【75】アルスガルディア渡航譚
エヴァンス達は晩御飯を取る時も話しを続け、三変人と呼ばれる者達の事にも言及した。エヴァンスはスペーディー達にこの世界とは別の成長を遂げた世界の話しをして、スパイダーが何らかの影響でこの世界へ飛ばされた事の推察を説明した。スペーディー達からすればその事は素っ頓狂な話しではあるが好奇心をそそられるものでもあった。特にハートゥはその話しに興味を持ちスパイダーに質問をした。
「スパイダーさんの居た世界では魔法は無かったのですか? 」
「ああ、無かったよ。その代わりに私達は学問を発展させて沢山の力を得ていた。」
「魔法も無いのに空を飛ぶことも出来たんですか? 」
「推進力と揚力を利用して鉄の塊も飛ばしていたよ。こんな火を使ったランプではなくて、クラビィ。君が起こす電気の力を使って様々な物を手に入れていたよ。」
スパイダーの話しはとても魅力的で、その世界を知っているエヴァンスですら感心する程だった。ダイヤンはそんな話しを聞きながら
「スパイダーさんの話しは例えおとぎ話だったとしてもワクワクするよ。」
なんて事を言っている具合だった。エヴァンスはビールを飲みながら
「事実であってもおとぎ話かよ。」
と少し寂しそうな顔をしながらも、三変人について話しをした。そしてその中でもオーヴ=カーターは医者か薬剤師で、サクジュ=ヨシノについても話したが答えは出なかった。フロイツの書いたアルスガルディア変人偉人伝の話しは盛り上がり西の大陸や東の大陸の話しには、エヴァンスもスパイダーも食い付いた。この世界を知りたいとのリクエストについてはダイヤンが答えた。
「この世界はアルスガルディアと言うんだ。スパイダーさんの言うEARTHってヤツだね。そして今居るのが北の大陸。そしてエヴァンスさんの居たのが南の大陸。その他に東と西にも大陸が在るんだ。」
「私が世界だと思っていたのは北の大陸だった訳だ。しかし私はこの世界に来て、初めてまともに人と会話をした気がするよ。君達に感謝したい。」
「俺たちだってスパイダーさんと話せて嬉しいんだよ。スペーディーやハートゥは人に興味を持って旅に出たけど、俺は世界に興味を持って旅に出たんだ。」
そう言ってアルスガルディア変人偉人伝とは別の本を取り出してエヴァンス達へ見せた。その本の名前は『アルスガルディア渡航譚』と書かれていた。そしてダイヤンはビールを飲みながらエヴァンスとスパイダーに話した。
「この本は変人偉人伝とは違い。アルスガルディアの土地について冒険譚として書かれているんだ。東の大陸の端に在るヒノモトって島国なんて不思議でしょうがないよ。」
「それもフロイツが書いたのか? 」
「いやこれは違うよエヴァンスさん。この本の作者はそのヒノモトって島国のツラユキって人が書いたんだ。俺はそのヒノモト出身のツラユキに会ってみたいんだ。」
「そうか。ツラユキか、聞いたことが無いな。それで? 」
「この本の最後の方で、このツラユキは偶々海流から外れて知らない大陸に辿り着くんだ。その大陸は東西南北どの大陸とも違いツラユキはこのアルスガルディア以外にも世界が在る事を記しているんだ。」
そう話すと、エヴァンスはそのアルスガルディア渡航譚に興味を持ち、後でダイヤンにその本を借りる事にした。この世界に知らない事が多い事を知り、エヴァンスはニヤニヤしていた。そしてゼットフォンの開発者であるスパイダー=ジョナサンが仲間に加わる事で更に商売の幅が広がる事を考えた。そしてフロイツは必ずこのアルスガルディアの中で自分以上の商売をしている事を思うとエヴァンスは嬉しかった。
エヴァンス達は酒と話しが進み気付けば真夜中になり、各々の部屋へと戻り休む事にした。




