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第九話 嵐の前触れ


 ペルティアの、否、ペイルティシアの元婚約者を奪った平民のアリスが居た。


 彼女の髪は艷やかな濡羽色であった。肌は瑞々しく左右対称の整った見た目――それは人間離れしている作り物のような美だ。


 より一層磨き上げられた美しさに、ペルティアはどこか空恐ろしい冷たさを感じざるを得なかった。


 だが、目を奪われるようなアリスの美貌に恐怖を感じる間もなく、ペルティアの心は怒りで満たされた。


 アリスの下には、折り重なるように息絶える人々が山のように積まれていた。


 死体はこの空間に満ちる冷気に当てられ、黒ずんだミイラのように成り果てていた。埋葬されることもなく、冷たい地下室でただモノのように。


 だというのに、アリスは死体の山の上に豪奢な椅子を乗せて、足を組んで微笑んでいた。そうするのが当然とでも言わんばかりに。


 一方で、片隅にはバニイル第二王子を始めとする六人の貴族が横たわっていた。彼女は彼らを「ハーレムメンバー」と呼んで親しくしていたが、実際にはただの道具扱いだ。


 今でさえ、棒を壁に立てかけるように寝かされている。


 およそ人を人として扱わぬ異常な場所で、アリスは真夏の太陽のように陽気な声でアズに話し掛けた。


「来たわね! あなたも主人公(プレイヤー)だったんでしょ? モブ連れて粋がって、私を苦しめてさぞ楽しかったでしょうね!」

「何の話だ」

「とぼけないで! 我が神Ratloypaneht様は最高の人生(シナリオ)を私にお与えくださった!」


 開きっぱなしの瞳孔には爛々とした狂気が宿り、彼女の視線はどこか宙空に向けられていた。アリスはそこにいる人間をまるで見ようともせず、被害妄想のように自分の頭の中で全てを完結させている。


 それを鋭敏に感じ取ったペルティアは、拳を固く握りしめて一歩前へ踏み出した。


「こんな狂女の戯言に耳を貸す必要は無い。アズ、アレは私が殺す」

「だというのに! あなたのせいで何もかも台無しになった! 第一王子と裏で取引をして私を嵌めたのよ!」

「黙りなさい人間未満! お前の如き外道に最早生きる価値は無い!」


「あなたが居なければ! 私は今頃この国の女王だったのよ!」

「痛みと後悔の中で死になさい」

「止まれ、ペルティア」

「何故!?」

「何なのそこのモブ女は!? うるさいから黙らせてよ!」


 死体の山から見下し喚くばかりのアリスは、最早誰かの眼中にない。


「お前が俺にそうしたように、俺は今のお前に危うさを見出したからだ。道を踏み外すな」

「……つまり」

「お前には、まだ生きているあの六人を守ってほしい」

「脇役風情が主人公(プレイヤー)様の前でいちゃついてんじゃないわよッ! もういいっ! あったまきた、殺してやる」

「戦いの余波に気をつけろ」


 アリスが椅子から飛び降りた瞬間にはもう、アズは彼女の目の前で黄金球の鈍器をフルスイングしていた。


 得物は頭蓋を砕き、目玉を眼孔から押し出し、身体を潰し、血潮を搾り取り、殺戮の力で全身をズタズタに引き裂いた。


「ごぼォ――――――――――――」


 突然の激痛にアリスの意識は加速し、アズの攻撃を朧気ながらに知覚することができていた。何とか攻撃に対応しようとするが、肉体が思考に追いつかない。


 そもそもアズとアリスでは時間の流れ方が端から異なるのだ。彼女が一秒間に一秒分動くとすれば、アズは九秒分動く。


 結果として、半身を潰されたアリスが飛び散る(・・・・)前に、アズはありとあらゆる方向から彼女を叩き潰して肉団子様に圧縮した。


「人間にしてはしぶとい」

「なッ――――――――――――」

「既に手遅れか」


 棒で球を打つようにアリスを殴りつけると、彼女は壁に血飛沫を散らしながら二度三度と壁から壁へ跳ね返ってアズの下へ戻り、再び殴り飛ばされた。


 そこから更に滅多打ちにされて床に叩きつけられると、小さなクレーターができた。


 アズは最早液状になったアリスを、乳棒で磨り潰すように丹念に床にこすりつけた。


 実時間でわずか二秒。


 ペルティアがハッと気づいた頃には、部屋中に血の雨が降り注いでいた。


 ヒトから出るにはあまりにも多すぎる血の量だ。


 ペルティアが心配して彼の方を見やると、アズがバラバラにしたはずの微細な肉は少しずつ集まって再生を始めている。


 血は無から湧き出し、肉も骨も人間の形を徐々に取りつつある。


「なんて生命力……」

「異次元から力が注がれている。だが無限ではない」


 アリスの再生は頭と上半身で止まり、中途半端に再生された背骨が剥き出しになっている。


 生物として死んでいなければおかしいが、それでも地を這ってアズの方から逃げる。


 ペルティアは今のうちに貴族の方へ歩み寄り、脈を計って生きていることを確認した。


「ごんな゛の゛っ……ぎいでないよぉお゛お゛お゛お゛! シナリオと違うもん!」

「シナリオとは何だ、Ratloypanehtの正体は何だ、貴様らは何を企んでいる」

「私じゃない! プレイヤーの癖にどうして私の邪魔をするのよおッ!? こんなの、こんな……あ、シナリオが、え?」 


 剥き出しの真皮を歪めて叫ぶアリスの顔が一瞬だけこわばった。


 それから呆けたような顔になって目に光が宿ると、もう一度発狂した。


「あ、ああ、あ゛あ゛あ゛あ゛! 嘘だッ! 嘘、うそうそうそ! あなた達誰なの!? Ratloypaneht様が私を見捨てるわけない! これはなにかの間違いだ!」


 ぼこり、とアリスの頭部に何かが盛り上がった。


 それは瘤のような大きな塊で、紫とカビのような緑色のマーブル模様であった。


 心臓のように脈打つ瘤はアリスの体中から泡のように湧き出し続け、彼女を覆い尽くしてどんどん大きくなっていく。


 ハーレム(・・・・)に《体力回復》の魔法棒と《癒し》の魔法棒で治癒を行うペルティアの前にアズが立ち、彼女たちをアリスから庇うように位置取る。


「アズ、これは一体……!」

「大量の邪悪な神の力と混沌が流れ込んでいる。凄まじい変異だ、剣を抜け、守りきれるか分からんぞ」


 どんどん増殖する瘤はやがてアズの背丈を追い越し、彼の二倍近い大きさに膨れ上がった。


 瘤からは芽が出るように何本もの触手が這い出てくると、それらは手と足を形成して首から上のない人型になった。


 全身を構成するのは触手だが、分厚い筋肉の鎧をまとっているような大きな肉体だ。


 体の中心にアリスの顔が幾つも浮き上がってくると、恍惚とした表情で彼女は喋り始めた。


『ああ――凄まじい力を感じるわ、これがRatloypaneht様のお力、神にも匹敵する究極のパワー。みなぎってくるの――』


 全ての目が見開かれ、アリスは口を揃えて叫んだ。


『私は全てを破壊するものよ!』





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