
顔は思い出せますかぁぁ~?
名前は?
どんな会話をしましたか?
え?
思い出せないとは冷血な!』
彼は決して惑わない。
戦いに喜びは不必要だ。
殺しに悲しみは不必要だ。
殺人に迷いは不必要だ。
無駄な思い出は無い。だが、惨劇の記憶は、彼の脳裏に今もはっきりと鮮明に焼き付いている。
振り返れば、沈み行くような人生の記憶だけがあった。
――それは何故だろうか?
『アトゥスライアーの教えを信じた聖女は殺しやすかったでしょう?
でも殺して正解でしたよ、なんてったって私の忠実な下僕でしたから!
でもどうしてそれが、あなたに分かったのでしょうねぇ?
誰が手綱を引いていたのか、まるであなたは知っていた!』
彼は決して惑わない。
“目的のためには何をしてもいい”。
“何も知らずに邪神の教えを信じる者を殺してもいい”。
“復讐を遂げて素知らぬ顔で戻っても良い”。
人類の為になるなら躊躇いなくやれる。
“針鼠の肉屋”はその兜の奥の表情をピクリとも変えず、淡々と作業をこなし化身を殺し続けている。
化身は決して手強い相手ではない。厄介な攻撃は《影の投影》で肩代わりされ、それを突き抜けても《無敵》か幽星体で防御できる。ラッキーパンチは彼我の隔絶した技量差だとありえない。
『昂ぶるでしょう、憎悪が掻き立てられるでしょう!?
私をもっともっともっと楽しませてくださいよぉッ!』
虚空からの化身の流入は更に加速し、巨大に、太く、長く、無尽に湧き出した。肉の柱が更に天へと伸び、四つに分かたれて花開く。裂けてなお、各個の柱は小さくならず膨らんだ。
それらは蛇のように地を這い、宙で弧を描き、迂回して彼を包囲する。
狙いを分散させれば被害は結果的に抑えられる――ああ、そんな馬鹿な考えでNyarlathotepが動くわけがない。これは恋にも似た燃え上がる執着心の現れだ。彼の思考を一瞬でも長く独占していたいと、街への脅威をチラつかせる。
彼は石化と分解の鎚で肉柱の一本を一瞬だけその場に留めると、誘引の矢に持ち替え射て一本、肉体を近づけて黄金球の打撃で一本、片脚で蹴り跳ね上げて一本と、分散した肉柱を押し返す。
肉柱をある程度の範囲に――精々一キロ以内に――固めると、四本丸ごと燃焼の剣で根本から両断。そのまま圧倒的手数で蹴散らしていく。
それに負けじと化身もまた柱を四股に割く。彼が十六本を押し返すと、今度こそとまた肉柱が裂け、潰され、裂け、潰され――延々と続くにつれて彼の動きもまた加速していく。
彼は一時間もの間、無言で戦い続けていたが、化身は罵倒と《召喚》だけは決して絶やさなかった。
刹那の区切りが付き、肉柱が元の一本に戻る。
加速度的に増加していった消耗に悲鳴を上げたかと“針鼠の肉屋”は考えたが、化身は余裕の表情を浮かべ続ける。
それに、彼は疑念を抱いた。
問いただそうと思う程度には。
「貴様の戯言は無意味と知れ。今まで俺を見てきたのならば、その足掻きは――」
『*おおっと* やっと反応してくれましたね? ええ勿論、あなたを見てきましたよ』
{アトゥスライアーが消えてからは久しいがな}
[男子三日会わざれば刮目して見よ、と申しますが、益荒男であればあるほど昂りますわ]
「何を企む。言え」
『いえいえ、言ったじゃないですか。大駒が欲しいと』
「下らん。数だけは多い有象無象が」
“針鼠の肉屋”が相も変わらず無関心を貫くと、化身は口を大きく開けてこれみよがしに笑った。
『ぷっぷぷぷ……ふぐっくっくっぶっ……ふっはははは……ははははははっ! あ~っハッハッハ! 腹www筋www崩www壊wwwするwww』
{己の滑稽さに腹が捩れないのか? 知恵遅れの欠陥品の欠損品でもここまで愚かではないぞ!}
化身は皆一斉に笑い始めた。
愉快で愉快でたまらないといった風に笑い転げた。
笑って嘲笑って嗤って、その目に嗜虐心をたっぷりと湛えていた。
『何故あなたが眠りもせずに戦えるか!
何故あなたが満腹だけを必要とするのか!
何故子供が復讐だけを夢見て生きてこられたのか!
何故あなたが憎悪以外を感じないのか!
何故ェ!
あなたがっ!
一人で戦い続けなければならないのかッ!』
{答えは明白だ。そうだともなぁ?}
『そうッ!
他ならぬあなた自身が、全ては“針鼠の肉屋”が選んだことぉッ!』
「何を馬鹿な」
『忘れたんですよぉ、全ての記憶を胎内で!
全ての運命を放り投げた!
あなたが自ら捨てたんですよッ!
望んで止まない大切な物ォ!』
彼はそんな記憶は無いと、化身の言うことを切り捨てた。切り捨てたが、頭の片隅で何かが引っかかった。
銀髪褐色の化身は満足げに頷くと、たっぷりと勿体付けてから、パチンと指を鳴らした。
直後、魔法の雨霰を喰らっても微動だにしなかったあの“針鼠の肉屋”の身体が、糸が切れたマリオネットの様に落下した。




