【76】久しぶりのドルトリア
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朝になると港に魔導船が到着し、エヴァンス達はその船に乗船した。空と陸の移動ばかりであったエヴァンスにとって潮風を浴びながら海面を進む船旅は新鮮で心地好いものであった。魔法の力で進む船は魔導船と呼ばれ海流から海流へと渡る時に魔力によって航路を変えて進む船であるが、普通の船に比べて僅かに早い程度でのんびりとしていた。
魔導船の中ではクラビィは乗り物が好きらしく、エヴァンスに船の説明をしてくれていた。エヴァンスはそんなクラビィに空飛ぶ戦艦の話しをすると、目を輝かせて興味を持っていた。しかしそんな楽しい船旅もすぐに状況が変わり、エヴァンスは船酔いで海に吐いてゲッソリとしていた。夜に来る凪ぎに入ると船室で眠り、昼になると船酔いに襲われる。そんな4日間を過ごしてやっとの思いでフランティア公国のマリシア領へと到着した。
エヴァンスとスパイダーは陸地に辿り着くと船旅の疲れからフラフラと倒れ込み、心配したスペーディー達は二人を連れての移動は難しいと考えマリシア領の宿に泊まる事にした。宿に着くと疲れからエヴァンスとスパイダーは一歩も動かずに眠りに着いた。
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次の日になると、エヴァンスとスパイダーも回復して朝食を取れる程になっていた。朝食にはパンと魚のスープを食べるとエヴァンス達はマリシア領の街を歩いて見学をしてみた。マリシアの市場へと行くと、子供の時にお世話になった露店商の巨漢トルポと出会った。最初は大人になったエヴァンスに気付かなかったが、話し掛けると昔を懐かしみ、握手をして二人は別れた。
そしていよいよエヴァンス達は、マリシア領を離れてドルトリア王国へと向かった。ワルキュリアの居ない移動は度々魔物に襲われたが、スペーディー達が退治しながら男とか夕方までにドルトリア王国へと辿り着いた。
ドルトリア王国へ辿り着くと、急いでモンパカ交易社の金庫屋へと向かった。
金庫屋へ着くとローバインが指揮を取りながら会社は安定して商売を続けていた。エヴァンスを見るとローバインは喜び話した。
「お久しぶりですねエヴァンスさん。お陰様で五酒豊祭は楽しめましたよ。ワルキュリアさんもポンドゥロア公国の領地を取り戻して仕事に復帰していますよ。それからはポンドゥロア公国とバスキリア帝国との交易も順調ですよ。所でご一緒の方々はどちら様でしょうか? 」
「おお流石ローバイン、順調で何より。あれから北の大陸に行ってさ。新しい事業を展開するための従業員を確保したんだよ。」
「この側面で新しい事業とはエヴァンスさんこそ流石でございますよ。」
「いつもの通りだよ、ポポロ達の帰社はいつ頃になりそうか? おっとそうだ一応コイツ等を紹介しよう。こっちの髭面がスパイダー=ジョナサンって発明家だ。そしてこの赤い髪の男がスペーディー、水色の髪がダイヤン、若草色の髪ががハートゥ、こっちの黒髪の女の子がクラビィだ。」
とエヴァンスは簡単に皆を説明した。ローバインは説明と同時に皆の名前をノートに記載して覚えた。しかしいきなり従業員にされたスペーディー達は少し慌てたと同時に、憧れていたエヴァンスの会社の一員にされた事は悪い気はしなかった。するとスパイダーは
「エヴァンス君。金庫屋とはさては君はこの世界に銀行を創ったのか? 」
「流石スパイダー。そうだよ。今は預かるだけだが、そのうち皆が気付くんだよ。重い貨幣を大量に持ち運ぶよりも、金庫屋の預り書で取引が出来る事を。そうすりゃこの世界でうちの預り書は紙幣として力を得るんだ。」
「なんと呆れた男だ。そんな君が私に何をさせるのか気になるよ。」
そうエヴァンスとスパイダーは笑顔を向けあった。しかしローバインを含めて他の皆はエヴァンスのやっている大それた事をまだ理解していなかった。




