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クソゲーの『悪役』令嬢と『デーモンスレイヤー』  作者: 傘花
第二章 砕けぬ意思と戦いの日々
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第十話 人外への挑戦、竜窟スカム(1/2)


「アズ、“祈りを捧げる者達の(プレイヤーズ)教会(クレリック)”の本拠地が分かっていたりしないわよね?」


 冒険者ギルドから出たアズとペルティアの二人は、大通りの人混みに流されていた。


「目星は付けている」

「それなら、今すぐ乗り込んで――」

「まだ、だ」

「……どうしてかしら」


 敵の真っ只中に飛び込んで傷一つ無いくせに、と恨み言を一つ付け加えてジトっと見つめる。


 大抵の脅威なら、確かに、アズの前では塵芥に等しい。


「ペルティア、お前を連れて乗り込むには、十分だろう」

「ならば何故?」

「勘だ。お前はこの依頼(クエスト)に対して適正な実力(レベル)を持っているが、それでは不十分な気がした」

「……あなたの勘を否定するのって、ものすごく難しいと思わない?」


 “祈りを捧げる者達の(プレイヤーズ)教会(クレリック)”がまた何かやらかすかもしれない。


 カオスゲートの誰かの命が、手をこまねいている間にも奪われるかもしれない。


 次の被害者は二十八人どころでは済まないかもしれない。


 アズはそれを分かっていてなお、ペルティアを選んだ。


 本能的に、まだ踏み込むべきでないと気付いたから。


「論理的ではない」

「実力が保証しているわ、しばらく鍛錬ね。ところで」


 ペルティアが足を止めた。


 大通りだろうがなんだろうが、わざわざ彼女達の後ろを歩くような愚鈍で危機感知能力の無い人間はいない。


「どこに向かっているの?」

「これから間引きに行く」

「間引き? 何の?」

「ダンジョンだ」


 ダンジョンは、勝手に生えてくる。


 そもそもダンジョンとは、混沌から産まれ出たと言われるものだ。


 混沌(・・)から世界が産まれ、世界が混沌から産まれた以上、混沌というものが世界に何を放り込んでこようと止める術はない。


 だからといってダンジョンを放置すれば、1年弱で中から魔物が溢れ返り、地上を我が物顔で歩き回るようになる。


 東から来る混沌の軍勢というものはダンジョンから溢れた魔物であり、それに四苦八苦している現状、国内――ひいては人類の生存圏内でダンジョンを放置してよいはずがない。


「他の冒険者に任せないのかしら? あなたのことだから、それも成長に繋がるとか何とか言いそうですけど」

「駄目だな」

「何故なの?」

「間引けるダンジョンが少なすぎる」


「…………もしかすると、人類はかなり危ういのでは?」

「ついに気付いたか」アズが肯定する。

「……貴族時代が長すぎたかしら?」

「自嘲は止めろ。目に見えて分かる変化ではない」


 人類で見て、(インディゴ)級が九十三人、藍紫(らんし)級が十四人、(バイオレット)級が二人、紫白(しはく)級が一人。


 超級以上の冒険者が人類全体で百十人、冒険者ギルドに所属していない者を含めても四,五人程度の誤差。


 超級冒険者の数自体は大して変わっていない。


 だが、その質は四年前――アズが消えた後から急激に低下した。


 竜窟(りゅうくつ)や巨人の棲家、神の麓と呼ばれる超高難易度ダンジョンを間引き出来なければ、地上は恐るべき魑魅魍魎(ちみもうりょう)跳梁跋扈(ちょうりょうばっこ)する地獄と化す。


 物量や、勇気や、生贄や、対話や、慈悲による問題解決は望めない。


 迷宮産の竜と龍と巨人と亜神を殺せる超越者がいなければ人類はいともたやすく滅びる。


 だが、有象無象に群れる人外共が徘徊する階層を幾つもくぐり抜け、ダンジョンの最下層で主を殺し、迷宮核を持ち帰らなければダンジョンは消えない。


 二〇〇〇年以上続く人類の歴史から見ればたかが四年――その僅かな時間で並み居る強者達は死に絶え、弱者達が繰り上がるように超級冒険者になった。


「それで、どこのダンジョンに? 私が攻略できるようなものは粗方潰してしまったじゃないの」

「当然、竜窟だ」

「はい?」アズは言葉を続けた。

「今度ばかりは命の危険がある。短期に、急激に力を付ける方法で()って、実力を底上げする」


 アズが再び歩き出し、ペルティアが早足で追いかける。


「そんなダンジョン、攻略できるわけないわ!」

「そうだ、だが違う。今回行うのはドブさらい(スカム)だ。ペルティア、ダンジョンの出入り口に続く階層の数を言ってみろ、おさらい(・・・・)だ」

「……入り口からは三つ、出口からは無限。出入り口はあの暗黒の膜ただ一つ」

「そうだ。ダンジョンに繰り返し入ろうとも、三つの階層(マップ)に出るのみだ。最下層を除けば、ダンジョン内部では上下の階層に続く場所が必ず出現する。故に枝分かれした階層はほぼ無限に広がり、結果として出口は多くなる」


 地上からの出入り口は暗黒の膜ただ一つだ。


 しかし、地上からダンジョンに入った後、内部に広がっている地形は三パターンしか存在しない。


 例えば、「穴1」というダンジョンに入った時、第一階層の地形はA、B、Cのどれかになる。


 「穴2」に入ったとすれば、第一階層の地形はA’、B’、C’のどれかになる。


 各第一階層には上下に続く階段(・・)が存在するが、第二階層に下りて、下りた時とは別の階段(・・)から第一階層に戻れば、そこの地形はDやD’となる。


「本当に変なルールよねぇ」

「ダンジョンは混沌であるが故に秩序を内包する。今回はそれを利用する」

「どうやってやるのかしら?」


 カオスゲートを出ると、二人は草原をかき分けて南東方向に突き進む。


 前に立ち塞がる魔物は蹴散らして、求めるダンジョンは「No. 2 竜の巣穴」。


「入り口の暗黒膜に顔だけを入れ、感知して一体だけで孤立している魔物がいれば倒す」

「……アズ、無闇な出入りは冒険者ギルドで禁止されていたはずよ」

「確かに、繰り返せば目覚めたばかりの魔物に不意撃たれる危険がある。だが今回は別だ、使った後に片付ける」

「なるほど……?」アズは早口で続ける。

「竜窟とは言うが、竜以外も出る。倒す敵の狙いは絞る、それは教えよう」

「……狙いを絞って倒す、だからドブさらい(スカム)なの?」

「戦い、死線を越え、繰り返し、追い詰められ、お前が掬い取るものは千金にも値する。だが、多くの者は泥に沈むか血に塗れるかだ。故にドブさらい(スカム)と呼ぶ」



 竜を中心とした迷宮――通称竜窟はその名の通り竜が現れるが、それに匹敵する魔物も多く現れる。生半可な覚悟では一体たりとも倒すことは出来ないだろう。


 どれほど貴重なアーティファクトに身を包もうとも、マトモに攻撃を喰らえば死にかねない。


 装備による二重耐性とアイテムや魔法で付与する耐性を合わせた三重耐性がなければ、強力なブレスを食らっただけで即蒸発だ。


 ペルティアは身震いしたが、同時に闘志も湧いてきた。


 この期待の重さに応えた時、自分が掴むものは己に輝きをもたらすはずだ。夜明けに燃える太陽より眩しいはずだと、己を鼓舞した。


「聴いて、視て、勝て」

「……相変わらず、無茶ばかり言うんだから」


 二人が到着したのはポッカリと口を開けた洞窟、魔法の角灯(ランタン)で照らされた空間は薄暗い。


 求めたダンジョンは洞窟の横穴に広がっていた。


 ヒトの背丈より高く大人が二人両手を広げても足りない幅の横穴に、暗黒の膜は仄暗い輝きを放ちながら待っていた。


 ペルティアは魔法の角灯(ランタン)の感触を確かめると、生唾を飲んだ。


 彼女の脳裏にアズと初めて潜った時のダンジョンの記憶が蘇る。


 死に物狂いで戦って、実際に死ぬ寸前まで追い詰められた。


 それ以来、そのような自体には陥っていなかったが、命綱があるという安心があった。


 今度は違う。


 消し炭になれば、地面のシミになれば、塵一つ残らなければ。


 二度と助からない。


「ペルティア。ドブさらい(スカム)のやり方を説明しよう――」


 実力は付けてきた。


 装備は実力以上に強力なものばかりだ。


 アズも可能な限り助け舟を出す。


「――理解したか」

「ええ。やりますわ」


 ペルティアは新しいアーティファクト――祝福された『勇気凛々の』短剣《竜殺し》を構えた。


 力が無くとも攻撃回数をある程度確保でき、小さな傷を与えただけでアーティファクトに込められた『殺戮(固定値)』の概念が敵を裂く。


 本来であれば、ペルティアは純魔術師としての道を歩むはずだった。


『ペルティアよ、お前は“がまんづよい”。冒険者の健脚に追い縋り、精神力も申し分ない』


 混沌(カオス)の魔法を修める彼女が魔法一本に特化すれば、並の冒険者などあっという間に凌駕していただろう。


 だが、それだけ。


 頂点ではない。


 誰もが見上げる“一番星”ではない。


『しなやかな筋肉、素早い動き、タフな肉体、頭の回転の速さ。純魔術師よりも、手段の多い魔法戦士を目指すことが最も成長できる』


 困難な道のりだった。


 不得手な分野に手を伸ばし、成長を実感できないままもがく日々を過ごした。


 だがアズから差し出された手を離せば、今度こそ全てを失ってしまう。


 ペルティアにとって、先の見えない明日こそが乗り越えるべき闇であった。


 闇を切り開く篝火(かがりび)が彼で、その背に追いつき、立ち並び、未来の先にある景色を求めた。


 頂点から見下ろす景色、そこには『婚約者』でも『貴族』でもない生き方があるかもしれない。


 自分は何をするために産まれたのか、何をして生きるのか、その答えを探す。


(だから、もう負けない)


 覚悟を胸に、ペルティアは竜の試練へ挑む。



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