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自由の商人エヴァンス物語  作者: 橘 六六六
三章、モンパカ交易社拡充
63/109

【58】ロマンチストポエマー




△▼△▼



 ポポロとローバインへ休暇を与えたエヴァンスであったが、自身は金庫屋を兼ねる事務所へと戻り書類や金庫の中に目を通していた。そして一通り目を通すとドルトリア王国の城壁外のドラゴニアの丘に在る牧場へと足を運んだ。


 日頃移動をポポロに頼ってばかりのエヴァンスにはなかなかの距離でヒイヒイと汗を流しながらドラゴニアの丘へと向かった。昼前には牧場へと辿り着きその頃にはエヴァンスはすっかり疲れ果てていた。牧場では3人の従業員が作業をせずに馬房の前で立ちすくんでいる。


 エヴァンスはその姿を見て疲れているが、休むこと無く3人に近寄り話し掛けた。


「お前達どうしたんだ? こんな所で立ち尽くして。」


そう話し掛けたが、エヴァンスとその3人は会った事は無く、その3人は突如現れた若い青年を不審に思い


「また知らない奴が来たよ。今日は変な奴が多い日だな。」


そう言ったのは体格の良い髭面の男で、顔の下半分は髭で覆われている30代の男であった。そしてその右横には痩せた大人しい長髪黒髪の若い男、そしてその更に右隣に金髪のくせっ毛の若い女が居た。エヴァンスは直ぐに自分に気付いて居ない事を知り


「ああ、お前達は初対面だからな。俺はモンパカ交易社社長のウォーレン=エヴァンスだ。毎日ありがとうな。」


そう言うと、先程まで悪態をついた体格の良い髭面の男は驚いた顔をして


「あんたが社長のエヴァンスさんかい? 若いとは聞いていたけどこんな優男だとはね。私はこの牧場作業を任されているイノーグって言うんだ。」


「じ、自分はネズトって言います。エヴァンス社長。」


と続けて長髪黒髪の痩せた男も挨拶をした。そして遅れて金髪くせっ毛の若い女も


「はじめまして。私はウシルって言うの。」


そう3人の自己紹介を聞いてエヴァンスは訊ねた。


「イノーグに、ネズトに、ウシルだな。覚えた。で、こんな所で立ち尽くして何してんだ? 」


「それがよぉエヴァンスさん。新しくモンパカが入るって聞いて馬を移動して馬房を掃除してたら藁の中で変な男が寝てんだよ。訳の解らない事ばかり言ってよ。」


イノーグがエヴァンスの問いに答えると、エヴァンスは3人を押し分けて馬房の中へと入った。馬房の中に藁が盛り上がった部分があり、そこから


「どうせ生きてる価値もねえんだ。いっそ霜雪の様に陽に溶かされて、淡く虚ろなるままに消えちまいたい...... 。」


なんて男の声で陰鬱な呟きが聴こえてくる。エヴァンスはそれを聞いて


「何で馬房にロマンチストポエマーが居るんだよ。ここはモンパカが入るんだよ。」


そう言って藁を掻き分けて中から男を引き摺り出すと紫色のマントを羽織ったボサボサ頭の黒髪で不精髭を生やしたやつれた男が出てきた。エヴァンスはその男へ


「紫色のマントってなんだ。お前魔導師の類いだろ? こんな所で陰鬱なポエム撒き散らしてんじゃないよ。」


そう冷静に言うと、男は


「この紫色のマントは召喚師の証です。今日日使い勝手の悪い召喚師なんてのは、馬よりも役立たず。畜生よりも劣る身で明日の光も見えませぬ。」


「悪いのはお前だ。役なんてのはてめえで勝手に決めるものだ。それが出来ないなら使われろ。おい、召喚師。お前の名前はなんだ? 役立たずでも名ぐらい有るだろ。雑草にだって名前は有るんだ。」


「おいらですかい? おいらは召喚師ブラック=パピヨンって言いまして、ぺんぺん草より役に立たないこの世に見捨てられた男でございまさぁ。」


「世の中なんて知るか。お前が勝手に世の中に絶望しているだけだろ。まあ、どうせ腹減ってんだろ。来い。」


そう言うとエヴァンスはブラック=パピヨンの襟首を掴んで馬房から引き摺り出した。ブラックは無気力に引き摺られながら陽の当たる平場へと移動した。そして牧場勤務の3人もそれに続いた。




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