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クソゲーの『悪役』令嬢と『デーモンスレイヤー』  作者: 傘花
第二章 砕けぬ意思と戦いの日々
16/41

第六話 回想・アッテムトの虐殺(3/3)

グロテスク・残酷な描写に注意


 終わらなかった。


「やったぞぉ!」

「化け物が死んだ!」

「俺たちの勝ちだあああああ!」


 《暗黒の嵐》のせいで大勢が死に、周りの空間に空きができていた。


 その周囲の人間が歓声を上げた。


 熱狂は波のように伝わり、市民が押し掛けてきた。


 俺はロングソードとウォーハンマーを握り直し、飛び掛かってくる市民を薙ぎ払った。


 4123、4124、4125。


 彼らは皆一様に槍、折れた枝、レンガ、太い棒等をその手に持って襲い掛かってきた。


「どうなっ――」

「ぎゃ――」

「悪魔は死ん――」

「足が勝手にうご――」

「とめてく――」


 悲鳴も驚愕も嘆きも、全てが言い終わる前に途切れた。


 その中で、理解(・・)した市民が声を上げた。


「ふざけるなぁあぁあああああ!! お前が死ねええええええええッ!」


 4179。


「そうだ! お前が死ねばいいんだ!」

「騙したなぁあああああ!」

「化け物は死ね死ね死ね死ねしねぇぇええええ!」

「あいつを殺せぇええええ!」


 怒りと罵声で大気が歪む。


 溢れんばかりの熱気が湧き上がり、轟音耐性がなければ鼓膜が破れていた。


 それから、市民は非常に組織だった動きをした。


 俺に押しかける者、家を崩して石材を入手する者、長ものを輸送する者、投石する者、彼らは分業して一つの殺戮器官と成った。


 残り数千と数百余りの群衆が死兵と化し、本気で殺しに来た。


 《支配》はジャブツェルコが死んでも解けない。


 当たり前だ。


 奴とて掛ける術しか知らないのだから。


「死んじまえええええええええ!」

「うぉぉおおぉぉおおああああああ!」

「ああああああああ!!」


 三人の男が血塗れの槍を手に駆けた。


 4233、4234、4235。


 その直後に弧を描いて飛んできた拳大の石を得物で撃ち落とし、再び三つの死体を積み重ねた。


 4352。


 死体が百を超える頃には人間の手による投石が中断され、人の群れによる囲いが崩れて、スリングを持った者達が隊伍を組んで現れた。


 射線が俺を中心に交差しており、号令とともに無数の礫が放たれた。


 全てを捌ききれず、礫が体の上で弾けて意識が朦朧とした。


 俺が射列に飛び込もうとすると、武器を構えた者たちが捨て身で飛び込んで阻止してきた。


 4358。


 殺している間にも投石が行われ、味方の肉を貫いて俺に殺到した。


 《体力回復》を唱えるそばから凶器が降り注ぐ。


 防具で覆っていない箇所に命中すれば肉が飛び、そうでなくとも衝撃が伝わった。


それを耐えて、殺した。


 4431。


 不意に、投石が止む。


 気付いた時、俺は空高く舞い上がっていた。


 ジャブツェルコの召喚した下級悪魔(レッサーデーモン)が俺を抱えて飛び上がったのだ。


 肘打ちで拘束を緩め、素早く体を翻して叩き潰した。


 直後に別の個体が真上から飛びかかり、大地に叩きつけられた。


 体勢が崩れて足元が覚束ない。


 すかさずタックルしてきた市民の頭を潰すが、死体が密着して動きが鈍ると、人々が次々とのしかかりに来る。


 蹴飛ばし、振り払い、投げ飛ばすが、処理能力が追いつかない。


 4498。


「今だ! 崩せ!」


 地に伸びる影――家が崩落し、そこにいる者を巻き込んで瓦礫が降り注ぐ。


 数多の瓦礫に押し潰され、ろくに身動きが取れない。


 辛うじて生きているが、それでも身じろぎ、腕を動かした。


 俺に重なった人の、死にたくないという呻きが聞こえた。


 その最中、油が撒かれた。


「火を放て!」


 その合図とともに風を切って火矢が放たれ、炎上する。さしたる影響はない。


 潰れた者の断末魔の中、《テレポート》の巻物を起動し、瞬時にその場を離れる。


 4425。


 路地に飛んだ俺は、《体力回復》を唱えすぐさま大通りに飛び込んだ。


 浮遊して群衆の中心に分け入り、周囲の五、六人を殺して《テレポート》の杖を使って逃走し、殺した。


 繰り返して。


 4972。


 繰り返して。


 5173。


 繰り返した。


 6829。


 終わりが見え始めた所で、召喚された下級悪魔(レッサーデーモン)が雲霞の如くやってきた。


 数は百五十程度。


 空を飛び回り、俺の上に瓦礫を落とした。


 それと連携するように、武器を持った者たちが殺到する。


 彼らは一つの生き物のように、神懸かった指揮能力を持つ者に統率されたように、効率的に殺しに来ている。


 彼らは足止めをし、火力を投入する。


 俺は捕捉されないよう動き、削るように数を減らした。


 誰だって死にたくはなかった。


 俺■■て■し■■■■よ。


 7561。


 命が舞い上がる埃のように消えていった。


 その次には血と臓物が降り注ぎ、矢の雨が突き刺さり、鉄と石が全身を呑み込む。


 ヒトもエルフもドワーフも獣人も小人も妖精も下級悪魔も、別け隔てなく命を散らした。


 また夜が来て、殺した。9142。


 朝日が昇り、殺した。12868。


 昼が来て、終わった。


 14735と11。


 気付けば、武器を持つ者はあと一人だ。


 冴えない三十代のヒトの男。


 彼は血の池を踏みしめて叫んだ。


「だずげて、おねがい」


 彼の持つ剣を叩き折って、ロープを取り出す。


 意志に反して襲い掛かってくる彼の手をとって、地面に引き倒した。


 背中を足で抑え、ロープを、使おうとした。


 彼に頭はなかった。


 引き倒す段階で、反射的に薙いでいた。


 12。


 静かな、静かな、静かな都市。


 鳥の(さえず)り、虫の羽音、風の音、人の声、足音が、静寂(しじま)に消えた。


 終末が訪れたような静謐(せいひつ)にただ立ち止まり、《体力回復》を唱えた。


 すぐに、僅か十分ほどで、たったそれだけの時間の後に、人が来た。


 アッテムトに五人の冒険者が来た。


 《帰還》したあの冒険者が呼んだのだろう。


 不自然に開け放たれた正門から、メインストリートまで一直線にやってきた。


「おぇぇええええ、おぇ、げぇっ、ぺっ」

「うぷっ……」

「ひ、でぇ、お、おぇぇ……」


 全員がゲロを吐き散らす。


「こりゃヤバい、死体しかねぇ」

「早くディセンブルグに戻って知らせないと」

「元凶の魔物が居るかも知れない、気を付けろ」


 声を掛けると、女神官から《退魔》――アンデッドや悪魔にダメージを与える――を喰らった。


「■■■■」

「え、あ、はは……死ぬでしょこれ」

「矢ぁ何本刺さってんだ」


 全身鎧を着ているわけではないため、魔法的な防御があろうとも刺さる場所には刺さる。


 肩周り、胴体、足に刺さった鏃を引き抜いて、《体力回復》で全回復した。


 体内に残った釘や木材も肉ごと抉り出して、回復した。


 重さで動きにくいので、防具の中に溜まった血も外に出した。


「ああ、ぁああ! め、め、()だ!」

「ひっ! そ、それは!」

「8124の目だ」


 リーダーらしき男戦士が、一歩前に出て尋ねた。


「何があった、んですか? 生存者は?」

「――上級悪魔(グレーターデーモン)だ、殺した」

「え? じゃ、じゃあこの人達は全員、デーモンになにかされて?」

「俺が殺した」


 人型感知の武器に持ち替え、生存者を探した。


 冒険者のうち二人がディセンブルグに帰還し、三人が距離を開けて俺の後をつけていた。


 アッテムトを隅々まで歩き回って、少し大きな倉庫の中に存在を感じた。


 鍵を壊し、両開きの扉を開け放つ。


「くっ、臭い! なにこれ……」


 漏れ出た臭気に女魔法戦士と女神官が疑問を呈するが、男戦士は匂いに心当たりがついたのか、盛大に吐き散らす。


 埃っぽく汗のこもった匂いに、独特の淫臭。


 粗末な藁の上に、一糸まとわぬ妊婦が三十二人。


 歳も種族もバラバラだが、出産間近の妊婦と同程度にまで腹が膨らんでいた。


 誰も《支配》されていない。


 悪魔に犯された後、受精して胎児が急速に成長したようだ。妊婦は痩せこけて、顔色も悪い。


 凄惨な拷問の痕も見て取れた。


「こぉ……して……」

「ろしぇ」

「ほほひへ」

「して」

「ころし、て、くださ」


 悪魔の子を孕んだとしても生きて行ける。


 だが、彼女らは苦痛に耐えられなかった。


 近寄って、聞いた。


「目を瞑れ」


 外に運んで、誰にも見えない場所で介錯し、また聞いた。


「おっど、は、ぶじで」

「無事だ」


 また聞いた。


「わた、わぁしの……むす、こ」

「助けた」


 聞いた。


 聞いた。


 聞いた。


 みな殺した。


 最後の一人。


 年端もいかない彼女の眼には、意思があった。


「ころして……あいつ、ら、みんな……ころして……!」

「分かった。待て、神官を呼ぶ」


 外に待機している女神官を呼んだ。


「来てくれ」

「! はい、私に任せてくだ――」

「ぎゃぁあああぁああああぁあああああああああ!」


 急いで駆け寄ると、彼女の腹を突き破って小さな悪魔が現れた。


 潰した。


 すぐに*体力回復*の薬を振り掛けると、傷が全て元通りになった。


「……ほ、よかった、目が覚めたら私が話をしますね」

「死んだ」


 目蓋を塞ぐ。


「え?」

「死んだ」


 抱えて、太陽の下へ。


「……だ、だって、これ、あの水薬(ポーション)ですよね? 何でも治す、あの」

「44は死んだ」

「……」


 44。


 俺は孤児院へ行った。


 まだ一人生きていた。


 三人も付いてきた。


 壊れた扉から中に入ると、あの女冒険者が居た。


 頭の無い亡骸の側に寄り、血の海に座っていた。


「……よかった……アンタ、無事だったの」

「ああ」

「……弟は、駄目だったのね」

「ああ、3524は駄目だった」

「……聞かないの、あそこに居た子供達のこと」

「どうした」

「閉じ込めた。正気じゃなくなって…………それで」

「そうか。後で行く」

「うん……」


 女冒険者は3524の死体を見ていた。


「ねぇ、弟は……ロイスは、苦しまなかった?」

「ああ」

「それなら、それなら……」

「《解呪》の杖は返す」

「うん……その……ぇ、なんで? あ、これ」

「未使用だ」


 女冒険者は泣き始めた。


「なんで、アンタ、《解呪》使えない、でしょ?」


 語気が強まった。


「手遅れだった」

「何の魔法か知ってたの……わかんない、でしょ? そうでしょ!?」

「手遅れだった」

「使ったって言って、お願い……!」

「未使用だ」

「――――」


 女冒険者が俺を見ていた。


 真紅の目を覚えていた。


 涙が溢れ出ていた。


「あ、ああ、ああああああああああああ!!」


 彼女はレイピアを抜くと俺を突き刺した。


 反射的に振り払ってウォーハンマーで顎を強打し振り抜――かず、踏み留まった。


 得物からは酸が飛び出して彼女の顔を焼いた。


 女冒険者は血の海に転がり、肌が焼け爛れようとも叫んだ。


「おまえがッ! どうして殺したァァァァアアアアアアアアッ!!」


 我武者羅に飛び込んでくるが、見ていた3人の冒険者が止めにかかった。


「ちょ、ちょっと何やって……」

「人殺しッ、人殺し人殺し人殺し! 何で殺したなんでなんでなんでなんでおまえがころしたんだぁぁああああああああああっ!!」

「手遅れだ」

「ふざけるなぁぁアァぁああっぁアあああぁあ"あ"アアあ"あ"あッ!!」


 羽交い締めにする冒険者を振りほどき、彼女は何の効果もない短剣を抜いて、縋り付くように俺の足を深く刺した。


 何度も刺した。


 何度も、何度も、何度も、涙を流して、そして力無く項垂(うなだ)れた。


「どうして……っ、うああああぁぁ……」

「……水薬(ポーション)を」


 差し出した瓶は振り払われ、地面に落ちて割れた。


「そうか」

「っく、ああぁぁ……なんでよぉ……っ、しんじてたのにっ……」

「■■■」

「返して、かえしてっ……! たった一人の家族だったのに、どうしてぇ」

「■■■■■」


 ディセンブルグから兵士が来るまで、俺達はここに居た。


 14735と44の命は消え、4人の生存者と3人の子供の生還者が出た。


 俺はこの後も都市を三つ滅ぼし、合わせて68961と3582の人を殺した。


 次は。


 次こそは。


 ■■■■――。


***


 記憶は一瞬で過ぎ去った。


 アズは過去の夢を見ない。


 アズは未来の夢を見ない。


 ただ記憶を思い出すだけ。


 彼は隣のベッドに眠るペルティアを見た。


 寝癖が悪く、体が布団からはみ出ている。


 アズは布団をかけ直し、彼女の端正な顔に手を伸ばした。


 その手が血で汚れていた――そんな気がしたので止めた。


(またこの女も死ぬのだろう)


 都市が燃え、人が死に、悪魔のある一族が死に絶えた時。


 その最中でアズは、人類絶滅の夢を見た。


 流星のように燃え尽きたペルティアの最期を見た。



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