【3】ドルトリアガニ
しかしエヴァンスは酒を飲みながらふと思った。このローバインと言う杓子定規を思わせる堅物そうなこの男。何だかんだと言いながらも、さっきから酒ばかり飲んでいる。
(もしかしてコイツも俺と同じでダメ人間なんじゃないか? )
そう思いながら、ローバインの持ってきたブランデーを水で割りながらズズッと音を立てて飲んでいると次第に皆酔い潰れてしまい。エヴァンスは
「気の利いたツマミの一つでも欲しいな。」
そんな事を言うと、スクッと立ち上がり。そのまま市場へと出掛けた。
市場では夕方であるにも関わらず多くの人通りと商いの掛け声が響き、エヴァンスはなんだかテンションが上がり
「儲かってまっかー? 」
と、露店商に絡む始末であった。たまたま話した露店では網の中に大量のサワガニが入った物を売っており、店主に訊ねればドルトリア川で捕れるドルトリアガニと言う事で。エヴァンスはそれを指で突っつくと、ドルトリアガニは網の中から必死にハサミで指を挟もうとした。エヴァンスは笑いながら
「このカニは活きが良いね。どうやって食べんだ? こんなに小さいの。」
「兄さんお目が高いね。このカニは油で揚げるとサクサクしながらもジューシーで美味しいんだよ。銅貨3枚でどうだい? 」
店主はそう言うので銅貨3枚でドルトリアガニを一袋買って家へと戻った。袋に入った蠢くカニを見ながら
「しかしコイツ等も、生きたまま油に落とされるなんて少しは可哀想なものだな。出来ればコイツ等も自由に生きるべきだよ。」
酒に酔ったエヴァンスは変なスイッチが入りながらフラフラと家へと辿り着き、酔って寝ている3人を見ると
「ローバインは真面目過ぎんだよ。コイツに自由の魂を分け与えてやるよ。」
そう言って、寝ているローバインのズボンのベルトを外してパンツの中にドルトリアガニを放ち
「イエーイ! 自由だ! コイツはチビだから背が伸びるようにっと。」
そしてポポロのトンガリ帽子の中にもドルトリアガニを放ち、次にワルキュリアの胸をジーッと見て
「この凶悪なおっぱいにも自由を! 」
そう言って、ワルキュリアの胸の谷間の中にもドルトリアガニを放ち。エヴァンスは大変満足そうな顔をするなり
「これでカニもこの3人も自由だ。」
ガッツポーズを取り。そしてまたフラフラとガルボの宿屋へと向かって陽気を撒き散らすように出掛けて行った。
それから数分後に、ローバイン、ワルキュリア、ポポロの3人は各々の箇所をドルトリアガニに挟まれて飛び上がり叫び声を挙げた。そして3人でカニを取り合うが、カニは思いの外に強く挟むので3人はその度に飛び上がり。特にローバインのパンツの中は酷いことになっていた。
エヴァンスはそんな事も露知らず、ガルボの宿屋で一人陽気にビールを飲みながら
「自由とビールに乾杯。」
と、知らない客と飲んでいた。エリナとガルボは呆れて見ているが、そんな事よりも堅苦しい話しも無く飲めるビールの旨さにエヴァンスは上機嫌である。この世は花の儚さよりも酒池を目指して踊り狂えと豪気にビールを煽っている。
しかしその上機嫌も長くは続かずに、ローバイン、ワルキュリア、ポポロの3人がガルボの宿屋のドアを開けてエヴァンスを見ている。エヴァンスはテーブルに銀貨1枚を置き、そろりとトイレへ逃げ込みそのまま窓から抜け出して家へと帰り戸に鍵を掛けて眠りについた。何者かが戸を叩く音と怒号が時折耳に入るが布団に潜ってしまえば然程気にもならないので、そのまま布団にくるまり
「あっ、ドルトリアガニ食べれば良かったな
。」
と呟いたが今は兎に角眠りたいので、布団の中で足を擦り合わせたり体をもぞもぞと動かしたりしながらも目を瞑り。モンパカにルナフレア=ゲンシュタットと二人で跨がり爽やかな草原を走る妄想をしたりしながら安眠に至った。