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自由の商人エヴァンス物語  作者: 橘 六六六
六章 ゲンシュタット帝国
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【93】あの日の銀貨




 ラミザスが立ち上がるとルナフレアが発言した。


「それでしたらわたくしがドルトリア王国との休戦和平協定を結んでおりますので、フランティア公国への侵攻へは影響は無いと思いますが。」


するとロードレインが


「地理的に軍略としてドルトリアが壁になっていることも気付かないのか。これだから女って奴は...... 。」


「わたくしの前でも男が女より上だと思いたいのですか? リシュテルごときを攻めあぐねるロードレイン公。」


そう言ってルナフレアは魔石の埋まった杖を向けて凍り付く様な冷たい眼でロードレインを睨み付けた。するとロザンが手を叩いて笑いながら


「ルナフレア公の魔法はゲンシュタットでも指折り、ロードレイン公も言葉を誤りましたな。それでは会議向きに千日手(せんじつて)のロザンの話しは如何でしょうか? 先程名の上がったカモミールは病に伏しております。そして先日入った情報ではワルキュリアはポンドゥロア公国の新しい公爵リシュタイン=リーベルと恋仲になりポンドゥロア公国に居ると聞きました。そしてルナフレア公が休戦和平協定を結んでると言う事は絶好ではございませんか。」


ラミザスは振り返り不適にニヤリと笑うと


「有意義な会議であったぞロザン。お前に指揮を任せる。」


窓の外は暗雲立ち込め、稲光りが不適に笑むラミザスの顔を照しゲンシュタット帝国の会議は幕を閉じた。



▽▲▽▲



 エヴァンスは市場でミカンを見付けて一袋買うとドルトリア城へと向かった。最近のエヴァンスの評判から、ダージリン=ドルトリアはエヴァンスを城へと通した。そしてエヴァンスはミカンの袋を見せて


「この艶の有るミーガンを見たら、どうしても病に伏したカモミール様に食べてもらいたくてですね。今の俺だったら会わせてくれますか? 」


ダージリンは軍刀を床に突き、表情を変えずに瞼を落としながら


「あの日のお主と違い、このドルトリア王国へ寄与する今のお主なら我が祖母カモミール=ドルトリア様も少しはお慶びになろう。付いて参れ。」


そう言って稀代の女性軍人ダージリンはエヴァンスをカモミールの部屋へ案内した。そして


「もしお主が妙な事でもしようなら、即刻斬り捨てるからな。」


カモミールの部屋へと通され、エヴァンスはこの異世界に来て丸裸にされた時に2枚の銀貨をくれた恩人であるカモミール=ドルトリアと8年振りの再会を果たした。


 広く大きく柔らかいベッドの上で横たわる女性は老いながらも美しく気品に溢れて、エヴァンスはすぐにあの時の貴婦人だと判った。そしてエヴァンスはベッドの横へ行き、頭を下げると挨拶の言葉が出る前に


「あら、あの時の裸んぼの坊やね。大きくなったわね。」


そう言って手を伸ばしてきた。エヴァンスは懐かしさと共にカモミールの手を握り


「はい。貴女のお陰で今や長者番付に載る程に。」


「そう。それは良かったわ。たったの銀貨二枚が多くの民へ広がったのね。」


「ええ。たくさん。たくさん。」


そう言ってエヴァンスはカモミールの手の甲にキスをするとゆっくりとベッドへ下ろし、カモミールは柔らかな笑みを浮かべた。するとダージリンはエヴァンスへ椅子を渡して


「腰を下ろしてゆっくりと話しに付き合ってくれ。」


そう言って退室した。エヴァンスは


「市場で美味しそうなミーガンを見付けたら貴女の顔を思い出したので挨拶に来ました。」


ミカンを袋から取り出して皮を剥いて房から外してカモミールの手の平の上へ渡すと、カモミールは一粒のミカンを陽に透かして見詰め


「お日様をたくさん貯えて元気になりそうだわ。」


そう言って口へ入れると、もう一度手を差し出して


「美味しいわ。もう1つ頂戴。」


「ええ。お好きなだけ。」


エヴァンスとカモミールの時間はゆっくりと流れカモミールは嬉しそうにエヴァンスと出会った日の事を話した。



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